20150814

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その4

色々と今年のフジロックについてレポートする記事がネット上に続々あがってきましたね。
テキストではどのようなレポートが出てくるでしょうか?
今年は確かに転換期かもしれません。
とにかくリスナー、ミュージシャン、フェスの三位一体によるポジティブな動きが望まれます。
そんなリスナー目線の動きをつたえるこの企画も今回で最終回。
ちょっと読んでみて深ーく考えてみませんか。
んじゃ今度は私サマソニ行ってきますよ!


RIDE


Day3:GREEN STAGE
ライター:中畑 琴絵

「再結成を待望んだファンのための演奏」

死ぬ前に見たいバンドのひとつ、それがライド。奇跡の再結成を果たしたシューゲイザーを代表するバンドだ。アンディ・ベルとマーク・ガードナーの不仲説やビーディ・アイの解散後、その動向は多くの音楽ファンをヤキモキさせた。2015年、待ちに待った再結成。その公演が日本で行われるとは、何とも言いがたい喜びと不安感が胸の中に混ざりあっていた。そんな不安感など一蹴したステージで、苗場にいた人々は彼等が隆盛を極めた90年代前後にトリップした。
私は彼等が活躍していた時代は物心がついたかついてないかの幼少期だった。リアルタイムで聞いていた世代ではない。音源を聞いて思いを募らせていただけに、「Leave Them All Behind」や「Seagull」のイントロだけで、ヒートアップ。もちろんビールが進んだ。
フジロックで見せたマークの満たされたような笑顔が全てを物語っていた。バンドの不仲説をはじめとしたいくつもの困難を乗り越えたのだと思う。色褪せることのない演奏を望んでいたファンにとって期待以上のステージだった。ファンのために再結成したと思わせざるを得ない。彼等のまっすぐな気持ちが胸を打つ。新曲を作ることは未定とのことだが、次回作に期待が高まる一夜だった。
(文:中畑 琴絵)



ORANGE COURT


Day2:Ex.ORANGE COURT
ライター:shoshoshosho

 

2日目になっていよいよ、オレンジ・コートの不在が大きく立ちあらわれている。僕にとって11回目のフジロック。例年、フィールド・オブ・ヘヴンとオレンジを幕あいごとに行き来し、ファンク、ブルーズ、あるいは(いわゆる)マイノリティ・ミュージックに囲まれながら3日間の大部分をすごしてきた。いとしのオレンジはいつだって、「ここでなければ出会えなかった」音楽にあふれて、自由でゆたかな時間を僕に与えてくれた。
ロック・フェスティバルが生きものなのだとしたら、19年目のフジロックはとっくに老年期を迎えているのかもしれない。いつまでも拡大と成長をつづけることはできないし、健康状態に合わせて今回のような「手術」だって必要だろう。もちろん、年をとること老いることは生きものの特権でありうつくしさだ。
オレンジの跡地でキャンプ・ファイヤーをした。たきぎは老朽化したボード・ウォーク。かつて歩いた木々に火をともす作業はどこか感慨ぶかく、参加者たちは思い思いにやぐらを吹き扇いだ。ようやく着火した空にはみごとな夕焼け、天も地もぼくらの顔もオレンジに染まり、気の利いた告別式のようだった。みんなでかこむ炎が2日目のベスト。オレンジ・コートよ、今までありがとうございました。

(文:shoshoshosho)

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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介致しました。次回の更新もお楽しみに!

20150810

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その3

リスナーの皆さん熱中症に気をつけて!!
アーティストの皆さんも稼ぎ時ではしゃぎ時だけど、身体に気をつけてステージの上で名演を!!
いくつかのフェスでのラインナップの変更のお知らせをみて思ってしまった次第です。
レポート第三弾暑い場所涼しい場所選ばず読んでください。


FKA twigs


Day3:WHITE STAGE
ライター:梶原綾乃

フジロック最終日、我々よりもアーティストが踊った夜

 なんといってもFKAtwigsが最高。彼女を観るために苗場に行ってよかった。
 私は彼女に対し、ダンサーを率いて、きらびやかな衣装を身に纏い歌う…そんな海外セレブ・アーティストのようなイメージを抱いていた。しかし彼女は、ダンスも華やかさもすべて自身で持ち合わせている、とてつもないパフォーマーだった。歌手というよりも、コンテンポラリー・ダンサーだろうか。
 そのダンスは、Siaのプロモーション・ビデオで有名なマディ・ジーグラーを彷彿とさせる。手先の細かい動きが多いマディに対し、FKAは全身でダイナミックな表現だ。一見別物なのだが、体の内側が溢れだす感情を見事に演じきっているという点では、同じエネルギーを感じた。彼女の口からは、上質な絹の糸のように、すらっと細い声が。特に「Two Weeks」のリズミカルかつ艶やかな発声は美しく、魅了されるという過程を通り越して、思考がストップしてしまったくらいだ。
 今年のフジはRäfvenやTXARANGO、Drakskipなど、思考を止めて、バカ騒ぎできるアーティストが多かった。しかし、めちゃくちゃ踊っているこのアーティストもまた、我々の思考を止めて、心の中を騒がせた。
(文:梶原綾乃)



FKA twigs


Day3:WHITE STAGE
ライター:モリティ

ホワイトに降り立った巫女

 正直、FKA TwigsをMVから入ってしまった私は、その身体を使ったセクシュアルすぎる表現が苦手であった。一応3日目ホワイトのヘッドライナーだし見ておこう、くらいの気持ちだった。しかし、彼女のパフォーマンスは私のフジロックのベストアクトになるくらい初見の印象を凌駕するものになった。
 夜の霧が立ち込めるステージの中、FKA Twigsの存在はMVで見るよりもはるかに小さくて、でもとてもしなやかな女性だと思った。ビートのようでビートでないようなトラックに、電子パッドのドラムから打ち放たれる音が曲の局所に響く。それに合わせて彼女のダンスはときにメリハリを持ったり、ぐにゃりと身体を波のように揺らがせたりしながら舞台を行き来する。その姿はとても小さいが、全体に響く曲と曲に不規則に乗りながらも神秘的に聴こえる歌声が、彼女の姿を何倍にも大きくさせる。この生身の姿あってこそ、彼女を語る上で取り上げられがちなビジュアルやMVの要素が更に彼女の存在感を何倍にも高めているのか。
 最後に少しだけMCで喋ってはじめて歌以外で放たれる声を聞いた。恐ろしくキュートな女性であった。こんなギャップ見せられたら、好きになってしまう他ないでしょう。
(文:モリティ)

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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介していく予定です。その4をお楽しみに!

20150807

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その2

夏フェスシーズンもいよいよ盛り上がりまくりの最高潮。
ROCK IN JAPANは2週目、RISING SUNやサマソニもそろそろですね。
皆さん、夏の思い出とBGMはまだまだつくれそうですか?
そんなことを思いながらレポート第2弾です。


Räfven


Day3:Gypsy Avalon
ライター:板垣有

音楽ってこれほどまでに楽しい!

 苗場は3日目。酷暑をやり過ごして夜へと向かう19:00ごろのアヴァロンは、ごった返していた。09年には入場規制がかかったほどの人気者・レーヴェンのお出ましだ。本人たち曰く「東欧音楽+スウェーデンのフォーク+パンクの精神」という音楽性。個人的印象としては北欧のケルト音楽、アイリッシュ・パンクの要素、最も大きいのは中欧~東欧で生まれたポルカの要素。フロッギング・モリーやゴーゴル・ボルデロ周辺がお好きな方は、必ずや気に入るはず。ブルガリアン・タンブラという弦楽器を使っており、哀愁のフォーク色を加えている。
 ノリノリで踊れる曲のオンパレードに、筆者も思わず反応。会場の圧倒的な一体感!誰もが音を楽しみ、どの顔も嬉々としている。「true loveのことを歌うよ」と、ヴァイオリニストが前置きした曲はワルツのようなバラード。ストリートで演奏してファンを増やしていったレーヴェンだが、独では演奏NGと言われたこともあったとか。バンドからは「10月にまた来るよ!」とのサプライズも。「面白くなかったら返金するから、CD買いなさい」。もちろん、購入。完売。だが正直、このバンドは音源よりはライヴがオススメ!
(文:板垣有)


Hudson Mohawke


Day3:WHITE STAGE
ライター:森勇樹

若き会心の一撃、苗場の夜に炸裂

 未踏の地だった苗場へ参加できたことが何より嬉しかったというのがまず一番の感想です。音楽を教えて連れて行ってくれた先輩方、ありがとうございます。
 ceroがバンドとして鳴らすファンクで晴天に向けて手を挙げ、ウィルコ御大のマシンガンギターに撃ち抜かれ、FKAツイッグスの壮絶なステージングに茫然とし、と挙げればキリが無いのだが、筆者はハドソン・モホークをベストアクトに挙げたい。
 闇夜のホワイトステージに立ち込める白煙と要塞のようなセット。そこから発される重低音は全身に音圧を浴びせ、ステージからの音塊はオーディエンスを掌握していた。恥ずかしながら筆者は初見であったが、空間を埋め尽くす重低音に腰かけていた椅子から思わず立ち上がり、腕を振り上げ心身共に躍る興奮を覚えた。
 そしてこの破裂せんばかりのビートトラックの全て人力だったということは特筆しておきたい。音源では打ち込み主体と思われるエレクトロな楽曲群がその場で生成されて発射されることによる興奮はきっとホワイトステージの魔法でもあったと思う。
 そして全てを見終えグリーンステージへ向かう途中でのドンルク大合唱。「あーフジロックだなー」と。また来れる日が楽しみです。
(文:森勇樹)
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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介していく予定です。その3をお楽しみに!

20150805

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その1

2年ぶりにこの企画(前回はこちら)が帰ってきました。

開催前後に何やかんや言われながらも、名場面が今年も続出したフジロックフェスティバル。
来年20回目の開催も無事最終日のゲートから確認することが出来ました。

フェスのアミューズメントパーク化やリア充化進んでるなーとか、経済がどうこうとか、完全に音楽の好みが分断化されているとか、ラインナップがパッとしないだとかいろいろと言われていますが、3日間自然の中で飲み食いしながら音楽にあふれる誰にも邪魔されることのない聖域は今年も健在です。

その感動を共有したい!
行ったことのない人に伝えたい!!
名演繰り広げたアーティスト教えたい!!!

ということで新旧岡村詩野音楽ライター講座生によるフジロックレポート2015です。


Kitty Daisy & Lewis


Day1:THE PALACE OF WONDER
ライター:四年生K

長い時を経て。さあ、ここから。

 生まれてこのかた60年のロックンロール(R&R)。ロックとはニアイコールな元となった原点としての音楽だけれども、賛辞する表現として音楽ジャンルに留まらない言葉になった。そして思えばフジロックも19年。色々言われたけど今年も出来たし、来年の20年目の開催も決まった。僕は苗場の祭りに今日、初めて行く。
 最狂ベーシストレミーが何十年にもわたって危機を乗り越え、ヘヴィ・メタリックにもハードコアにもサウンドの展開をしながらやってきたモーターヘッドの音楽は紛れもなくR&Rだった。エンターテイメント性溢れるステージングながらも山中には轟音が響き、老若男女が熱狂した。圧倒的であった。
 昼もヘブンで空にどこまでも音が抜ける中、家族によるレトロな音世界を見せたキティー・デイジー&ルイス。ピタコスなジャンプスーツを着たキティー・デイジー姉妹。スーツで決めた味のあるルイス。そして絶妙にサポートする両親とゲストのタンタン。深夜多くの人が密集したテントの中でメンバー目の前で見るライヴは異空間のよう。
 R&Rは音も時代も国境もトライブも超越する。そんな事を確認できた日の夜だった。そして、それは日本人にも出来る人がもっと出てくるはずだ!!
(文:四年生K)


Super Furry Animals


Day2:WHITE STAGE
ライター:堀中敦志

おかえり!毛むくじゃらの5人組

 日も傾いてぐっと風に爽快感が増したころ、6年ぶりに活動を再開したスーパー・ファーリー・アニマルズ(以下、SFA)がフジロックのステージへと帰ってきた。白い防護服で登場したメンバーが1曲目の「Slow Life」を演奏する中、ボーカルのグリフは戦隊ものの赤いヘルメットをかぶり、<拍手>や<もっと>と書かれたパネルを掲げてみせる。そんなおなじみのジョーク混じりのパフォーマンスに、観客も一気に盛りあがりを見せる。浮遊感のあるメロディーと多彩なコーラスワークで会場の温度を高めていく巧さに、このバンドの帰還を確信した観客も多いだろう。
 最後の曲の演奏中にキーボードのキアンを残してメンバーが退場した後、それぞれ毛むくじゃらの着ぐるみに金髪のウィッグでステージに戻り、白熱のジャムを見せつける。そうかと思えば、去り際には<ありがとう> <おわり>と書かれたパネルを掲げてまた観客を笑わせる。そんなシュールさも実にSFAらしい。
 彼らのライブには、みんなで一緒に飛び跳ねたり大合唱したりするところはないけれど、フジロックの自由な空気としっかりシンクロした素晴らしいパフォーマンスだった。
(文:堀中敦志)

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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介していく予定です。その2をお楽しみに!

20150615

【レビュー】FKA twigs 『LP1』

アート性と大衆性を融合した新しい才能の登場

FKA twigs
LP1
XL Recordings, 2014年
 穏やかで、しかしながら燃えるような情熱を感じるアルバムだと思う。ここ数年静かな盛り上がりを見せているインディR&Bシーンにおいて、これほど待ち望まれたデビュー・アルバムもそうはないであろう。FKAツイッグスは、10代のころからUK・ロンドンでキャリアを積み上げているダンサーだったが、2012年に最初の音源をBandcampにて発表したことを契機にシンガー・ソングライターとしても注目を集めた。彼女が2013年に発表したEPに続いて発表したフル・アルバムが、本作『LP1』にあたる。このアルバムは、高いアート性と同時に強靭なポピュラリティーをも備えた2014年を象徴する作品である。
 この作品にプロデューサーとしてクレジットされているのは、ビョークの次回作を手掛けるアルカや、ブラッド・オレンジ名義で知られるデヴ・ハインズなど、現代のエレクトロ、R&Bシーンをリードするトップランナーばかり。そんなシーンを代表する才能を曲ごとに起用しつつも、それぞれの曲で散漫な印象は皆無だ。むしろ作品を貫く繊細な感覚が印象的で、ミニマルで宇宙的なトラックの上を泳ぐ彼女の声は、自由に私的な内容を打ち明ける。プロデューサーの起用に関しては、自身の得意でない部分を埋める存在としての起用であると彼女自身は語っており、自らや作品をコントロールする存在としてではなく、作品制作における一要素として主体的に起用しているということであろう。そこには、シンガーでありダンサーである表現者としての「身体性」の彼女と、作品の世界観を形成する「精神性」の彼女がそれぞれ別に、しかし互いに関係しあいながら存在していることを強く感じる。
 FKAツイッグスというアーティストは、最初の音源をインターネット上にアップしてシーンに登場した、いわゆる”インターネット出身”のアーティストで、この作品に収録されている「Video Girl」や「Two Weeks」をはじめとした奇抜で印象的なMVの存在からも、そのビジュアルイメージや音楽をインターネット経由で十分に知ることができる状況にある。しかし、それでもまだどこか掴みきれないような神秘性をたっぷりと残しているように思う。この感覚は、ライブという場において「身体性」の彼女を目の当たりにしたときにまた変化するのだろうか。音楽作品として高い完成度を示しながら、それを上回る強い引力を秘めた稀な作品である。(堀中 敦志

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150613

【レビュー】THE NOVEMBERS 『Rhapsody in beauty』

徹底して美しいギター・ノイズ・アルバム

THE NOVEMBERS
Rhapsody in beauty
MERZ, 2014年
 "ノイズ"とは、人間が定義した規則から外れたもの。不要なもの。過剰なもの。あるいは居心地の悪いもの。そう考えると、我々の日常はノイズの中に存在しているように思える。そのノイズは果たして醜いものだろうか。「美しさ」と「醜さ」、「調和」と「不協和」がそれぞれ表裏一体だとして、必ずしも「美しさ」と「調和」が同じ対象に宿ることはなく、ノイズの中にだって美しいものは存在するに違いない。そんなことを、本作の幕開けとなるノイズ・オーケストラ「救世なき巣」を聴きながら考える。THE NOVEMBERSが前作『zeitgeist』に引き続き自主レーベル"MERZ"からリリースした『Rhapsody in beauty』は、ノイズで美しさを表現した作品だ。
 作品を支配する耳をつんざくギター・ノイズ、それはさながら猛獣のようだと思う。容易に手懐けることはできない暴力的な猛獣を、完全にコントロールする戦い。思えば、ジミ・ヘンドリックスやケヴィン・シールズは卓越した猛獣使いだろう。そんな猛獣にTHE NOVEMBERSは戦いを挑んでいる。彼らが尊敬の眼差しを向けてきたBorisやdownyもそうして来たように。コントロールを誤れば、音楽はたちまちノイズに飲み込まれてしまう。しかし、本作には重厚なノイズにも埋もれない存在感を主張するメロディーがある。地を這うように疾走するロック・ソング「Blood Music.1985」や、ムーディーな「Romancé」は、ノイズを楽曲の一要素としながら、豊かな力強さを持った歌だ。この作品におけるノイズとは、ジョン・ケージの「4分33秒」で日常の雑音が音楽として扱われるように、日常そのもののモチーフなのだ。
 アルバムは<どこの誰がなんと言おうと 僕らはただひとつの幸福だったんだよ>というフレーズで締めくくられる。幸福、それは例を挙げるなら、この作品のリリース前にバンドの中心人物である小林祐介が娘を授かったように、身近で手触りのあるものだろう。そんな日常の中にある美しさの表現が、ノイズとのコントラストによってより一層際立っている。この作品におけるノイズとは、不穏さや邪悪さをもたらすエフェクティヴなものとしてではなく、あくまでモチーフとしてのもの。だから、このロック・アルバムには強烈な存在感がある。2014年の音楽シーンにおいても、全く埋没する余地もないほどに。(堀中 敦志

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150611

【レビュー】矢野顕子 『飛ばしていくよ』

不可思議な音の旅路へ、いらっしゃいませ。

矢野顕子
飛ばしていくよ
ビクター, 2014年
 矢野顕子がラジオに生出演し、生演奏を披露したことがあった。曲目は「いい日旅立ち」。遅ればせながら、これが筆者と矢野顕子との出会いとなった。独創的で、息をのむ…のみ続けてしまうかのような、"ものすごい"展開に、感動しすぎて頭がぼうっとしてしまった。この演奏の音源は残っていないようなのが残念だ。YouTubeの音源であれば、「ちいさい秋みつけた」で彼女のクリエイティヴィティが確認できるだろう。
 矢野顕子の音世界は、普通の音楽家が考えうる世界を一歩超えている。彼女の"ものすごい"部分は、ジャズの理論のなかで誰もが考え付かない突拍子もない一音をひねり出すことだ。(いつメインのフレーズに戻るのだろう)と聴き手が気を揉むなか、彼女は飄々と歌ってみせる。彼女なりの「いい日旅立ち」「ちいさい秋みつけた」の“"解釈"を。その展開は聴き手を不可思議な世界へと誘う。誰もが予測不可能なその世界で、私たちは音に溺れたり浮かび上がったりしながら、向こう岸へたどり着くのだ。
 NYに住み、スタインウェイのグランド(ショート)ピアノと、猫と共に暮らす矢野顕子。郊外には「パンプキン」というスタジオがある。矢野の才能の周りには、これまでも自然と他の才能が集まってきた。新譜『飛ばしていくよ』でも、矢野は自身が"カッコいい"と思ったアーティストと組み、はつらつと楽しんでいる。シンセサイザーやコンピューターナイズされた音が多いのも特徴の一つ。それもそのはず。今回はボカロPのsasakure.UKと組んでもいるのだ。「ごはんとおかず」「Captured Moment」ともに、ボーカロイドの作者が手掛けたとは思えない、メロディのたった楽曲だ。更にはyanokamiで、当時リリースされなかった音源をアレンジして発表した曲も(「YES-YES-YES」)。BOOM BOOM SATELLITESとの共作曲「Never Give Up on You」。ロック色が強いが、ハッとするプログレッシヴな展開が特徴だ。ボーカロイドであれ、ロックであれ、テクノ(砂原良徳との共作)であれ、最終的には矢野顕子色に染められていく。ピアノと対等に渡りあう歌心とともに、音源では音が"自然に"流れるように入ってくることも、矢野の“ものすごさ”を表している。ライヴではアレンジを変えて歌うことが多い矢野。“ぶっとんだ経験”をしに、ライヴに足を運びたい。(板垣 有

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150609

【レビュー】人間椅子 『無頼豊饒』

"ホラーではなく怪談"を表現し時代に寄り添う

人間椅子
無頼豊饒
徳間ジャパン, 2014年
 人間椅子はデビュー25周年にして、時代に更に寄り添うバンドとなった。子供たちは妖怪体操にいそしみ、大人たちはアイドルに思いを馳せる昨今。人間椅子といえば、2013年の「Ozzfest Japan」において、ももいろクローバーZと共演したことも記憶に新しい。筋肉少女帯を率いる大槻ケンヂの別バンド・特撮でもギターを担当し、アイドルに曲を書くNARASAKIが、和嶋慎治(Gt/Vo)を推薦したことが契機となっている。人間椅子は海外のHR/HM勢から影響を受けつつ、これを日本の風土になじませた。和嶋と、鈴木研一(Ba/Vo)の出身地である青森の津軽三味線由来のコードも取り入れている。ギターの譜面を読むのに一苦労する複雑さ。曲のタイトルには江戸川乱歩などの怪奇文学本のタイトル。日本的な耽美と日常の慈しみが詰まった楽曲が並ぶ。筆者の好きな宮沢賢治の作品からの曲も新譜に収められている。
 人間椅子のもう一つの要素といえば、「おどろおどろしい」「妖怪」「怪談」の世界。ブラック・サバスの初期のコンセプトは「音で人を怖がらせよう」ということだった。HMとホラーなどの世界は、切っても切れない関係となった。対して人間椅子は、怖がらせるとしたら、あくまで「怪談」。狂気を表すとしたら「日本的な美しさ」。新譜の歌詞カードの最後に載っている骸骨絵は、歌川国芳の『相馬の古内裏』に出てくる骸骨絵から拝借したものと推測される。バンドのFacebookにも国芳の絵は載せられ、この絵の大ファンであった筆者はデジャヴを感じた。歌詞カードのほうは国芳の絵を少しいじり、骸骨がメロイックサインまで出している。非常にファニーで滑稽で、可愛らしさまである。
 歌詞についてみていくと、枕詞(たらちねの母、あらたまの年など)、童謡(かごめかごめ、達磨さんが転んだなど)、「無」や「諦め」「地獄」といった仏教的世界観を織り交ぜた語り口が独創的だ。新譜からの曲「なまはげ」では<泣いでるわらしは いねが>と、民俗行事としてのなまはげそのものを歌にしている。音圧・音質が上がったこともあり、新作は全体としてメタリックな印象が強くなった。長い活動のなかで、料金未払いで電話を止められた時期まであったのだそうだ。人間椅子が少数でも喜んでくれる人たちに届ける喜びを追及し続けたことに、改めて敬意をこめて大きな拍手をおくるとともに、今後に更に期待したい(板垣 有

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20150607

【レビュー】OGRE YOU ASSHOLE 『ペーパークラフト』

世界は簡単に倒れそう、でも意外としっかりできている

OGRE YOU ASSHOLE
ペーパークラフト
P-VINE, 2014年
 「うつし世は夢 よるの夢こそまこと」――“この世は夢で夜の夢こそが現実”と江戸川乱歩が言ったように、オーガ・ユー・アスホールも我々の常識感覚を大きく混乱させるような音楽を鳴らし始めた。夢、現実、時間…人間の意識のなかをとりまく概念をぐちゃぐちゃにかき回した、現在地の分からない音楽。それが『ペーパークラフト』の正体だ。
 近年の彼らの潮流には、非常に興味深いものがあった。楽天的な音作りとシニカルな終末観を併せ持った『100年後』、ドープで実験的なリアレンジ音源集となった『Confidential』。口数は少なく、音は機械的になっていく楽曲からは次第に人間の体温を感じられなくなり、気味の悪さが漂っている。そして今回彼らが目指した次なるものは、先述2作の中間点のような、新譜でありながらリミックス音源をも思わせる音だった。
 たとえば、「他人の夢」の終盤を覆うヘリコプターのような音や、「見えないルール」で均等にならされるホイッスルのようなループ音。これらのサウンド・エフェクトが味付けとして不穏に耳に訴えかける。これらの作用は時間軸をリミックスすることであり、時間を分断/リセットさせ、リスナーの正常な感覚を奪っていく。ライヴ・ハウスで見るVJのような、ずっと同じ映像の繰り返しを見せられている気分だ。全編を通しアナログ盤のようなぷつぷつとした音も挿入されていて、ラスト「誰もいない」ではついに大きなノイズとなり息絶える。
 この音楽は現代の政治、事件への皮肉を歌っているのだろうか…なんて、それらしい答えを見つける気持ちなどは起きない。まともな感覚がつかなくなるほどの浮遊感と後味の悪さ。そして深い悲しみの迷路で宙ぶらりんとなった自分の存在を確認する。どうしてオーガはここまで巨大な虚構を作り上げてしまったのだろうか。私は未だにこの世界から抜け出せずにいる。 しかしただ一つ思うのは、たとえ今が本当の現実じゃなくて、自分の居場所がわからなくても、自分という存在は自分の意識があれば確認できるということ。出戸学(Vo./Gt.)は、『ペーパークラフト』という巨大なレイヤーを張ってまでこんなことを言いたかったんじゃないだろうか。でもそんなことが分かったくらいで、この世界から抜け出すことはおそらくできない。簡単に倒れそうで、意外としっかりできているこの世界の縮図を、人間の意識と絡めて巧みに表現した作品である。(梶原 綾乃

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150605

【レビュー】The fin. 『Days With Uncertainty』

国を超えた音、国を超えた空間を共有する存在

The fin.
Days With Uncertainty
HIP LAND MUSIC, 2014年
 神戸出身、平均年齢22歳の若手ロック・バンドだ。今年3月にEP盤『GLOWING RED ON THE SHORE EP』を初の全国流通でリリースし、本作は1stアルバムとなる。彼らの愛するチルウェイヴ以降の音楽はもちろん、UK/USのインディ・ロックを彷彿とさせるスタイリッシュさを持ち、シューゲイザー、ドリーム・ポップといったカテゴライズが適した、幻想的なサウンドを得意としている。加えて、筆者が初めて見たライヴでは、青紫色のスモークが焚かれ彼らのシルエット姿だけが見える状況で演奏を披露し、音楽性を含めさながら来日アーティストのようであったことを覚えている。
 さて、その音楽性はEPの時点でしっかりと確立していて、本作はその延長線をゆくいくつかの味付けが見られる。マス・ロック感のある音で丁寧に切り刻まれた「Illumination」、寄せては返す波のようなループが艶めかしい「Night Time」など、特に80年代シンセ・ポップを随所に思わせるアプローチもあり、ほぼアカペラなほど音数を削ぎ落とした「Thaw」、「Veil」など新境地もある。いずれも低体温でさっぱりした楽曲ながら、それらにグルーヴの強いベースが敷かれており、フロアで静かに踊れるナンバーばかりだ。
 本作において彼らが成し遂げたのは、ザ・エックスエックスやドーターのような余白でもって、チルウェイヴの空間を作り上げるということだ。「引き算で音楽を作る」と過去のインタビューでの発言や、本作発売前の11月にアコースティックにてUstream配信を行うなど、ここ最近の彼らは、一音一音への配慮はそのままでも「音の多さ」や「形態」という概念はないことを証明しているかのようだ。それは、繰り返しになるが空間が大事だということ――ギター1本、いや人間の声だけでも海外に立ち向かえる可能性があるのをちゃんと理解しており、上記のようなUK/USのシーンを、ほぼリアルタイムで日本の音楽シーンにうまく落とし込み伝えるセンス――において、丁寧で非常に長けているのだ。
 日本のバンドにおいて、あまり語られることのない「世界進出」を早いうちから掲げ、その目標が大きすぎず近いところに感じられる新人はそうそういないと思う。日本のインディ・ロックは既にここまでのレベルに到達しており、彼らはその何よりの証明だ。来年は国境を超えた活躍が期待できるのは間違いない。(梶原 綾乃

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150603

【レビュー】吉田ヨウヘイgroup 『Smart Citizen』

スマート社会で豊かに生き抜く音楽とは?

吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen
P-VINE, 2014年
 今年、東京のインディ・シーンを象徴したのは吉田ヨウヘイgroup(以下YYG)だった。森は生きているやROTH BART BARONら、このシーンを代表するバンドが出演したイベント「20140420」でトリを務め、フジロック・フェスティバルのルーキー・ア・ゴーゴー、One Music Campなどのフェスへ参加、ルミナス・オレンジの新譜への参加。そして何よりも、活発な活動の中リリースされた本作がそれを物語っている。
 彼らはその名の通り、吉田ヨウヘイ(Vo, Gt, A.sax)を中心とする8人組ロック・バンド。ロック・バンドといっても、サックス、フルート、ファゴットら木管楽器のウエイトが高いのが特徴的だ。特にファゴットという楽器はソロから伴奏まで高低音を問わない音域を持ち、音量の小ささというネックがあるにも関わらず、バンド内で骨組となるメロディを担当するなど生き生きと鳴らされている点は素晴らしい。
 ファースト・アルバム『From Now On』以降1年3か月ぶりとなる本作は、OK?NO!!のriddamを含むメンバー・チェンジ後、初作品となる。ジャズから始まりファンクやニュー・ソウル的アプローチもあり、彼らの音楽は複合的で例えるのが難しい。具体的なコレというものは挙げにくいが、あえて言えば彼らの音作りはロネッツやカーデッツのようなコーラスにルーツがあると考える。YYGでは、メンバー8人のうち女性3人全員が楽器の他にコーラスを担当している。"ラララ" "ハハハハ"のような、スキャット的コーラスと楽器が絶妙な間を持って掛け合い、対話することで完成する流れは心地がよく、声も楽器の一部として組み込まれている様子をしっかりと感じられる。そういった手法を総括すると、音楽性は違えど方法論としてはルミナス・オレンジと近いものを感じた。先述の新譜ゲスト参加は必然的か。
 本作収録曲を引っ提げたフジロックでの公演以来、木管の音量やバンドのバランス共に絶好調で今めきめきと成長を感じられる彼ら。ファゴット・内藤彩の脱退は残念であったが、不景気な現代社会で鳴らされる彼らのアットホームで豊かな音楽は、今年のインディ・シーンが好景気であるという何よりの証拠となった。今年は東京インディを象徴したが、来年以降の彼らが、東京インディという言葉では描き切れない新たなシーンを形成してくれるのを楽しみにしている。(梶原 綾乃

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150601

【レビュー】Lillies and Remains 『ROMANTICISM』

ロマンティックが止まらない

Lillies and Remains
ROMANTICISM
Fifty One Records, 2014年
 ああ、いつもそうだ。ゾクゾクするくらいクールでいて、またどうしようもなくなるほどに切なくさせる。焼け付くくらいに胸を焦がされる。こうしていつも私の心をかき乱していくんだ。Lillies and Remains (以下リリーズ)、彼らの音楽にはいつも良い意味で翻弄されてばかりだ。今回、約3年半ぶりのフル・アルバムとなったリリーズの新譜『ROMANTICISM』は、聴いたものの感情を狂おしくなるほどかき乱す。曲から、そして歌詞から溢れる切なさと、やるせなさ。今作の彼らはまた、今までの作品とは違う新たな新境地にたどり着いている。
 今年は6月に約5年、バンドでベースを務めていたNARA MINORUが脱退し、KENT(Vo./Gt.)とKAZUYA(Gt.)の新体制が始動した年であった。今作『ROMANTICISM』は新体制後、初のアルバムとなる。制作するにあたって、元SOFT BALLET、現minus(-)の藤井麻輝がプロデューサー兼、レコーディング・エンジニアとして参加した。従来はバンドのソングライターであるKENTを中心に曲作りをしていた彼らだが、今回新たに藤井が加わったことで曲層の幅が広がりを見せ、楽曲から人間味が垣間見えるようになった。
 10月12日に盟友PLASTICZOOMSと共催したオールナイト・イベント「BODY」で今作の楽曲を初めて聴いた時は、彼らの見せる新境地に強く胸が躍った。アルバム1曲目の電子音バキバキ、且つギターが唸りをあげるインダストリアルなナンバー「BODY」は、聴いたものの本能を解放させ、踊らずにはいられなくさせる。メロウなメロディーが醸し出す寂寥感が胸をしめつけるのが2曲目の「Go Back」。ラストにかけて、80年代感のある煌めくシンセサウンドにのるKENTの高音域の歌声、そしてコーラスワークが、さらに胸をしめつける。これがたまらない。さらに特筆したいのが4曲目、「Like the Way We Were」。これまでのリリーズでは聴いたこともない特徴的なギターのリフ、疾走感のある爽快なメロディーとサウンドが癖になる。
 『ROMANTICISM』という新たな礎を元に、今後も新体制で進んでいく彼らのポテンシャルに期待しかしていない。そして、私はこれからも彼らの何者にも侵されない意志を、今までと変わらずに貫いていく美学と矜持を、見届けていきたい。(コイズミリナ

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20150530

【レビュー】ROTH BART BARON 『ロットバルトバロンの氷河期』

光のように降りそそぐ美しい音のヴェール

ROTH BART BARON
ロットバルトバロンの氷河期
Felicity, 2014年
 今年もだいぶ冬めいてきた。子供の頃は、冬の訪れにとてもワクワクしていたし、雪が降らないかな、なんてうずうずしながら過ごしていた私も今や成人を過ぎ、大人になってしまったな。今やもうあの頃感じていたはずの豊かな気持ちなど薄れて、感受性が鈍くなっていくのを日々感じながら、私は去年の今頃に生まれたこの作品を手に取る。
 東京出身の2人組、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン、以下RBB)待望の初アルバムである『ロットバルトバロンの氷河期』。この作品を作るにあたり、彼らは念願であった海外でのレコーディングを行った。場所はアメリカのペンシルヴァニア州フィラデルフィアにある名門スタジオ、マイナー・ストリート・レコーディングス。またミックスはザ・ナショナルなどを手掛るジョナサン・ロウ、2曲のプロデュースと録音は、ザ・ウォー・オン・ドラッグスなどを手がけるブライアン・マクティアーが手掛けている。
 作品全体からは、冬の明け方から、早朝にかけての時間帯のような、ひやりとしていても、どこか温い日の光を感じる独特の空気感が漂っていて、不純物の無い、まっさらで澄み渡った世界が広がっている。そして、RBBを象徴する三船雅也(Vo./Gt.)の美しいファルセットが響く歌声と、時に優しく爪弾かれ、時に強い意志を持って刻まれるアコースティック・ギターの音を軸に、中原鉄也(Dr.)の大地を這うようなドラミングと、トランペットやトロンボーンをはじめ、バンジョーやピアノ、グロッケンなどの多数の楽器たちが、聴く者を壮大で美しいRBBの世界に誘う。また、なにも取り繕わない、感情をむき出しにしている歌詞は、まるで子供の頃のような、まっすぐで純粋な気持ちをぶつけてくる。作詞はすべて三船が担当しているが、彼の紡ぐ歌詞は、非現実のようでいてどこか現実味もある、不思議な感覚に陥る歌詞を書く。日常とお伽話の境界線を溶かしていくストーリー・テラー、三船はその目でどんな世界を見ているのだろうか。RBBの紡ぐ"物語"にどんどん惹かれていく。
 大人になっていくにつれ、日々を早々と過ぎる時間に急かされ、煩雑な人間関係に神経をすり減らす。偽りの自分を演じていくたびに、心はすり切れ、凍りつく。そんな凍りつく心に、RBBの音楽は染み込んでいく。まるで雲間から降りそそぐ薄明光線の光のような荘厳で美しいその音は、心の蟠りを溶かしていく。(コイズミリナ

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20150528

【レビュー】Temples 『Sun Structures』

洗練されたハイブリッド・ミュージック

Temples
Sun Structures
Heavenly Recordings, 2014年
 イギリスのミッドランズ出身の4人組、テンプルズ。彼らを始めて目の当たりにしたのは昨年11月のHostess Club Weekenderでの初来日公演だった。2012年に結成したばかりのバンドとは思えない完成された音像、メンバーの優雅な佇まい、新人らしからぬ風格と雰囲気に惚れ込むのに時間など必要なかった。筆者にとって、"サイケデリック"といえば、強烈に歪んでいる音像、そして独特の浮遊感と、醸し出されるキラメキに酔ってしまう音であるが、まさにテンプルズの音に触れたあの瞬間は、初めて生で感じた"サイケデリック"という音の原体験であると言えた。
 バンドのフロントマンであるジェームス・バックショー(Vo./Gt.)の自室ですべて宅録したという『Sun Structures』。宅録ならではの自由度の高さを生かし、往年のピンク・フロイドやバーズから、最近のテーム・インパラに至るまで、新旧のサイケデリック・ミュージックや、プログレ、フォークなどあらゆる音楽性を飲み込んで昇華させている。あらゆる音楽性を巧みに調理したことで、まるで万華鏡を見ているようなキラメキと、霞がかった艶めきと妖しさのあるテンプルズ独自のサウンドに仕上がっている。
 『Sun Structures』は、1曲目の「Shelter song」からイントロの12弦ギターのリフより聴くものを幻想的なテンプルズの世界へ引き込ませていく。タイトル曲である2曲目「Sun Structures」以降も、色気のあるムード感たっぷりな「The Golden Throne」、曲から漂う哀愁感がいたたまれない感情を呼び起させる「Move With The Season」、1曲目とはまた異なる、甘美でうっとりとさせる12弦ギターの響きが印象的な「Colours To Life」など、テンプルズの楽曲は、1曲1曲の中毒性がかなり高く、聴く者を幻想世界にトリップさせてくれる。と同時に、どこかスマートさに感じる楽曲たちに陶酔せずにはいられなくさせる。
 彼らは今現在で既に4度目の再来日が決まっている。そして既に世界各地のフェスへ引っ張りだこであったし、スウェードやカサビアンなど大物バンドの前座を務めたりもしていて、ここ最近で数々の大きな場数を踏んできているテンプルズ。今後もさらに躍進していくだろう。彼らは間違いなく大きなバンドへなっていく逸材である。(コイズミリナ

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20150526

【レビュー】ゆるめるモ!×箱庭の室内楽 『箱めるモ!』

アイドルとロックバンドの最高なコラボレーション

ゆるめるモ!×箱庭の室内楽
箱めるモ!
T-Palette Records, 2014年
 アイドル戦国時代と言われている今、日本には数えきれないほどのアイドルが存在している。その中で輝きを増してきているのが、ゆるめるモ!というニューウェーブ・アイドル・グループである。ゆるめるモ!は2012年10月に結成。「窮屈な世の中を私たちがゆるめるもん!」をコンセプトに、サブカル界隈を中心に話題を集める。ニューウェーブ、パンク、ヒップホップ、エレクトロなど多彩なサウンドの楽曲は音楽好きの間でも話題になっている。
 そんな彼女たちはさまざまなアーティストとの共演やコラボレーションを積極的に行っている。今回の作品では、ジャンルレスなバンド・アンサンブルによる高スケールな楽曲を提供し続けているバンド、箱庭の室内楽とのコラボレーションを果たした。アイドルとロック・バンドという異色のように思える組み合わせだが、どちらも独創的で高い音楽性を持ちつつ、馴染みやすい楽曲をリスナーに提供してくれるという点においては共通していると思う。
 この作品は作曲、編曲をすべて箱庭の室内楽のハシダカズマ(Vo./Gt.)が担当していて、ヒップホップ、シューゲイザー、ポストロック、オルタナなど、あらゆるジャンルの音楽が詰め込まれており、ゆるめるモ!の魅力が最大限に引き出されている。一曲目「manual of 東京 girl 現代史」は、爽快に駆け抜けるような勢いのあるサウンドと、「みなさん、こんにちはー!」という元気なMCから始まり、リスナーのテンションを一気に上げてくれる。ラッパーのDOTAMAがリリックで参加した「木曜アティチュード」は、グロッケンなどのサウンドが組み込まれている軽やかなアンサンブルと、ゆるめるモ!のメンバーの個性が生み出した脱力系ラップが見事にマッチしている。「木曜アティチュード」以外の曲は、他作品の楽曲も含め小林愛が作詞している。これはどういう意味だ?と考えてしまう不思議な歌詞が、少女達の複雑でもやもやしているような気持ちを上手く表現している。
 アイドルらしい、リスナーをハッピーな気持ちにしてくれるゆるめるモ!のパフォーマンスと、箱庭の室内楽が奏でる疾走感と切なさを感じられるサウンドが融合し、青春の甘酸っぱさがぎゅっと詰め込まれている作品となっている。儚い少女時代を生きている彼女たちと、人の心を捉えて離さないような魅力のある箱庭の室内楽だからこそ生み出すことができた音楽であろう。(日高 玲央奈)

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20150524

【レビュー】Gotch 『Can't Be Forever Young』

この作品に込められているもの

Gotch
Can't Be Forever Young
only in dreams, 2014年
 初めてこの作品を聴いたときは、どちらかというと期待を裏切られたような気持ちのほうが大きかった。なぜなら、私の知っている後藤正文はアジカンのフロントマンであり、パワーコードに乗せて力強く歌っているイメージだったからである。
 この作品はアジカンではなかなか見られないGotchこと後藤正文のキャラクターが全面に出されていて、その要素がいろいろな方面から組み込まれているのである。まず、ヴォーカルの他にも、アコギ、ハーモニカ、パーカッション、シンセサイザー、プログラミングなどほとんどの音を自らが演奏している。アコギやパーカッションなどわざとアコースティック楽器を多用したり、あえてシンセサイザーを手で弾いたりして、彼のヒューマニティを存分に出している。サポート・メンバーには、日頃から交流のあるホリエアツシ、下村亮介、井上陽介、TORAが参加している。仲の良いミュージシャンが参加することで、より一層温かみのあるアットホーム感漂う作品になっている。
 一番彼のヒューマニティが表れている部分、それはやはり歌詞であろう。アジカンの曲にはないようなストレートな表現が印象的である。彼が「A Girl in Love / 恋する乙女」なんてどストレートにラブソングみたいなタイトルをつけていることにとても驚いた。この曲以外にも恋について歌っている曲もあるのだが、この作品は全体を通して、生きることや死ぬことについて歌っている。「Sequel to the Story / 話のつづき」の最後に<今日のことは忘れないだろう>という歌詞がある。この文面だけ見ると、「誰でも言いそうな言葉だよな~」と思ってしまうのだが、それを彼が歌うとなぜこんなにも心に沁みるのか。時間が経てば薄れてしまうこと、命には限りがあること。まるでそのことを彼に話しかけられているかのように、言葉が自然と染み込んでくるのだ。
 人同士の出会いもそうであるように、最初はあまりしっくりこない作品であった。しかしなんとなく何回も聴いているうちに、自分と馴染んできて、聴き心地の良い音楽に変わっていった。優しく奏でられているアコースティック楽器の音やノリのいいリズムなど、すべてがこの作品にとって大事な要素であるが、一番の魅力はやはり彼の人間性なのであろう。この作品には音楽に一番大事な”心”が込められている。きっと聴いたすべての人にそれが伝わるであろう。(日高 玲央奈)

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20150522

【レビュー】SHAKALABBITS 『Hallelujah Circus Acoustic』

初のアコースティック・アルバムに詰めた想い

SHAKALABBITS
Hallelujah Circus Acoustic
Hallelujah Circus Inc., 2014年
 SHAKALABBITSといえばパンク・ロックというイメージが強いであろう。しかし、この作品はなんと彼等にとって初めてのアコースティック・アルバムである。彼等とアコースティック音楽というのは意外な組み合わせに思えるかもしれないが、メンバー自身、アコースティックの音楽を聴くのが好きで、いつかはアコースティック・アルバムを作りたいなと話していたとUKIのブログに綴られている。それがとうとう完成したのだ。
 最初に流れてきたのは、アコギが奏でるノリのいいイントロであった。一曲目の「MutRon」は、原曲はおどろおどろしいイントロから始まり、奇妙で不思議な歌詞が印象的な曲であったが、その印象はまったく消え去っていた。UKIの歌い方も少しかわいらしい感じになっていて、奇妙な歌詞がなんだか楽しく思えた。アレンジによって、こんなにも原曲の印象を覆されてしまい、一曲目からこの作品の魅力に引き込まれてしまった。「モンゴルフィエの手紙」のような、原曲がアコースティックっぽい曲もアレンジされている。初めて収録曲を知ったとき、アップテンポな曲が収録されていることよりも、このような曲があえて収録されていることのほうが驚いた。この曲も自然と身体を横に揺らしたくなるリズム感で、UKIが吹いているハーモニカの伸び伸びとした音色が心地良い。そしてさりげなく奏でられているヴァイオリンの音色が、この曲の切ない雰囲気にぴったりである。「ROLLIE」はライブで演奏すれば絶対に盛り上がる彼等の代表曲であるが、それがもうよくもこんなにやってくれたな!というくらい別世界になっていた。エコーの効いたアコギの音色と子守唄のように優しいUKIの歌声が、まさに夢の中にいるかのようにただただ広がっていく。おちゃめな小さい女の子のような原曲が、綺麗な大人の姿に生まれ変わったように感じられた。
 「Jammin'」という曲に〈ハレルヤサーカスの鳥たち波に乗った〉という歌詞がある。このアルバム名はこの歌詞からきていて、同じ名前を彼等が立ち上げたレーベルにも名づけている。この歌詞のように、この作品は彼等にとって思い入れのある記念すべき作品であり、今後に繋がる大事な作品でもあるだろう。これが新たな彼等の出発点なのだ。たくさんの想いが詰まったこの作品を、ファンはもちろんSHAKALABBITSの音楽を聴いたことのない人達にも聴いてほしい。(日高 玲央奈)

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20150520

【レビュー】SWANS 『To be kind』

愛憎のリヴァース・ショット

SWANS
To be kind
Young God/Mute, 2014年
 ドローンとは即ち反復であり、音を引き延ばすという意志の表れである。幾度も音は反復され、永遠/永続性を強調する。初期スワンズが提示した音もまたドローンであった。メカニカルでマシナリーなハンマー・ビートにノイズまみれのリフの執拗な反復は正しくノイズ・ドローンの形態をとっている。では、スワンズ=マイケル・ジラにとっての反復とは何を指しているのだろうか。
 来年1月に再来日が決定しているスワンズの再結成後3作目となる本作でも根底にあるのは反復=ドローンにあると言っていい。しかし、それでいて、おおよそインプロヴァイズを軸としたであろうと推測できるアルバム構成は各音のパートの分離と隙間が非常に生かされた、有機的で立体的なアンサンブルが特徴だ。言い変えるならば、スワンズ史上最もライヴ感溢れる作品である。強靭な反復のリズムを基調にしつつも、ギター・ノイズは自在に、時に多彩に暴れまわる。ジラのヴォイスはジム・モリソンを彷彿させるように情念を湛え、歌い、叫び散らす。初期のスワンズの反復は脊髄反射的なものであったが、本作におけるスワンズの反復は極めてフィジカリティなものである。リズムの躍動感は呪詛的でプリミティヴですらあるのだ。また長尺が占める楽曲群の構成と展開はスワンズ流の演劇=音劇を鑑賞しているようである。「Bring the sun/Toussaint L’Ouverture」はその象徴であろう。本作の要素を全て凝縮し、展開され、繰り返される。スワンズ流の演劇=音劇は永遠に終わりのない反復なのだ。
 ここで冒頭の問いは繰り返される。スワンズ=ジラの反復とは何を指しているのか。結論から言えば、スワンズの反復は初期の頃から何も変わっていない。即ちスワンズの反復とは愛憎の反復なのだ。徹底した愛憎がジラを反復に掻き立てるのである。愛と憎しみは相反しない。ジラにとって愛することと憎むことは同義であり、愛するが故に憎み、憎むが故に愛する。その愛と憎しみの反復によって、生まれる軋轢がスワンズの反復の根源なのだ。本作でもメビウスの輪のように終わりなき愛憎はグルーヴとなって貫かれていると言っていい。 仮にマルグリット・デュラスのテキストにサウンドトラックをつけるのならば、本作ではないか。『To be kind』は永遠に繰り返される愛と憎しみの間で反復し、そして逆転し続ける愛憎のリヴァース・ショットなのだ。(佐久間 義貴)

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20150518

【レビュー】BORIS 『NOISE』

日本のロック史の新たな金字塔

BORIS
NOISE
tearbridge, 2014年
 『NOISE』はこれまでのボリスの歴史を総括するように非常にバラエティに富んだ内容だ。その音楽的豊穣さはそのまま情報量にも繋がり、ボリス史上最も情報量の多い作品となった。本作にはドゥーム/ドローン/ノイズから出発したバンドがアニソンやヴィジュアル系、歌謡曲と言った日本的音楽要素を飲み込むまでの歴史が極めて濃度と強度の高い音を持って詰め込まれている。ボリスの膨大な諸作の中で中央に位置する指針となる作品と言えよう。
 更に本作はいよいよ日本のロック史に踏み切った作品と言えるのではないか。「Vanilla」や「太陽のバカ」のようにJ-ROCK的なメロディがあり、日本的な抒情性のある歌はイースタン・ユースやブラッドサースティ・ブッチャーズのような日本のオルタナティヴ・ロックの巨匠等に通ずるものがある。また、先鋭的なギタリスト栗原ミチオ離脱を逆手に取るように隙間を生かした有機的なバンド・アンサンブルは彼らが《バンド》に戻った事を強く印象づける。元々演奏の引き出しが多いとは言えないバンドだっただけに新鮮味を感じさせる。以前までは轟音で埋め尽くし楽曲の輪郭を曖昧にすることによって一種の暗号化するという手法をとっていた。しかし、本作は以前とは異なり楽曲の輪郭がはっきりしていることによって、より《音楽的》に感じられるのだ。全曲をシングルにしても差し支えないぐらい分かりやすく、且つ質が高い。「Angel」のような大曲でも極めてキャッチ―だ。「Quicksilver」のような疾走感溢れるハードコアな楽曲でも歌が耳に残る。ギターフレーズも極めてJ-ROCK的である。全曲比較的コンパクトな仕上がりとなっている。
 ボリスがここにきて日本のロック的なアプローチを強めて来ているのは、日本のバンドでありながら海外活動を主としてきたのが大きいのではないか。外から内を見ることによって日本のロック、音楽の面白さに気づいたのではないか。これまでのボリスに日本の音楽的要素が感じられなかったわけではない。己の中に流れる日本の音楽的素養を持ちながら『NOISE』にはまるで海外のバンドが日本のロックを解釈したような、ある種矛盾を内包したユニークさがある。
 本作でボリスはこれまで海外の文脈で語られてきたものから、日本の音楽シーンの文脈で語られるべき存在となった。『NOISE』は日本のロック史に新たな金字塔を打ち立てたのだ。(佐久間 義貴)

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20150517

YIM寄稿者によるメタル座談会:その4

 asatte+メタル企画4回目。今回が最終回となります。ここまで触れられてこなかったジャズやクラシック、ポップスとメタルの関係についてみていきます。

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——最後は板垣さんのセレクトです。板垣さんにはメタルと他のジャンルとの親和性という観点で、年代やジャンル問わず広く選盤してもらいました。

■ 山下洋輔トリオ「キアズマ」

——音源は山下洋輔トリオのヨーロッパで75年に演奏されたライヴ音源。ドラムは森山威男、アルトサックスが坂田明です。

堀中:正直聴いてみたかったんですよ。僕は聴いたんですけど、これがメタルには全く聴こえないですね。

佐久間:僕も聴こえなかったです。どこにメタルっぽさを板垣さんが感じているのかを聞きたくて。

板垣:全然メタルに聴こえなかったですか?

——メタルよりもジャズのほうが馴染みがあって、普通にジャズとして聴いていました。主にメタルっぽいなと思うのは、どの楽器ですか。

板垣:どの楽器が、というより全体的にメタルを感じます。音の詰め方がすごくスレイヤーっぽいなと私は思って。

——曲中にあまり隙間を作らない感じというか。

板垣:そうです。前ノリというか。R&Bとかは溜めていくじゃないですか。そうではなくて前のめりに音を鳴らしている感じが、ハードロックとかメタルっぽいなと。山下洋輔さんや、同時期のフリージャズ、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(Art Ensemble Of Chicago)とかを聴くと、楽器が叫んでいるように聴こえる。

佐久間:スレイヤー的というと、ドラムはそういうところがあるかもしれないですね。ポール・ボスタフではなくデイヴ・ロンバートにはそういう感じがあると思う。

堀中:ドラマーがこういうジャズに影響を受けているというのはあるかもしれない。このアルバムも75年発表でスレイヤーの結成よりも前の作品だし。

佐久間:確かに、オーペスのドラムはジャズ的なところとも隣接してる気がします。

——この曲の終始一貫した焦燥感というか執拗に音を鳴らし続ける感じは、最近のライヴでも変わってないですよね。あと、メタルを感じるジャズとして座談会の前にバッドバッドノットグッド(BadBadNotGood)も挙げていました。


■ バッドバッドノットグッド(BadBadNotGood)「Bugg'n」

板垣:いま、またニュージャズみたいな面白いジャズが沢山出てきていて、そういうのがメタルとクロスすることがないのかなあと。ジャズが変わったら、ロックひいてはメタルも変わるように思っていて。ジャズは色んな模索を経て現在のニュージャズに至る訳ですけど、さっきのようなフリージャズが壊して生んだものも含めて、ジャンルを超えた地殻変動が起きないかなと期待しています。かつてミクスチャーが生まれてアーティストたちが様々な方向を向いていた時代みたいな動き。ロバート・グラスパー(Robart Glasper)ニルヴァーナ(Nirvana)の「Smells Like Teen Spirits」をカヴァーしましたけど、グランジを黒人音楽のノリに変えてしまっていた。エレクトロの分野からもフライング・ロータス(Flying Lotus)とかみたいにジャズの影響を受けて新しい音を作る動きがある。

——ジャズとその他のジャンルが相互に混ざり合っていく流れがここ最近ずっとあると。

板垣:ニュージャズでも、バッドバッドノットグッドみたいに白人の側からの回答も。今のところ、ニュージャズで楽器が叫ぶ系はないように思うけど、これから出てきてもおかしくないのではと。

——ジャズは、ビバップとかモードとか理論的な面での変化や進歩があったように思います。メタルについてもそういった理論的な進歩や新しい奏法などが今でも登場しているのでしょうか。

佐久間:現在では全くないと思っています。さっき取り上げられたオーペスも最初の方がすごく斬新なんですよね。プログレとデスメタルの要素があって。マストドンも初期よりもだんだん70年代の要素がどんどん増えていて、トラディショナル化するというか。最終的に皆そういう方向に行ってるんじゃないかって。

堀中:個人的には、音楽的に進歩したとか新しかったのはパンテラ(Pantera)の登場までかなと。

板垣:そうですね。

堀中:ああいうヘヴィなリフでというのはパンテラが最後で、その後はそれまでの要素の組み合わせというか。

板垣:パンテラから影響を受けて他の要素を取り入れているバンドはすごく多いですよね。


■ アンエクスペクト(Unexpect)「Desert Urbania」

板垣:その名の通り、予想外の展開をするという。スイング・ジャズみたいなものがベースにあるような感じがします。アヴァンギャルド・メタルと言われているようなジャンルの一つかなと思います。

佐久間:展開が凝っているメタルの中でも、ポップなものとそうでないものがあると思いますが、これはすごくポップですよね。プロテスト・ザ・ヒーロー(Protest the Hero)とかと同じような。

板垣:あの路線に近い感じではあります。メロディがあるようなないようなというか、途中でメロディを壊してまたメロディを作るような感じ。ジャズの要素にクラシックとメタルの要素が入ってるようなイメージがします。

佐久間システム・オブ・ア・ダウン(System of a Down)とかにも近いですよね。彼らがアヴァンギャルドなメタルの一番有名どころかもしれない。

——アンエクスペクトはカナダのバンドですね。

堀中:カナダってこういうプログレっぽいというか、テクニカルなバンドが多いような。

佐久間:プロテスト・ザ・ヒーローがまさにカナダですよね。

板垣:そうそう。プロテスト・ザ・ヒーローのようなテクニカルでかつエモっぽいサウンドがすごく受ける国なんですよね。

——エモについてはここまで何度か話に出てきましたが、メタルから派生している部分もあるんでしょうか。

佐久間:それはないですね。エモはハードコアです。元々エモはフガジ(Fugazi)のイアン・マッケイですよ。イアン・マッケイと、ジョーボックス(Jawbox)のJ.ロビンスが2大巨頭ですね。そこからポスト・ハードコアを経由しての泣きっぽい歌とかメロディとか。

——ハードコアを出自に発展していったという。

佐久間:そうです。あとはポスト・ロックとかと接合していってという。

堀中:そういうところの際にあったのが、先日来日したミネラル(Mineral)とか。ミネラルもライヴ見てるとハードコア。アンプは持ってきてなくて、ライブハウスにあるマーシャルのアンプに直差しでギター振り回しながら演奏してて。でも、音は綺麗なメロディで、やっぱエモはハードコアなんだなあと。

——ハードコアとメタルというジャンルの成立時期を大まかにみるとハードコアの方が遅いですよね。

佐久間:遅いと思います。

堀中:ここでいうメタルの源流には70年代後期のNWOBHMがあって、ハードコアはその後(80年代以降)ですね。メタルはNWOBHM、つまりヨーロッパのイメージが強いですけど、一方のハードコアについてはUKのハードコアもありつつも、やっぱりアメリカのハードコアが与えた影響が大きいイメージがありますね。

佐久間:ロンドン・パンクに影響を受けた人たちが更に激速化していったのがアメリカですね。

堀中:そういう感覚の違いがあって、ルーツを辿っていった時に、ヨーロッパかアメリカかという。


■ ワーグナー「Twilight of the Gods」

板垣:どちらかというと神様が出てくるよりも悪魔が出てきそうな感じなんですけど。ドイツのハロウィン(Helloween)というバンドが、これに影響されて同名の曲をリリースしています。(アルバム『守護神伝 -第一章-(Keeper Of The Seven Keys Part 1)』に収録)

——ワーグナーはロマン派の作曲家ですね。座談会にあたってバッハの話も少し出てたように記憶していますが、メタルとクラシックの結びつきについてもう少し話を聞かせてください。

板垣:ロックって元々ブルースからきているじゃないですか。クラシックは自分たちの白人の音楽だからロックに取り入れられるんじゃないかということで、最初に取り入れたのが多分ビートルズだと思うんですけど、それをハード・ロックに取り入れていったのが、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer)のキース・エマーソンとかディープ・パープル(Deep Purple)のジョン・ロードだと思うんですね。取り入れる時に、今までのクラシックのモードみたいなものを新しいコードに変更したとリッチー・ブラックモアも言っていて、その辺が今のバンドにどう生きているかというのがわかったら面白いと思ったんですけど、私はその辺はあまりわからない。

佐久間:かなり技術的な話ですね。

板垣:そうですね。ただ、シンフォニックなメタルの和音の進行は、クラシックからの影響が大きいみたいですね。各アーティストがクラシックの進行を微妙に変化させて使っているのかなと。

——佐久間さんがさっき話していた変化とは逆方向での話ですね。ドローンとかと結びついて和音とか関係ない世界に行ってしまう一方で、あくまでもロジカル/技巧的に進歩させていくベクトルもあると。

板垣ダニエル・ラノワ(Daniel Lanois)のソロの「Opera」という曲を聴いたときにも、メタルっぽさを感じたんですよね。U2とかハード・ロック/ヘヴィ・メタルのプロデューサーなんですけど、最近はメタルっぽい実験音楽を作ったり、逆にスティールギターで和みの音楽やったりしています。実験音楽とはいえ、和音の基礎があった上で外してるみたいに思えます。自分がクラシックの中にハード・ロックを初めて感じたのは、友人の演奏会でだったんですけどね。

——それはフレーズのニュアンスとか、雰囲気があるとかそういったものですか。

板垣:そうだと思います。あとはヘヴィな感じがあるとか。ハード・ロック/ヘヴィ・メタルに陽性と陰性とあるとしたら、陰性なものにはそういった暗さや重さを求めてしまいますね。現実でのストレスや嫌な感情を忘れさせてくれる音、みたいな。あと『Metal Evolution』を書いたサム・ダン監督が言うには、ワーグナーの音を低音にしたものがハード・ロック的で、例えるとワーグナー=ディープ・パープル、ベートーベン=レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)、バッハ=ヴァン・ヘイレン(Van Halen)とか。


■ BABYMETAL「紅月」

佐久間:完全にX JAPANですよね。

板垣:私は「メギツネ」を聴いてBABYMETALにハマりました。でも歌い方が荻野目洋子さんとかのような日本のアイドルの歌謡曲。発声も基本ストレートな発声ですね。ペンタトニック・スケールで演歌にも近いかもしれない。いわゆるブラック・ミュージックのニュアンスとは違いますよね。

堀中:ライヴで「紅だー!」と叫ぶのではなく「アカツキだー!」と叫ぶ部分があって。そういうところまでオマージュするのかと。SU-METALはぎりぎり(97年12月生まれ)だけど、他のメンバーはX JAPANの解散後に生まれているし、もうX JAPANを知ってるとか知らないとかの話ではない。

板垣:X JAPANの要素に、アニメソングの要素に、アイドルJ-POPの要素に、B'zの要素もちょっと入っているように思って聴いてました。キバオブアキバとスプリットのシングルを出してたりとか、アキバ系の要素もあるかなと。

——アキバ系、という話ではメタル自体が日本だとオタク的なイメージもある音楽なのかなと思うのですが。

佐久間:そうですよね。板垣さんの話に出てたものって全部オタク×オタク×オタク、みたいに変換できるなって。

堀中:ファンとしても、一般的なところからはそう思われているという意識がメタラーと言われている人達はあって。それで閉鎖的になっているような感じがあります。例えば、とても有名なとある少年犯罪が報道されたとき、ワイドショーでは犯人はメガデス(MEGADETH)のファンだったと報道されたこともありました。他の事件でも、犯人が少女アニメファンだったとかって報道されてしまうのと近いというか。

佐久間:アメリカでも、少年犯罪者がスリップノットやマリリン・マンソン(Marilyn Manson)を聴いてたという話はありますもんね。

堀中:そういうところからの防衛本能のようなものが働いて、メタラー側が壁を作らざるを得ないというか、どうせそう思われているんだろうという感じでオープンになりきれない部分もある。海外も同じなのかもしれない。

——B'zっぽいっていうのはどんな感じですかね。

堀中:B'zっぽい=ジャパメタっぽいサウンドかなと思いますよ。日本語の問題もあると思うんですけど、メロディーから受ける印象が歌謡曲とかJ-POPを思わせる感じがあって、いわゆる洋楽っぽくない。

板垣:「いいね!」のイントロがB'zっぽいんです。Exective Producerに、Inabametalって名前があるんですよね。稲葉さんではないにしても、影響を受けてる誰かとか。

——「いいね!」は途中でゆるいラップが入っていたり、メタル度は低くくてアニソン的にも聴けますね。

堀中:J-POPのミュージシャンにメタル出身者が多かったのもあって、意識していないところでそういう要素が入り込んでいる可能性はありますよね。UNICORNTHE YELLOW MONKEYとかも、かつてメタル・バンドをやっていたメンバーがいたりしますしね。

——元々メタル的なものを刷り込まれていたんじゃないかと。

堀中:BABYMETALは、最新曲「Road of Resistance」でメンバーにメタルをやってるという自我がかなり出てきている感じがします。

——彼女達のサウンドに近いメタルのバンドっているんでしょうか。

堀中:新曲はドラゴンフォース(Dragonforce)のメンバーがギターを弾いていますが、いろんなものが混ざってるような。

板垣:一番近いなと思ったのはCrossfaithとか。

佐久間:Crossfaithはメタルともちょっと違うような。

堀中:Crossfaithはハードコアのイメージが強いですね。日本ではあまりメタルって感じじゃない。

——ハードコアとメタルの対比はこれまでの話の中でもよく出てきたポイントですね。

佐久間:日本のラウドロックシーンって特殊じゃないですか。これもそうだけど、Pay Money To My PainとかColdrainとか。このあたりはラウドロックという日本独特の括り方があって、Crossfaithもそっちに近いですね。

——なるほど。BABYMETALが広く聴かれているのは、メタルがどうこうというより、日本にはラウドロック的なバンドが結構いっぱいいて、そういったサウンドがポップスの中にもそもそもあったからなんじゃないかと。

堀中:それにも少し関連しているのですが、UK・Metal Hammer誌とUS・Revolver誌で、2014年5月に行われたBABYMETALのUK公演の後、BABYMETALに興味をもった人におすすめの日本のバンドを紹介した記事があります。

<BEYOND BABYMETAL: THE NEW WAVE OF J-METAL>
・FEAR, AND LOATHING IN LAS VEGAS
・MAN WITH A MISSION
・GALNEYRUS
・TOTALFAT
・SiM
・ONE OK ROCK
・MY FIRST STORY
・DAZZLE VISION
(参照元:Metal Hammer

<Six Totally Insane Japanese Metal Bands>
・BABYMETAL
・マキシマム・ザ・ホルモン
・MAN WITH A MISSION
・SIGH
・SAND
・SWARRRM
(参照元:Revolver Mag

——NEW WAVE OF J-METAL、と。

堀中:レコメンドされているのがONE OK ROCKとかMAN WITH A MISSIONで、日本ではロキノン系と言われているようなバンドも、UKのメディアからはメタルとして扱われていると。一方でアンダーグラウンドなものも取り上げられているんです。

佐久間:Boris、SWARRRMSIGHとかも。

堀中:紹介されてる文脈で考えると、BABYMETALのことをメタルかメタルじゃないかって気にしているのは日本だけなんじゃないのかと思いますね。今の20代くらいまではBABYMETALもONE OK ROCKも同じように聴いていて、それは海外でも変わらないんじゃないかなと。


*****

 1ヶ月にわたり定期連載してきましたメタル座談会は今回で終了となります。座談会を通し、元々ヘヴィ・ロックやプログレをルーツに形成されたメタルは、ハードコア的なものと交わり、理論的な面と身体的な面を両面持つことで、流動的にそれぞれのバランスを変化させながら様々なサウンドやいくつものサブ・ジャンルを生み出し続けているような印象を受けました。こうした流動性の中で、メタルはポップスからアンビエントまで、雑多なジャンルと結びついているのではないかと思います。本企画を通し何かメタルに対しての新しい視点や情報を得ることができていれば非常に嬉しく思います。最後までお読みいただきありがとうございました。
  

20150516

【レビュー】初音階段 『恋よ、さようなら』

ボカロとノイズによる錬金術 原曲への愛ある洋楽カバー集

初音階段
恋よ、さようなら
U-Rythmix Records, 2014年
 非常階段による他アーティストとのコラボの一つ、“初音階段”(=ボーカロイド“初音ミク”+キング・オブ・ノイズ“非常階段”)のスタジオ3作目は初となる洋楽カバー集。鮮烈なデビューを飾った前年に続き、2014年も新作リリースや海外公演など活発な動きを見せた。
 前作『からっぽの世界』は、佐井好子や裸のラリーズらのマニアックなものからアイドル・ソング、アニソンまで多彩な邦楽のカバー集で、ノイズとボカロの意外な邂逅によって相性の高さを示した彼ら。初音ミクでは初となる英語版ライブラリーが2013年9月にリリースされたということで、洋楽カバーの制作は半ば必然で、早くも2014年2月にリリースされたのが本作『恋よ、さようなら』だ。
 今回取り上げられた楽曲は、バート・バカラック、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、パティ・スミス、スラップ・ハッピーらの多彩なジャンルの10曲。なかでも、ケイト・ブッシュの個性的なボーカルにも負けることなくボカロが違和感なく聴けてしまう「嵐が丘」や、バックで鳴り響くギターによるノイズがむしろ美しくさえ聴こえる「風に語りて」は、斬新な解釈と原曲への愛が感じられる秀逸な仕上がりだ。トッド・ラングレンの名曲「瞳の中の愛」、リンダ・ロンシュタットの「愛は惜しみなく」もオリジナルの雰囲気を損なわずに初音ミクの魅力も引き出すボカロのトラックの完成度が高さに驚く。
 アートワークは、曲では取り上げていないエマーソン・レイク&パーマーのアルバム『LOVE BEACH』のレコード・ジャケットへのオマージュ。しかも青春胸キュン・イラストレーターのわたせせいぞう“風”タッチで、という念の入れようだ。
 ボカロPによる各トラックの好プロデュース、出すぎず引きすぎないノイズを絶妙に被せるJOJO広重の天才的名演などが相まって、違和感ないどころか、こんな新解釈による洋楽カバーはかつてないのではないかというくらいの完成度。JOJO広重が主催し非常階段の作品をリリースしてきたレーベルの名が“アルケミー(錬金術)”だが、ボカロ+ノイズで想像以上の価値を提示し、バカラックとヴェルヴェッツとクリムゾンなどあり得ない組み合わせに違和感を覚えさせない洋楽カバー集となった本作は、まさに“錬金術”のなせる業だ。そして、この斬新な錬金術の根底にあるのはJOJO広重の原曲に対する愛であることはもはや言うまでもない。(夏梅 実)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150514

【レビュー】ザバダック 『プログレナイト2014』

火を噴く凄絶ライブ 福島民謡プログレバージョン

ザバダック
プログレナイト2014
GARGOYLE RECORDS, 2014年
 福島県の民謡「相馬二遍返し」の火を噴くような凄絶なカバー。アルバム最後に収録されたこの曲はメンバーの小峰公子の出身地である福島のいわばトラッドで、最近のライブではお馴染みの曲だ。初期ザバダックはケルト音楽やトラッド・フォークの影響が色濃く出ており、オリエンタルな要素を加えた日本風フォーク・ロック的な曲もあるが、日本のトラッドを正面から取り上げ、かつ大胆なプログレ/ハードロックアレンジで聴かせるこの曲はそれらとは一線を画す。今後もライブを重ねるごとに研ぎ澄まされていく予感を抱かせ、小峰自身が「ザバダックにとっても大切な曲」と語るとおり、代表曲の1曲に数えられることになるだろう。
 本作は、2014年7月12日に東京キネマ倶楽部で開催された“プログレナイト2014”公演を収録したライブ盤。難波弘之、鬼怒無月ら手練のサポートメンバーを加えた総勢8人編成のバンドが繰り出すアンサンブルには驚愕の連続だ。複雑な難曲をそう感じさせないベテランならではの風格。スタジオ最新作の組曲「夏秋冬春」をバラして順序を変え間に別の曲を挟むことで新たな組曲としても聴ける「秋」「KIMELLA」「夏」の大曲3曲は中盤のハイライトだ。観客のリコーダーとの合奏「POLAND」を経てラスト「相馬二遍返し」に続く。
 CDの収録時間の関係もあってかライブの完全収録ではないが、逆に良い意味で当日と異なる印象を与えている。会場の盛り上がりをリアルに伝えるなら外せないはずのアンコールを含む終盤やライブ定番曲はカットし、まだ5曲を残す13曲目に演奏された「相馬二遍返し」で締めてしまうという大胆な編集。ライブ自体は終盤からアンコールで演奏された定番曲で大いに盛り上がってお祭り騒ぎとなるわけだが、それは“プログレナイト”には無用な陽気さだ。前半のストイックで重厚長大なプログレ部分だけを抽出して凝縮したことで、国内外の近年のプログレ系ライブ作品の中でも出色の出来となった。
 ザバダックは、吉良知彦と小峰公子のメンバー2人に毎回多彩なゲストを迎えてのライブに定評がある。2014年は3年目となる“プログレナイト”開催に続き、秋には“プログレツアー”を敢行するなどライブでもプログレに注力。結成以来30年、幅広い音楽性を取り入れて新たな価値を提示してきたザバダックが今あえて挑むプログレ。ここでも固定観念を壊して新境地を拓くだろう。(夏梅 実)

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20150512

【レビュー】蓮沼執太フィル 『時が奏でる』

時は奏でるから、今を生きてみない?

蓮沼執太フィル
時が奏でる
AWDR/LR2, 2014年
 「ONEMAN」の始まりはこうだ。"一斉に振り向く光の中、一緒に行こうと言ったのは誰? 熱烈なノックの中、僕はうまれる時を、たずね、たばね"。
 15名の錚々たる顔ぶれを束ねるコンダクターの蓮沼執太とコーラスの木下美紗都の声から奏で始められるイントロに、私の中の時は一瞬静止する。アルバムタイトルを初めて目にした際も同様の現象が起こった。それまでに出会ったことのない"時"の表現だったからだ。この文章を読んでいるあなたは、"時"という言葉に対してどのような印象をお持ちだろうか?筆者の場合、生物がこの世に生を受けてから最期を迎えるその瞬間まで、意思とは関係なくただ流れていくものだと認識していたため、"時が奏でる"って一体どういうことなのだろう?と驚いた。現代では多くの場合、"音楽や楽器を鳴らす"というような意味で使用される"奏でる"という動詞がついているのがただただ不思議だった。しかしこのアルバムに収録されている合計8つの楽曲を聴き納得させてもらったと同時に、新しい"時"に対する見方を与えてくれることになる。
 朝初めて外に出る際耳にすると心地良く1日の始まりにぴったりな曲たちの中でも特に5曲目「YY」の場合、イントロのピアノとベースのメロディラインが明るく心地良く、また四拍子を刻むハイハットのリズムがうれしい。その後少しずつ加わるホーン隊や鍵盤楽器の音色も最高だ。あえて引用はしないでおくが、歌詞の言葉の選び方も素敵なので是非チェックをお願いしたい。シンプルな楽器たちの音色や抑揚がほとんどされない上質な声による音楽が、こんなにも心地良く爽快にさせてくれるなんて。
 各楽器の音色からコーラス、ラップまでもが合わさり届けられたフィルの音楽は、普段電子音楽を好んで聴く私にとって新たな発見だった。ただ流れていく時をこんなにも楽しい気持ちにしてくれる音楽を聴くという行為が最高の歓びであること、またそれがエネルギーとなり意識を変え、どう生きるかについて考えさせてくれるきっかけになると気づかせてくれた。音楽は聴き手の時の流れを変えてくれるパワーを秘めている。せっかくこの世に生まれることができたのだから、少しでも楽しく生きたい。そのために私には刺激をくれる素敵な音楽に出会うことが必要不可欠だ。自分の意識次第で時は奏で始めてくれるかもしれない。生きてみない?と誘ってくれるかもしれない。(Ayumi Ota

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150510

YIM寄稿者によるメタル座談会:その3

 asatte+のメタル座談会企画3回目となります。これまでの2回は堀中さんのセレクトで大まかにいくつかのメタル内のサブ・ジャンルを見てきました。(その1その2)今回は佐久間さんのセレクトで、スラッジ・メタルやドゥーム・メタルをキーワードに様々な音楽との隣接をみていきます。

*****

■ スーマック(Sumac)『Blight's End Angel』

佐久間ロシアン・サークルズ(Russian Circles)というインストのヘヴィロック・バンドのベーシスト、ブライアン・クックとバプティスツ(Baptists)のドラマー、ニック・ヤシシン、そして元アイシス(Isis)のフロントマン、アーロン・ターナーが組んだバンドです。アーロンは2014年にオールド・マン・グルーム(Old Man Gloom)で2枚アルバムを出しているんですが、先ほどのRolling Stone誌のベスト・アルバムにも選ばれていました。ただ、このアルバムはそれをはるかに上まわる完成度を提示しています。

——ギターがメロディーではなく、ヘヴィなリフを反復して曲がで進んでいくスタイルで、皆さんのセレクトの中でも特徴のあるサウンドでした。

佐久間:僕がメタルとかヘヴィロックといったいわゆるヘヴィミュージックの中で唯一未だに聴いているのはスラッジ・メタルとドゥーム系なんですね。それらの音楽の特徴がリフの執拗な反復なんです。曲のテクスチャー、構成もミニマルで。スワンズ(Swans)とかが始祖的な影響があるかなと思います。

板垣:スワンズに凄い近いですね。

堀中:いわゆるメロディっていうのが全然ないっていう。

佐久間:アーロンが昔やっていたアイシスにはメロディ要素がありました。それも最終作で究極的に洗練されていたのですが、 アーロンはもうそういう洗練されている形のヘヴィロックはやらないと。スーマックはアイシスとは、またベクトルが別の方向で完成度が高い。しかもここ5年くらいのアンダーグラウンドのヘヴィロック/ハードコアシーンの総決算的なことをやってきた。

板垣:スウィングしてる感じがしたんだけど。ブラック・サバスとかああいう感じの。

佐久間:ブラック・サバスの影響はかなりありますね。ドゥーム・メタル、ブラック・メタルもブラック・サバスを起源にしていますよね。

——スーマックのサウンドに関しては、新しいというよりも凄く洗練されているという感じなんですかね。

佐久間:そうですね、非常に洗練されたアルバムだと思います。構成でいうと結構いろんなことやっているんですけど。

堀中:新しいっていう感じはしない。

佐久間:マスロック的というか、数学的なアプローチの、非常に作りこまれた構成です。一方でフリーキーな感じもして。おそらくジャムセッションを発展させて作っているんじゃないかと。これは2015年のベストアルバムに選ばれるクオリティのものだと思います。



■ チェルシー・ウルフ(Chelsea Wolfe)『Apokalypsis』

——佐久間さんはのセレクトは段々周辺的になっていきます。

板垣:今回選んでいるのは最新作じゃないんですよね。

佐久間:最新作はニューウェーブっぽい要素が強くて、2012年に出た本作の方がまだドゥームとかブラック・メタルっぽい要素があるので、こちらを持って来ました。

板垣:2013年に出た最新作の『Pain Is Beauty』は色んな楽器が入ってて。

——ぱっと聴いてメタル要素があるなと思う曲の方が少ないかなと。

佐久間:チェルシー・ウルフがデビューした時にドゥーム・フォークという形容詞が使われいて。ドゥーム・メタルをより記号化してるんですよ。雰囲気的な領域になっていて。確実にドゥームとかブラックメタルが持つ不穏さとか音の質感が近いなと思うんですけど――例えば、Sunn O)))のような、いわゆるドローン系のドゥームと接点ですね。サン O)))はドゥーム系中でも極端なアプローチを取っていて、基本的にはサバス直系のリフを執拗に繰り返しますが、彼らの場合大音響で一つ一つのコードを鳴らすので、リフの原型が識別しにくいぐらいに記号化/拡張化しているんですね。チェルシー・ウルフのドゥーム要素もサン O)))とは別ベクトルですが、より記号化された形で提示していると思います。

——ドゥーム・メタルって言われているところとの質感が、かなり隣接していると。音数を減らしていくとこういう感じになるみたいな。他にドゥーム・フォークと言われていた人たちいるんですか。

佐久間:いない。ドローン・フォークと言われているのは、まあグルーパー(Grouper)とかいますけど。

板垣:どっかでドローン・メタル・アート・フォークって書いてあったけど。何かオルガン系も使っていますよね。

佐久間:使っていますね。チェルシー・ウルフは単独含めライヴも行きました。

——決まったバンド・メンバーでやっているんですか?

佐久間:みたいですね。今のところ。

板垣:私凄い好きな系統です。普通に聴くとメロディはないんだけど、メロディが隠れているというか。つないでいくとメロディになる。

佐久間:これも構成としてミニマルですよね。ブラック・メタルのバンド、バーズム(Burzum)も結構なんかアンビエントっぽい事をやっていて。アンビエントな曲でも不穏なブラック・メタルの匂いはする、という感じにチェルシー・ウルフも近いかなと思って。

——ドゥーム的な、ダークだったり、神秘的な空気感は聴いていて感じる一方、あまりこれ見よがしじゃなくどういう風にも聴けるようなバランスが素晴らしいアルバムですよね。あと、彼女はエメラルズ(Emeralds)とかワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)とかと交流があるというのも納得させられました。



■ ウィリアム・ファウラー・コリンズ(William Fowler Collins)『Slow Motion Prayer Circle』

佐久間:次はウィリアム・ファウラー・コリンズというドローン系のアーティストで。相当ニッチです。

堀中:曲と言われると曲かなあっていう…。

——これ再生されてますか。

佐久間:始まってます。始まってるけど別に飛ばしても変わんないんじゃないかっていう。

堀中:曲のクレジットすらない。

佐久間:この人は基本ギターで演奏し、曲を作っています。2010年か2011年にこの後も出しているんですけどそっちはまだ入手してなくて。

——この人はニュー・メキシコが拠点とのことですが、面白いっていうかわけわかんないっていうか。本当に家で一人でやっているんじゃないかっていう。

佐久間:そうだと思いますよ。アイシスのアーロン・ターナーと幼馴染の人らしいんですよ。アーロン・ターナーが奥さんとやっているSIGE(シージー)レコード。そこからカセットテープとかアナログ盤とかで作品を出していて。作品数はそんな多くないですね。この人はブラック・メタルとかドゥームっぽいことを取り入れているアンビエント・ミュージックだと思うんですけど。クリスチャン・フェネス(Christian Fennesz)とかティム・ヘッカー(Tim Hecker)とかの、もっとブラック・メタルとかの色が濃いバージョンみたいな。

——どこかでエクスペリメンタル+ブラック・メタルって感じで紹介されてもいましたね。確かにそれよりもアンビエントっぽいかなあと。

佐久間:ブラック・メタルのリフをもっとなんか記号化して膨張させている感じですよね。

——ガンガンガンガンじゃなくて、ガーーになってる。

板垣:ライヴだとどうなるんでしょうかね。

佐久間:多分基本、即興ですよ。ギターとペダルを使って。YouTubeとかに動画もあんまりなくて。

——2000年代はメタル関連の人たちがアンビエントとかもう少し広く実験的な方面に行くっていうのは多かったんでしょうか。

佐久間:実験的な音楽っていうところで言うと、ナパーム・デスのミック・ハリスがやってたスコーン(Scorn)とかジェイムズ・プロトキン(James Plotkin)の影響が大きいと思いますね。

——ナパーム・デスみたいなヘヴィでハードコア的な音楽をやっていた人たちがどういった流れで実験的な方向に行ったのでしょうか。

佐久間:ミック・ハリスはナパーム・デス脱退後にスコーンでトリップホップとかドラムンベースをいろいろやっていて、あとはレゲエとかアンビエントとかも取り入れてました。一方でルル(Lull)というソロ・プロジェクトではアンビエントとかをやっていましたね。アーロン・ターナーとかもヘヴィミュージックから基軸としつつ、それらの実験的アプローチをやっていて、アングラ系のヘヴィロックの界隈にいた人たちが最終的に実験的な方に行く、という流れがありました。

——アングラという話でいうと、どこか特定の地域でシーンが盛んだったとかそういったものはありますか。

佐久間:シアトル周辺――そこら辺の出身であるアース(Earth)の93年に出した『Earth 2』という作品があるんですけど、それはただブラック・サバスのひとつのリフを延々弾き続けるような作品なんです。あれは、その後のいわゆるドローンの概念を応用したドゥームの実験的アプローチのパイオニア的ものだと思います。メルヴィンズ(Melvins)とかもそうですね。この辺は2000年代以降のミュージシャンに影響与えているなと。

——やっぱりドゥーム的なものってドローンとかと簡単に結びつきやすいですね。

佐久間:サン O)))とかまさにそうじゃないですか。日本だとボリス(Boris)とかがそういうことやってますね。



■ ロクリアン(Locrian)『Return To Annihilation』

佐久間:これはいわゆるドローンなんですけど、でもものすごいヘヴィロックの形態に近いドローンというか。シカゴのバンドですね。

——Relapse Recordsというメタルのレーベル所属と。

堀中:マストドンとかも、もともとRelapse Records出身で、アメリカのアンダーグラウンドのメタルとかデスメタルのバンドとかが結構います。

——この曲はミックスに特徴がありますよね。演奏自体は非常にヘヴィなサウンドなはずなのにミックスで音を絞って遠くに配置しているというか。

佐久間:ある意味ドローン系中では、サン O)))とかよりもっと分かりやすい例ですね。。

——ロクリアンはどのくらいのキャリアのバンドなんですか。

佐久間:割と十年くらいやっていたと思うんですけど。アーロン・ターナーとその奥さんのフェイス・コロッチャがやってるマミファー(Mamiffer)というバンドがあって、それとコラボ盤を2年前に出しているんですよ。その時点で結構出してます。2005年くらいからです。

——後半の泣きのメロディみたいなフレーズは邦楽にもありそうなくらいキャッチーですね。

佐久間:これは結構明るい方だと思ってて。昔はもうちょっと暗かったです。その前のアルバムからJ・G・バラードの小説を元にしたコンセプトアルバムなども作ったりしていました。

——これレコーディングとかどこでやっているんですか。

佐久間:基本的にシカゴでレコーディングしているようです。

——録音はグレッグ・ノーマン。スタジオがエレクトリカルオーディオで。ミックスもグレッグ・ノーマンがやっている。やっぱりそういう意味ではシカゴの音響的な。

佐久間:ここまで紹介して来たバンドにどれも共通しているのが音響感覚に対して鋭敏というところがあるかと思います。僕もそういう音響的なアプローチ――いわゆるポストロックとか音響派が大好きなんで、そこの延長上で聴いているといった感覚はありますね。

——メタルの中でノイジーなものをやっていると、音響的なところにも簡単に接続しやすいと。

佐久間:僕自身も、メタルとかハードコアを聴くようになった頃からトータス(Tortoise)なんかを並行して聴いていました。未だに10代の頃からずっと、デフトーンズとかトゥールを聴いているのもその延長ですね。デフトーンズとトゥールはアンビエントなどの音響的なアプローチを盛り込んでいるヘヴィロックだと僕は認知しています。

堀中:音響派的なポストロックやマスロックっぽいとこととメタル的なサウンドのクロスポイントが、ロクリアンとかシカゴのシーンかもしれないですね。

佐久間:残響のte’なんかもドラムがかなりメタルっぽいですよね。

——メタル好きの日本のバンドって結構いますよね。the band apartとかもともとメタルのバンドやってたっていう話を聞いたことがあります。やっぱりメタルやってた人たちって演奏うまいなと。ロクリアンはシカゴの全体のシーンと直接結びついてるバンドだっていうのは確かに言えそうですね。

佐久間:シカゴのシーンで言えば、トータスのジョン・マッケンタイアがデヴィッド・クラブスと昔やっていたバストロ(Bastro)もメタリックなポスト・ハードコアでした。

堀中:これはちゃんと聴いてみたいな。

(その4へ続く)

*****

 メタル座談会もいよいよ終盤となります。次回は板垣さんのセレクトでジャズやクラシックといったこれまでに登場しなかったジャンルとメタルの関係を取り上げます。(BABYMETALもやっと登場します!)
  

20150508

【レビュー】Andersons 『Stephen & Emily』

Kidz Rec.の盟友、ふたりの邂逅

Andersons
Stephen & Emily
PARK, 2014年
 2013年3月にBandcamp上でミニアルバム『Andersons』をリリースしてから約1年半。お互いに80kidz主宰のKidz Rec.より楽曲をリリースしていたKentaro(a.k.a. Scottish Fold)とDominikaのふたりによるAndersonsが今年9月、待望のアルバム『Stephen & Emily』を発表した。
 アメリカの片田舎に住む冴えない兄・ステファン=Kentaro(Gt.)と妹のエミリー=Dominika(Vo./Piano)兄妹が退屈な日常を変えるために音楽を始めるというストーリーを結成のコンセプトに持ち、シンプルなサウンドとメロディ・ラインにより展開される全9曲を聴いていると、自由に自然体で音楽を楽しむふたりの姿が目に浮かぶようだ。
 Kentaroのメロディ作りのセンス、またソロ活動時の作品にもあらわれているDominikaの歌唱力と表現力の光るこのアルバムの中でも、2曲目に収録された「Young Love」には特に注目してほしい。幼くて心が締め付けられるような恋心をDominikaが豊かな表現力で歌い上げている。また、イントロのメランコリックなメロディ、ベースのシンプルな進行も気分を盛り上げてくれる。相手のことが好きすぎてクローンを作ってしまった女性が主人公の映画『さまよう小指』のテーマ曲としてこの楽曲が起用されたことには必然を感じずにはいられない。また8曲目の「Last Summer」では、過去にScottish Fold名義で発表された楽曲やリミックス作品にも共通して感じとれるメランコリックさやノスタルジックさをいっそう感じられ、当時からのファンである自分もおおいに喜ばせてもらった。
 Webメディア〈インディーズライフ〉でのインタヴューによると今年某有名女性J-POPアーティストに楽曲提供を行っているのだが、なんと今年9月のアルバム発表前、Bandcampでのみ音源を発表していた段階でアーティストのA&Rから声が掛かったという話もおもしろく、今後はどんなところから声が掛かってしまうのか僭越ながらとてもわくわくしている。11月に渋谷で観たライブでは、タイトで眩しい衣装に身を包み表現力豊かにリズムに合わせダンスしながら歌うDominikaの姿から目を話すことができなかった。2015年の彼らの飛躍が楽しみでならない。(Ayumi Ota

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150506

【レビュー】Shiggy Jr. 『LISTEN TO THE MUSIC』

90年代のわくわくよ、2014年によみがえれ!

Shiggy Jr.
LISTEN TO THE MUSIC
mona records, 2014年
 フロントマンの池田智子(Vo)と曲作りの核を担う原田茂幸(Gt)は僕と同じ25歳だ。
 僕らと同世代である人がこの「LISTEN TO THE MUSIC」を聴いたなら、初めて出会った音であるにも関わらず「どこか聴きなじみがあるな」と感じるかもしれない。それは90年代を通過してきた僕らが暮らしのなかで意図せずに聴き、浴びるようにして育った音楽 -つまり「J-POP」を血肉に変えて、現代のシティ・ポップへと再構築したものこそがこの作品だからだ。
 90年代当時、オリコンチャートを席巻しミリオンを連発したTKサウンドやビーイング系の楽曲は若者たちの間でこぞってカラオケの十八番として歌われ、夜通し盛り上がるBGMの定番だった。「今が楽しければいい」というある種の刹那主義/現場快楽主義とでもいうものが90年代の空気であり、この時代のJ-POPの良さだったのではと僕は思う。
 『LISTEN TO THE MUSIC』はこうした楽天的な部分に突き抜け、音楽が持つ快楽の要素が弾けんばかりに溢れている。はつらつとした歌詞や打ち込みとテクノ感のある音の粒から構成され、まるでJ-POPの無垢な部分を抽出したようなポップをふりまくタイトル曲「LISTEN TO THE MUSIC」や、ホーンのリズミカルな掛け合いが楽しい「day trip」、〈アイスクリームみたいに溶けそう〉と恋する乙女の心情をストレートに歌う「Baby I Love you」など、全編を通してキュートで迷いのない歌声。楽しく歌おう。楽しく聴こう。それだけに振り切っている、その潔さが気持ち良い。誰もが口ずさむことができるキャッチーな楽曲たちは360度全方向に瞬間を楽しむ幸せを放出している。また彼らの青春時代を彩ったチャットモンチーなどのバンドから影響を受けていることや、現代のクラブ・ミュージックの要素が盛り込まれたことも大きい。それが今作を「この時代のシティ・ポップ」へ昇華させ、90年代への回帰に留めるのでなく四半世紀の成長過程を経て作られたものに仕上げている。
 -2014年、今ありきとして消費された90年代の音楽たちは街の片隅で忘れられたように投げ売られ、いっときのブームとして命を終えたかに見えた。だが僕らの音楽の原体験であり、僕らを形造ってきたこのJ-POPたちは今、シギー・ジュニアの手によって再び現代に定義されようとしているのだ。(森 勇樹

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150504

【レビュー】Spoon 『They Want My Soul』

着飾らずとも、艶やかで力強いということ

Spoon
They Want My Soul
Loma Vista, 2014年
 音像が世の中にあまりにも多く溢れていたのではないだろうか。00年代後半NYインディーに端を発し、ハウスからアフリカン・ミュージックまで多くのジャンルを飲み込んで混淆的な様相を見せていたのが近年のロックだった。過剰に音を塗りたくり、複雑さを増していったそれは”大衆的な”という意味を含むポピュラー・ミュージックの本質から私たちを置き去りにしつつあったかもしれない。
 そんなシーンを知ってか知らずか、20年超のキャリアを持つスプーンの新作『They Want My Soul』は骨太な60年代的メロディを基幹にロックの伝統的な初期衝動を感じさせる。それでいて、10年代の潮流となりつつある緻密な曲構成や質の高い録音を用いて革新性を提示することも忘れていない。タイトル曲「They Want My Soul」の〈ああ、やつらは俺の魂が欲しいのさ!〉というソウルフルな叫び。自らを取り巻く泥濘としたものを蹴散らす力強さには思わず拳を握った。
  冒頭の破裂音を思わせるスネアから始まり、ドライな硬さと美しいリフを携えたミドル・ナンバー「Rent I Pay」。かき鳴らされるギターは頼もしくも、恍惚感を湛えたコーラスは輝きを放つ「Do you」では繰り返されるサビを思わず一緒に口ずさみたくなる。気の抜けたカントリー調のイントロが特徴的な「Let Me Be Mine」は、近年復権を見せつつあるスラッカーな空気との共振を漂わせるようだ。ラストに流れ込む「New York kiss」はNYの街角での古い恋人と交わした接吻がありありと浮き上がり、センチメンタルな思いに締め付けられる。
 先には初期衝動と述べたが、多くに絡めとられたロックが蔓延した現代において本作は単なる過去の引用に留まらない。ブルックリンで00年代の音楽を方向付けた代表格のTV・オン・ザ・レディオが本年『Seeds』で新たに見せたフィジカルさにも通ずるような、理性よりも本能に訴求する―そんな魅力を秘めているように思う。時代の空気に触れつつ、決してトレンドに逸って作られたものではない。「色々な新しい音楽を見つけよう」というバンドが従来から持つスタンスがもたらした会心の一撃は、見事に全米四位の座を再び射抜いた。この功績はスプーンがオルタナティヴ=唯一無二なロック・バンドであることの何よりの証であろう。まだまだロックの未来は捨てたものじゃない。(森 勇樹

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150502

YIM寄稿者によるメタル座談会:その2

 先週よりスタートしましたasatte+のメタル企画(その1はこちらからご覧ください)。前回に引き続き今回は堀中さんのセレクトからメタルとハードコア、シューゲイザーのつながりについてみていきます。

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■ カーカス(Carcass)「Cadaver Pouch Conveyor System」

堀中:次に3枚目なんですけど、カーカス(Carcass)です。リヴァプールを拠点に85年から95年まで活動していて、その後2007年に再結成しています。中心人物のビル・スティアー(Bill Steer)という人がいるんですけど、彼が1969年生まれなんで、いま45-6歳くらい。さっきのバンドより5-6歳上くらいですね。

佐久間ナパーム・デス(Napalm Death)にいた頃は10代とかでしたよね。

堀中:そうですね。彼は初期の頃はナパーム・デスのようなグラインド・コアのバンドに参加していましたし、その後は70年代のブルース・ロックをやるファイアバード(Firebird)というバンドとか、今もジェントルマンズ・ピストルズ(Gentlemans Pistols)というプログレッシブ・ロックをやるバンドとかいろいろやっていて、ルーツとしては70年代のプログレとかハード・ロックを聴いてきた人なんです。この作品なんかは先ほどのオーペスの作品と対になる部分もあると思うんですけど、カーカスはより伝統的なメタルの要素をかなり前面に出してきたのが2013年に出たこのアルバムで、僕はこの作品が2010年代で一番いいメタルアルバムだと思ってるんですけど。

——とにかく手数の多いドラムとエッジーなギターリフにだみ声のボーカルと、今回挙げてもらった音源の中でも、個人的には一番「メタル」っぽい音源でした。

堀中:いまとなってはよくあるスタイルなんですけど、ボーカルはずっとスクリームしてて、その代わりにギターがメロディーを弾くというスタイルは、このカーカスというバンドが90年代に出していたアルバムが与えた影響は大きいです。そういう意味で尊敬されているバンドですね。さっきのオーペスとかマストドンとかと同じで、70年代の音楽、例えばジューダス・プリースト(Judas Priest)とかをリスペクトしながら、おどろおどろしい不穏な感じのメロディー・ラインを多用しているところも、他のバンドに影響を与えていると思います。

佐久間:いまカーカスを聴くと、現代のメタルコアとかのバンドはいろいろ引用していますよね。

堀中:そうですね。いまのメタルコアのバンドは、直接的ではないにしてもこういうスタイルがルーツにあると思います。

——メタルコアというのはどんな感じの音楽ですか?

堀中:メタルコアのルーツとしてはいくつかあるのですが、90年代前半にスウェーデンのバンド、代表的なところではアット・ザ・ゲイツなどが旧来のデスメタルにメロディーの要素を持ち込んだ動きと、あとこのカーカスの4thアルバム『ハートワーク(Heartwork)』の影響を受けて、イン・フレイムスとかソイルワーク(Soilwork)チルドレン・オブ・ボドム(Children of Bodom)といったメロディック・デス・メタルのバンドが北欧で登場します。その後、そういったバンドが2000年前後にアメリカに進出してスリップノット(Slipknot)とかとツアーするようになったりして、そのメロディック・デス・メタルに影響を受けたアメリカのバンドが、ヨーロッパのメロディアスなメタルとアメリカのニューヨーク・ハードコアのエクストリームさを掛け合わせた音楽をやるようになって形成されたのがメタルコアです。特にマサチューセッツのボストンを中心にして、キルスウィッチ・エンゲイジ(Killswitch Engage)シャドウズ・フォール(Shadows Fall)アズ・アイ・レイ・ダイイング(As I Lay Dying)というバンドが出てきました。

板垣:2000年代以降はメタルコアのバンドは多かったですよね。

堀中:カーカスの中心人物のビルと、元カーカスに在籍していた現アーチ・エネミーのマイケル・アモット(Michael Amott)は同い年なんですけど、日本で人気のあるメタルの様式もこういうところにルーツがあるかなとも思います。

——日本での人気はこれらのバンドはどうなんですか?

堀中:カーカスはBURRN!誌でも取り上げられているし、人気が高いですね。

佐久間:ライブもソールド・アウトしていましたし、新しいファンも聴いてるんじゃないですか。

堀中:ヘドバンという雑誌でもフィーチャーされていて、そこからまた火がついたというのもありましたね。

——1985年から1995年の時と再結成した後では、音楽性としてはあまりかわっていないんですか?

堀中:より伝統的な感触がありますけど、音楽性として決定的に変わっているということはないと思います。中心となるメンバーはほぼ同じなので。

板垣:マイケル・アモットは抜けてるんですよね。

堀中:いまは脱退しています。メロディーの話になりますが、比較のためにマイケル・アモットのギターを聴いてみましょう。カーカスからは抜けて、別のバンドをやっている人ですね。



Arch Enemy「You Will Know My Name」

堀中:一見すると似てるんですけど、僕の感覚ではマイケルの方がいわゆる泣きと言われているようなメロディーの感じが強くて、ビルの方が不穏な感じのメロディーというのが対照的かなと思います。このマイケル・アモットという人も70年代のハード・ロックとかにはすごく影響を受けています。


■ デフヘヴン(Deafheaven)「Dream House」

堀中:このバンドは若いバンドで、たぶんメンバーは20代前半です。アメリカ・サンフランシスコ出身。

——メタルの音って結構クリアなものが多い印象があったので、この曲を事前にYoutubeで聴いて、エンコードに失敗してるのかなってくらいがさがさした音で驚きました。

堀中:どちらかというとメタルをやりたくてやっているバンドというよりは、シューゲイザーとかインディー側から、自分達の音楽の要素としてブラック・メタルとかハードコアの要素を入れてきているバンドで、様々な要素がクロスしてます。彼らはコンヴァージ(Converge)のメンバーが関わっているデスウィッシュ(Deathwish)というハードコア・レーベルに所属しています。

佐久間:ブラック・メタルっぽいスクリームですね。

堀中:これを聴いて感じるのは明るい感じというか、ブラック・メタルってもっと暗くて寒い感じなんですけど、そういう感じは全然しなくて。あとメンバーも、ブラック・メタル・バンドとは違って比較的普通の格好でライブをやっています。

佐久間:ギターの眼鏡かけたメンバーはモリッシー(Morrissey)の大ファンらしいですよ。

——今の話だとブラック・メタルって、普通じゃない格好のバンドが多いんですかね。

堀中:ブラック・メタルとかは、コープス・ペイントと呼ばれるメイクとか、アンチ・クライストの思想というのもあるし、そういう部分も含めた文化という感じで。ただ、トレモロリフという同じ音を細かく弾き続ける奏法を多用したり、楽曲的にも特徴があります。

佐久間:そういう所がシューゲイザーと接合しやすいんだと思います。

堀中:音像をぼんやりさせるとシューゲと似ていて。90年代のウルヴェル(Ulver)とかブラック・メタルの有名な音源は単純に音が悪いという特徴も…。

佐久間:音質悪いのはブラック・メタルの特権ですよね。

堀中:音が悪すぎてシャーってなってるアルバムとかも結構ありますし。

佐久間:音こもらせるために4トラックでしか録らないバンドがいたりとか。

堀中:今では若干音良くなってきてますが。それでもインディーズのバンドでは信じられないくらい音悪いバンドも。ブラック・メタルのライブではなんか忙しそうに演奏しているんだけど刻みが細かすぎてゴーと鳴ってるだけみたいなのもたまにあります。

——デフヘヴンは奏法とかサウンド面でブラック・メタルとの類似性があると。

堀中:ブラック・メタルのバンドは多かれ少なかれ今でも身なりに気を使ったりとか、悪魔的なニュアンスを出したりするんですけど、彼らは写真で見ればインディー・ロック・バンドと変わらないですし、あまりメタルがルーツって感じでもないんですよね。もちろん少しはあると思うんですけど。そういうところが面白くて、でもメタル好きな人からも評価されている。この曲はピッチフォークでベスト・ニュー・トラックとかに選ばれてるんです。

佐久間:これはかなり大絶賛されてましたよね。

堀中:そう。ピッチフォークってメタル・バンドはそれほど取り上げていないんですけどね。

——これ、すごいいい曲ですね。後半にメロディアスなリードギターが急に入ったりして、そこでよりシューゲっぽくなる感じとか。

堀中:その辺の境目がどんどん無くなっていくんだろうなという感じがします。

——彼らが所属するデスウィッシュというレーベルには似たようなサウンドのバンドが結構いるんですか?

堀中:デスウィッシュにはいないですけど、フランスのアルセスト(Alcest)とか、アイスランドのソルスターフィア(Sólstafir)というバンドがいて、ブラック・メタルとシューゲイザーだったりポスト・ロックが繋がり始めています。

佐久間:2000年代以降はその動きがかなり顕著ですね。

堀中:メタルの入り口から見るとブラック・メタルって奥の方で、辿り着けないようなところかなって思ってたんですけど、意外とポストロックやシューゲイザーみたいなメタルとは違うジャンルの音楽と接近していて、こういうバンドってのは各地から出てきていますね。

佐久間:僕はデフヘヴンの初期の頃から聴いているんですけど、2012年くらいの初来日の時はあまり盛り上がっていなくて、単独公演はかなり客が少なかったらしいです。でもこのアルバムを出してからの2014年の再来日は盛況で、昔から聴いていた人もいると思うんですけど、もうちょっとカジュアルな感じで見に来ている人が多かった印象がありますね。

板垣:メタルを聴かないような人たちが来ていた?

佐久間:そうですね。どちらかというとインディーロックとか、そっち系の人たちが来ている印象はありました。丁度メタルコアとかハードコア側からのシューゲイザーへのアプローチがある頃で。

堀中:デフヘヴンは面白い存在だと思いますよ。シューゲの人が注目しているって感じはあって。昨年の来日公演に行けなかったんですけど、そのことをTwitterで呟いたら、日本のシューゲイザー・バンドの人からリプライが来てやり取りした覚えがあります。やっぱりシューゲの人も行くんだと思って。メタルとは違う層の人が来てるんだなと。

(その3へ続く)

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 次回からは佐久間さんのセレクトをもとに、ドローン、アンビエントといったサウンドとメタルとの接点を探っていきます。お楽しみに。
  

20150430

【レビュー】BUMP OF CHICKEN 『RAY』

僕らのヒーロー、へなちょこの4人組が鳴らす光

BUMP OF CHICKEN
RAY
トイズファクトリー, 2014年
 バンプ・オブ・チキンは曲を鳴らしたいバンドじゃない。藤くん(藤原基央)から生み出された曲が「こう鳴りたい」と願う姿を実現する4人組なんだ。この数年彼らは今までのスタンスからすれば「らしくない」と思われることに次々と踏み切った。その理由は「曲が望んだから」。藤くんが作った歌を一人でも多くの人に聴いてほしい -この思いは彼らが音楽を世界に向けて鳴らし始めたそのときから一貫して変わらない。本人達としても賛否を呼ぶだろう新たな一歩を躊躇なく歩んでいるわけではないようで、藤くんは「ガタガタ震えながら -それでも”やろうね!”ってなるんですよ」と語っている。これってまさに「臆病者の一撃」を冠す彼ららしいよね。
 『RAY』に関しても『FLAME BAIN』や『THE LIVING DEAD』のころを知っている人からすれば、いわゆるギター・ロック・バンドらしかぬシンセや同期を盛り込んだサウンドに「変わったなバンプ」と思うかもしれない。けれど年齢を重ね円熟味を増した4人の思いは音楽があるべき形で響くためにもはや手段を選ばなくなってる。その結果、光量の多い眩しいアルバムが届けられた。プログラミング音と共に優しいアコギが僕らを温かく包容し、祝祭感が空まで高らかに鳴り響く「虹を待つ人」。色彩豊かな光が周囲を駆け廻り〈生きるのは最高だ〉と藤くんに言わしめたタイトル曲の「ray」を始めとしたエネルギーと多幸感に満ちた楽曲は僕達の日々を明るく照らし出してくれる。一方で震災を契機に作られた「smile」は静謐な歌い出しから生命力溢れるプログレッシヴ・サウンドが一気に展開し、力強い光で僕らを呑み込む。「(please)forgive」が放つのは切なく淡い光だ。起伏の穏やかなこの歌は安寧とした日常の不自由さ、しかしそれすらも自らが自由に選んだものだ、ということを粛々と紡ぎだしている。
 音の質感や活動のアプローチこそ変われど、芯の部分に耳をすませば愚直なまでにバンプは変わらないんだっていうのがわかる。藤くんの中の体験や感情が干渉し合って生まれたものが歌になり、それを伝えたい4人が愚直なまでに歌に向き合い、寄り合ったものが一つの作品になる。そこで歌われる言葉は本人達の意思を越えて、いつしか僕らのために鳴り、生きるために僕らの背中を押してくれるんだ。いつも助けてくれてありがとう。そして、また新しい光をありがとう。(森 勇樹

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20150428

【レビュー】GORO GOLO 『Golden Rookie, Goes Loose』

日本ならではのハードコアR&Bパンク

GORO GOLO
Golden Rookie, Goes Loose
P-VINE, 2014年
 約22分の音楽しか入っていないCDはプレイヤーに入れて再生すると、都市生活者の変化が激しいメンタルを癒して整え肉体を揺らす。聴いた途端に素敵なBGMとして、鼻歌・エア楽器演奏・ダンス必至の作品である。それは紆余曲折を経て再びシーンに戻ってきた彼らの人生と音楽の深みが生み出したものであるからか。
 12年ぶりにフルアルバムとして出した本作。2002年アルバムを一枚だけ出して解散したバンドGORO GOLOが復活してスガナミユウ(Vo)主催の制作クルー音楽前夜社結社や、同じメンバーによるでぶコーネリアスの藤田千秋(Vo,Sax)を迎えたバンドのジャポニカソングサンバンチ結成。現在も行う新宿ロフトのバースペースでの2時間千円飲み放題の余興「ロフト飲み会」と、バンド同士の勝敗付きのトーナメント形式のライブ「ステゴロ」の開催も交えながら完成させた。こんなにも洒落た演奏なのに歌える高速パンクは実に奇跡的だ。
 音しかなくてもメンバーたちが楽しく演奏する姿が目に浮かぶ今作。J・ガイルズ・バンドの演奏が気付いたらハードコア・パンクになっていて、ハイ・スピードなソウル・レビューになってしまっていたみたいな構成である。スガナミ、きむらかずみ(Ba)、しいねはるか(Key)が創った楽曲はインストゥルメンタル6曲と歌が4曲。速くタイトでスウィング&ロールしまくるリズムに、暖かくテクニカルなキーボードとギターは様々なジャンルを呑み込む。「More Japanisch」ではオリエンタル。「theme#4」では民謡からのヒゲダンスといった具合だ。しかし「MONKEY SHOW」では黄色人種・日本人として踊る意志、「GOD SAVE THE DANCING QUEEN」では風営法とシリアスなテーマな歌詞の曲も。それすらも高速で明るく洗練された形で見せてしまうのが凄い。それは洋楽に近づくのではなく、日本人としてのアイデンティティを持ったうえでのミクスチャー感覚の音楽とパーティーを敷居低く伝えたいからといえる。
 2014年はロフトでの定期的な完全無料ライブ開催や、ジャポニカのアルバムリリース、下北沢THREEで行った数々の面白い試みなど、スガナミにとって大きく痛快な1年となった。1月8日にリリースされたこの作品は、果報を練って待った彼の中に存在するパンク性のスピード力の勝利を印象づけた14年最初の一撃だった。(小泉 創哉)

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20150427

【レビュー】stillichimiya 『死んだらどうなる』

あの世この世に挑む笑撃的ヒップホップ


stillichimiya
死んだらどうなる
Mary Joy Recordings, 2014年
 懐かしのフレーズや時事・地元ネタをパロディと風刺で包んだ言葉遊びの楽しさが伝わるリリック。ニヤニヤが無限に襲いかかってくる。それと同時にどす黒い真理も。それを山梨県の今はなき一宮町出身の男たち5人が自由なサウンド・メイキングにのせて達者にラップしまくる。その5人とはソロで大活躍の田我流を含む結成10周年のstillichimiyaだ!
 「うぇるかむ」は三木道三がどうしても頭によぎる地元激励レゲエだと思ったら衝突音で曲が終わり、丹波哲郎の死生観を語る声が流れこのアルバムが一筋縄ではいかぬ作品であることを宣言する。そして次の楽曲である「Hell Train」に私たちは乗車して戻ることはできない。<何なら神様に送るワイロ 可愛いコンパニオン雇うガイド 天国にはマットヘルスとかないの? じゃこのまま地獄でどんちゃん騒ぎ><キング・クリムゾン聞くジャック・ニコルソン キム・ウィルソンと飲むウィルキンソンで>などのリリックでカオスと真理が伝わる地獄の描写を描く。
 零心会以上の大きな衝撃を持って虚実混じった自己紹介を5人マイクリレーする「ズンドコ節」。意味不明だけどもとりあえず生!!な感じは伝わる「生でどう?」。95年に山梨県のローカルCMで使われたことにより県内で大ヒットを飛ばした「だっちもねえこんいっちょし」をラップした原田喜照と、MC HAMMERの「You Can’t Touch This」をネタにして共演した「だっちもねえ」。過去のヒット曲のタイトルとスケベ心でノリまくる「竹の子」。〈土偶〉というキーワードから地元への思いを伝える「土偶サンバ」。などその他にも衝撃的な楽曲とスキットが聴いているあなたにクエスチョン・マークを浮かばせ、大きな感動を与えさせる。
 映画への出演や単独での音楽活動でメンバーの中でも目立った活躍を見せる田我流と、その相方でありサウンドを手掛けると共にラップもするDJのYoung-G。12年に出したソロの傑作『B級映画のように 2』では震災後のシリアスな現実世界を描写していたが、今回がっつり制作に参加したBig BenやMMM、Mr.麿によるクルーでの作品はパロディと自由な世界観で強力なユーモアに包まれる。元来クルーはこのような作風であるが、より外にも開いた高いクオリティの作品になった。さて、このアルバムを聴いてあなたは死んだらどうする?!(小泉 創哉)

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20150424

YIM寄稿者によるメタル座談会:その1

 asatte+をメタルがジャックします。
2014年に1stアルバムが発表されたBABYMETALは世界的な人気を獲得するに至り、昨年に引き続き今年もワールドツアーの開催も決定しているなど、日本国内のマスメディアにおいても「メタル」の言葉が登場するようになりました。
 そうした一方で、メタルというジャンルには依然、独特かつ敷居が高そうで、なかなか手が出せないイメージもあるように思います。
 そこで、今年1月に発刊された『YEAR IN MUSIC 2014』の執筆陣で常日頃メタルを聞いている3名のライター陣、堀中さん、板垣さん、佐久間さん、に、メタル素人の小林が進行役となり話を伺いました。メタルが持つ様々な要素を解きほぐしていくと、そこに雑多で多くのジャンルと隣接する姿が見えてきました。新たな観点が加わり、立体的にメタルを聴くきっかけになることができれば非常にうれしく思います。

*****

——そもそもなのですが、「メタル」というジャンル名称はいつくらいから使われるようになったんでしょうか。

堀中:「メタル」や「ヘヴィメタル」という言葉の語源については諸説あるんですけど、よく言われているのが、70年代の中盤くらいにアメリカのブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)の音楽を表現するのに”heavy metal”という言葉が使われたのが最初という説ですね。あと、”heavy metal”という言葉自体が最初に登場したのは、ステッペンウルフ(Steppenwolf)の有名な「ボーン・トゥ・ビー・ワイルド(Born To Be Wild)」の歌詞のようですけど、これはメタルの音楽性を表現したものではないですね。UKの雑誌(Sounds誌)の記者によって、アイアン・メイデン(Iron Maiden)サクソン(Saxon)といったバンドが70年代後半に出てきたムーヴメントをNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリテッシュ・ヘヴィ・メタル)と名付けたことが直接的なルーツですね。

——これからメタルについて色々話をしていくにあたって、セレクトに特徴があるということで事前にRolling Stoneの2014年のメタル部門のランキングを堀中さんに教えてもらいました。

<Rolling Stone 20 Best Metal Album of 2014>
1. Yob『Clearing the Path to Ascend』
2. Triptykon 『Melana Chasmata』
3. At the Gates 『At War with Reality』
4. Old Man Gloom 『The Ape of God』
5. Scott Walker + SunnO))) 『Soused』
(以下はリンクを参照ください)

佐久間:オルタナ色が強いし、かなりリベラルなセレクトですよね。

堀中:実はこのランキングの中で、日本のヘヴィメタル専門雑誌であるBURRN!などで取り上げられているのはアット・ザ・ゲイツ(At The Gates)、とか20枚のうち5枚くらいで。日本国内よりも海外の方がメタルというジャンルについては圧倒的に範囲が広くて雑多なんです。日本ではメタルとはあんまり言われてないけど、海外だとメタルチャートにはこういうものも入ってるよ、という。

——今日はこうしたことも踏まえて、広い観点からメタルについて話をしてもらえればと思います。まずは自己紹介も兼ねて、いつぐらいからメタルを聴くようになったのかを教えて下さい。

堀中:中学生だった2000年くらいにボン・ジョヴィ(Bon Jovi)とかモトリー・クルー(Mötley Crüe)といったアメリカの派手なロックを聴くようになり、その後高校生くらいでスラッシュ・メタル、メガデス(Megadeth)メタリカ(Metallica)を聴くようになっていくという感じです。メタルの中でいうといわゆるメロディック・デス・メタル(メロデス)のバンドが出てきてそれにすごくハマったんですね。イン・フレイムス(In Flames)とかアーチ・エネミー(Arch Enemy)とかです。その後は、他の音楽も聴くようになったので来日公演にはたまに行きつつといった感じです。

板垣X JAPANが高校生の頃、流行っていて何となく聴いていました。音楽にハマったのはもう少し後、渋谷系なのですが、途中でガンズ・アンド・ローゼズ(Guns 'N' Roses)をよく聴くようになって。そこから、ボン・ジョヴィとかミスター・ビッグ(Mr.Big)とかエアロスミス(Aerosmith)とかを聴き出して、なぜかメタルも聴くようになりました。
デス・メタルのようなスクリームしているのは元々はだめでした。大丈夫になったのは2006年くらいにアレクシスオンファイアー(Alexisonfire)を聴いてからです。元々エモ系も好きだったのですが、メロディアスで聴きやすかったのもあって。そのあとはデス・メタルも含めてメタルは継続して聴いていて、最近はBABYMETALにもハマってます。

佐久間:2000年代はじめの学生の頃、L'Arc〜en〜Cielとかが入り口なのですが、もっと激しくてヘヴィな音楽がないかと探している中で、コーン(KoRn)を知ったんです。特に1stアルバム『コーン(KoRn)』には、こんなヘヴィな音楽があるのかと衝撃を受けて。これ以上ヘヴィなものはないんじゃないかと思いながら、もっと変わったものがないかと、デフトーンズ(Deftones)を聴いたんです。2000年に出た『ホワイト・ポニー(White Pony)』は最初はよくわからなかったんですけど、聴いていくうちにこれはすごいレコードだと思って。その後は、実験的な方を掘り下げるようになり、トゥール(Tool)とかアイシス(Isis)とか変わったヘヴィ・ロックにいって、今はノイズとかを聴いているという。ハードコアとかは聴いてますが、デス・メタルとかスラッシュ・メタルとか、そういうトラディショナルなメタルはどうしても馴染まないところがあります。


——ここからは2010年以後くらいの期間で印象に残ったメタル関連の作品を各自選んできてもらいましたので、それを元に話を聞かせてください。まず一番いわゆるメタル的なセレクトだった堀中さんからお願いします。

■ マストドン(Mastodon)「High Road」

堀中:このマストドン(Mastodon)の『ワンス・モア・ラウンド・ザ・サン(Once More 'Round The Sun)』というアルバムは、悪い意味ではなく歌もので、アメリカでもチャート・アクションが良くて普通にラジオとかでも掛かっていました。一方で、ギターとかベースの重さだったり、リフの感じにはメタルらしいものがあって、今のシーンで見た時には最もメタルらしいバンドかなと思っています。

——このバンドは2000年アメリカのアトランタ結成ですね。

佐久間:ギターのビル・ケリハーとドラムのブラン・デイラーがトゥデイ・イズ・ザ・デイ(Today is the Day)というヘヴィロック・バンドの出身なんです。残りのメンバーもノイズとか地下音楽系のことをやっていたりして。

堀中:メンバーの年齢がだいたい40歳くらいのバンドです。

——あと、この音源はワーナーからリリースと。

佐久間:ワーナーと契約したのは2005年か2006年くらいで。契約前に、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』をモチーフにしたコンセプトアルバムを出していて、それがかなり注目されました。

堀中:2ndアルバム『レヴァイアサン(Leviathan)』ですね。あと、04年頃にはスレイヤー(Slayer)のツアー(The Unholy Alliance Tour)に参加しているんです。そういう大規模なツアーの前座に起用されて注目を集めたバンドですね。

——リードギターのメロディーがポップな感じの印象があって、聴きやすい印象でした。

佐久間:このジャケットを見た時にビックリしましたよ。80年代のダサいメタルの感じとかがあって、聴くまで不安でした。

Mastodon
Mastodon『Once More 'Round The Sun』

——実際、昔のメタルの影響はどの程度あるように感じますか。

堀中:70年代の音楽の影響は常にあるんじゃないかと。世代的にはリアルタイムではないにしても、割とそういうところに憧れはある感じかなと思います。

佐久間シン・リジィ(Thin Lizzy)とか大好きですからね。

板垣:そういう感じは音に出てますね。

堀中:暗黒的な要素というのは元々あったんですけど、今はかなり薄まっているように思います。歌詞とかには一部あったりするのかなという感じはしますけど。

佐久間:このバンドの特徴ってメンバー全員コーラスをやるんですよね。曲によってリード・ボーカルが変わったりして。そういうふうになったのはメジャーに行ってからですが。

——なるほど。まずはメジャーなバンドということでマストドンと。

佐久間:それもあるし、アンダーグラウンドからも未だに支持されています。

——それはメジャー移籍後の楽曲も含めてですか。どういうところがポイントなんでしょう。

佐久間:たぶんマストドンはスラッジ・メタルとか、ドゥーム・メタルみたいな要素があって、そういう音楽が好きな人たちが好むような音楽をやっているというところがあると思います。

板垣:今の曲には重いギターリフみたいなスラッジ的な要素はないですね。

佐久間:アルバム全体で見ると、そういうテイストのものもありますね。

——ポップで聴きやすい一方で、マニアックなところもあると。

堀中:今でもハードコアとかデス・メタルの界隈のバンドともやれるというのはあるかなと思います。


■ オーペス(Opeth)「Eternal Rains Will Come」

堀中:こういうのがメタルなのかというのはありますけど。オーペス(Opeth)の中心人物のミカエル・オーカーフェルト(Mikael Åkerfeldt)という人も、マストドンのメンバーと同い年くらいです。ミカエルが1974年生まれで、マストドンのトロイ・サンダース(Troy Sanders)は1973年生まれ。

佐久間:ミカエルはもうちょっと年齢が上かと思っていました。

堀中:マストドンはアメリカのバンドで、一方このオーペスは北欧・スウェーデンのバンドです。オーペスは結成が90年で、元々はデス・メタルをベースにした音楽をやっていました。ミカエルという人は70年代のプログレッシブ・ロックとデス・メタルをあわせたものをやろうとしていて、『ブラックウォーター・パーク(Blackwater Park)』あたりが分岐点なんですけど、この後に2枚で対となるアルバム、『デリヴァランス(Deliverance)』と『ダムネイション(Damnation)』を出していて、デス・メタル寄りな作品とプログレ寄りの作品をリリースしてあと、デス・メタルの要素がどんどん無くなっていきます。

——取り上げてもらった曲は、長めの尺の中で各パートが入れ替わりながら展開して、バンド・アンサンブルをしっかり聞かせる壮大な曲ですよね。全体としてサウンドが非常に洗練されています。デス・メタル的な要素は減っているとのことですが、以前のサウンドの特徴を挙げるとすればどんなものになるでしょうか。

堀中:活動初期(90年代後半)のころは、デス・メタルに典型的とも言える歪んだギターや複雑で高速なドラムとグロウルを中心としたボーカルスタイルを持った音楽性でしたね。とはいえ現在のスタイルに繋がるような幽玄でプログレッシヴな展開の曲もありました。

——最近はどんどんプログレ化していると。

堀中:今回挙げたようなプログレッシブなものが中心になってきていますが、ライブではまだデス・メタル的な楽曲もやっています。メタル・フェスにも出ていますよ。プログレ系の雑誌だと年間のベストアルバムとかに選ばれてもいました。

佐久間:2年くらい前にライブを見た時は、新譜の曲はそこまでではないけど、昔の曲をやると盛り上がるという感じで、温度差はあったと思います。日本だとプログレとデス・メタルのファンは層が違っている雰囲気もあって、ここ数年で評価が割れていますよね。

——プログレに接近したことで新しいファンがついているような印象がありますか。

堀中:どうなんですかね?少なくとも、オーペスとかを日本の若い人が聴いている感じはあまりしないんですけど。

佐久間:前回の来日単独公演は若い女の子もいましたよ。ライブもかなりゴシックな、退廃的なムードがあって。

堀中:オーペスでは2001年に出たアルバム『ブラックウォーター・パーク』を最高傑作だという人も多いです。このジャケットから分かる幽玄な感じとかが彼らの雰囲気としてありますね。

Opeth
Opeth『Blackwater Park』

板垣:今回取り上げたニュー・アルバム『ペイル・コミュニオン(Pale Communion)』も売り上げはかなり良かったですよね。タワレコのチャートでもいい順位で結構注目されているんだなと。

——あとスウェーデンというのは、北欧のメタル・シーンではどういった位置づけになるんでしょうか。

堀中:実際スウェーデンが中心だと思います。あとはフィンランドやノルウェーですかね。

佐久間:北欧は今でも根強いメタル人気がありますね。

——北欧のバンドと言ってひとくくりに出来ないくらい音楽性としてはいろいろあると。

板垣:暗黒神とかって呼ばれてたのはこのバンドですよね。

堀中:そうですね、「北欧の暗黒神」ってレコード会社の誰かが名付けてました。

その2へ続く)

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 本稿よりスタートしたメタル座談会。その1と次回その2は「メタル」内のいくつかのサブ・ジャンルについて近年の音源を紹介していきます。今回登場したハード・ロックやプログレといった要素以外にどういった音楽と接点があるのか、注目して頂ければと思います。