20150424

YIM寄稿者によるメタル座談会:その1

 asatte+をメタルがジャックします。
2014年に1stアルバムが発表されたBABYMETALは世界的な人気を獲得するに至り、昨年に引き続き今年もワールドツアーの開催も決定しているなど、日本国内のマスメディアにおいても「メタル」の言葉が登場するようになりました。
 そうした一方で、メタルというジャンルには依然、独特かつ敷居が高そうで、なかなか手が出せないイメージもあるように思います。
 そこで、今年1月に発刊された『YEAR IN MUSIC 2014』の執筆陣で常日頃メタルを聞いている3名のライター陣、堀中さん、板垣さん、佐久間さん、に、メタル素人の小林が進行役となり話を伺いました。メタルが持つ様々な要素を解きほぐしていくと、そこに雑多で多くのジャンルと隣接する姿が見えてきました。新たな観点が加わり、立体的にメタルを聴くきっかけになることができれば非常にうれしく思います。

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——そもそもなのですが、「メタル」というジャンル名称はいつくらいから使われるようになったんでしょうか。

堀中:「メタル」や「ヘヴィメタル」という言葉の語源については諸説あるんですけど、よく言われているのが、70年代の中盤くらいにアメリカのブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)の音楽を表現するのに”heavy metal”という言葉が使われたのが最初という説ですね。あと、”heavy metal”という言葉自体が最初に登場したのは、ステッペンウルフ(Steppenwolf)の有名な「ボーン・トゥ・ビー・ワイルド(Born To Be Wild)」の歌詞のようですけど、これはメタルの音楽性を表現したものではないですね。UKの雑誌(Sounds誌)の記者によって、アイアン・メイデン(Iron Maiden)サクソン(Saxon)といったバンドが70年代後半に出てきたムーヴメントをNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリテッシュ・ヘヴィ・メタル)と名付けたことが直接的なルーツですね。

——これからメタルについて色々話をしていくにあたって、セレクトに特徴があるということで事前にRolling Stoneの2014年のメタル部門のランキングを堀中さんに教えてもらいました。

<Rolling Stone 20 Best Metal Album of 2014>
1. Yob『Clearing the Path to Ascend』
2. Triptykon 『Melana Chasmata』
3. At the Gates 『At War with Reality』
4. Old Man Gloom 『The Ape of God』
5. Scott Walker + SunnO))) 『Soused』
(以下はリンクを参照ください)

佐久間:オルタナ色が強いし、かなりリベラルなセレクトですよね。

堀中:実はこのランキングの中で、日本のヘヴィメタル専門雑誌であるBURRN!などで取り上げられているのはアット・ザ・ゲイツ(At The Gates)、とか20枚のうち5枚くらいで。日本国内よりも海外の方がメタルというジャンルについては圧倒的に範囲が広くて雑多なんです。日本ではメタルとはあんまり言われてないけど、海外だとメタルチャートにはこういうものも入ってるよ、という。

——今日はこうしたことも踏まえて、広い観点からメタルについて話をしてもらえればと思います。まずは自己紹介も兼ねて、いつぐらいからメタルを聴くようになったのかを教えて下さい。

堀中:中学生だった2000年くらいにボン・ジョヴィ(Bon Jovi)とかモトリー・クルー(Mötley Crüe)といったアメリカの派手なロックを聴くようになり、その後高校生くらいでスラッシュ・メタル、メガデス(Megadeth)メタリカ(Metallica)を聴くようになっていくという感じです。メタルの中でいうといわゆるメロディック・デス・メタル(メロデス)のバンドが出てきてそれにすごくハマったんですね。イン・フレイムス(In Flames)とかアーチ・エネミー(Arch Enemy)とかです。その後は、他の音楽も聴くようになったので来日公演にはたまに行きつつといった感じです。

板垣X JAPANが高校生の頃、流行っていて何となく聴いていました。音楽にハマったのはもう少し後、渋谷系なのですが、途中でガンズ・アンド・ローゼズ(Guns 'N' Roses)をよく聴くようになって。そこから、ボン・ジョヴィとかミスター・ビッグ(Mr.Big)とかエアロスミス(Aerosmith)とかを聴き出して、なぜかメタルも聴くようになりました。
デス・メタルのようなスクリームしているのは元々はだめでした。大丈夫になったのは2006年くらいにアレクシスオンファイアー(Alexisonfire)を聴いてからです。元々エモ系も好きだったのですが、メロディアスで聴きやすかったのもあって。そのあとはデス・メタルも含めてメタルは継続して聴いていて、最近はBABYMETALにもハマってます。

佐久間:2000年代はじめの学生の頃、L'Arc〜en〜Cielとかが入り口なのですが、もっと激しくてヘヴィな音楽がないかと探している中で、コーン(KoRn)を知ったんです。特に1stアルバム『コーン(KoRn)』には、こんなヘヴィな音楽があるのかと衝撃を受けて。これ以上ヘヴィなものはないんじゃないかと思いながら、もっと変わったものがないかと、デフトーンズ(Deftones)を聴いたんです。2000年に出た『ホワイト・ポニー(White Pony)』は最初はよくわからなかったんですけど、聴いていくうちにこれはすごいレコードだと思って。その後は、実験的な方を掘り下げるようになり、トゥール(Tool)とかアイシス(Isis)とか変わったヘヴィ・ロックにいって、今はノイズとかを聴いているという。ハードコアとかは聴いてますが、デス・メタルとかスラッシュ・メタルとか、そういうトラディショナルなメタルはどうしても馴染まないところがあります。


——ここからは2010年以後くらいの期間で印象に残ったメタル関連の作品を各自選んできてもらいましたので、それを元に話を聞かせてください。まず一番いわゆるメタル的なセレクトだった堀中さんからお願いします。

■ マストドン(Mastodon)「High Road」

堀中:このマストドン(Mastodon)の『ワンス・モア・ラウンド・ザ・サン(Once More 'Round The Sun)』というアルバムは、悪い意味ではなく歌もので、アメリカでもチャート・アクションが良くて普通にラジオとかでも掛かっていました。一方で、ギターとかベースの重さだったり、リフの感じにはメタルらしいものがあって、今のシーンで見た時には最もメタルらしいバンドかなと思っています。

——このバンドは2000年アメリカのアトランタ結成ですね。

佐久間:ギターのビル・ケリハーとドラムのブラン・デイラーがトゥデイ・イズ・ザ・デイ(Today is the Day)というヘヴィロック・バンドの出身なんです。残りのメンバーもノイズとか地下音楽系のことをやっていたりして。

堀中:メンバーの年齢がだいたい40歳くらいのバンドです。

——あと、この音源はワーナーからリリースと。

佐久間:ワーナーと契約したのは2005年か2006年くらいで。契約前に、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』をモチーフにしたコンセプトアルバムを出していて、それがかなり注目されました。

堀中:2ndアルバム『レヴァイアサン(Leviathan)』ですね。あと、04年頃にはスレイヤー(Slayer)のツアー(The Unholy Alliance Tour)に参加しているんです。そういう大規模なツアーの前座に起用されて注目を集めたバンドですね。

——リードギターのメロディーがポップな感じの印象があって、聴きやすい印象でした。

佐久間:このジャケットを見た時にビックリしましたよ。80年代のダサいメタルの感じとかがあって、聴くまで不安でした。

Mastodon
Mastodon『Once More 'Round The Sun』

——実際、昔のメタルの影響はどの程度あるように感じますか。

堀中:70年代の音楽の影響は常にあるんじゃないかと。世代的にはリアルタイムではないにしても、割とそういうところに憧れはある感じかなと思います。

佐久間シン・リジィ(Thin Lizzy)とか大好きですからね。

板垣:そういう感じは音に出てますね。

堀中:暗黒的な要素というのは元々あったんですけど、今はかなり薄まっているように思います。歌詞とかには一部あったりするのかなという感じはしますけど。

佐久間:このバンドの特徴ってメンバー全員コーラスをやるんですよね。曲によってリード・ボーカルが変わったりして。そういうふうになったのはメジャーに行ってからですが。

——なるほど。まずはメジャーなバンドということでマストドンと。

佐久間:それもあるし、アンダーグラウンドからも未だに支持されています。

——それはメジャー移籍後の楽曲も含めてですか。どういうところがポイントなんでしょう。

佐久間:たぶんマストドンはスラッジ・メタルとか、ドゥーム・メタルみたいな要素があって、そういう音楽が好きな人たちが好むような音楽をやっているというところがあると思います。

板垣:今の曲には重いギターリフみたいなスラッジ的な要素はないですね。

佐久間:アルバム全体で見ると、そういうテイストのものもありますね。

——ポップで聴きやすい一方で、マニアックなところもあると。

堀中:今でもハードコアとかデス・メタルの界隈のバンドともやれるというのはあるかなと思います。


■ オーペス(Opeth)「Eternal Rains Will Come」

堀中:こういうのがメタルなのかというのはありますけど。オーペス(Opeth)の中心人物のミカエル・オーカーフェルト(Mikael Åkerfeldt)という人も、マストドンのメンバーと同い年くらいです。ミカエルが1974年生まれで、マストドンのトロイ・サンダース(Troy Sanders)は1973年生まれ。

佐久間:ミカエルはもうちょっと年齢が上かと思っていました。

堀中:マストドンはアメリカのバンドで、一方このオーペスは北欧・スウェーデンのバンドです。オーペスは結成が90年で、元々はデス・メタルをベースにした音楽をやっていました。ミカエルという人は70年代のプログレッシブ・ロックとデス・メタルをあわせたものをやろうとしていて、『ブラックウォーター・パーク(Blackwater Park)』あたりが分岐点なんですけど、この後に2枚で対となるアルバム、『デリヴァランス(Deliverance)』と『ダムネイション(Damnation)』を出していて、デス・メタル寄りな作品とプログレ寄りの作品をリリースしてあと、デス・メタルの要素がどんどん無くなっていきます。

——取り上げてもらった曲は、長めの尺の中で各パートが入れ替わりながら展開して、バンド・アンサンブルをしっかり聞かせる壮大な曲ですよね。全体としてサウンドが非常に洗練されています。デス・メタル的な要素は減っているとのことですが、以前のサウンドの特徴を挙げるとすればどんなものになるでしょうか。

堀中:活動初期(90年代後半)のころは、デス・メタルに典型的とも言える歪んだギターや複雑で高速なドラムとグロウルを中心としたボーカルスタイルを持った音楽性でしたね。とはいえ現在のスタイルに繋がるような幽玄でプログレッシヴな展開の曲もありました。

——最近はどんどんプログレ化していると。

堀中:今回挙げたようなプログレッシブなものが中心になってきていますが、ライブではまだデス・メタル的な楽曲もやっています。メタル・フェスにも出ていますよ。プログレ系の雑誌だと年間のベストアルバムとかに選ばれてもいました。

佐久間:2年くらい前にライブを見た時は、新譜の曲はそこまでではないけど、昔の曲をやると盛り上がるという感じで、温度差はあったと思います。日本だとプログレとデス・メタルのファンは層が違っている雰囲気もあって、ここ数年で評価が割れていますよね。

——プログレに接近したことで新しいファンがついているような印象がありますか。

堀中:どうなんですかね?少なくとも、オーペスとかを日本の若い人が聴いている感じはあまりしないんですけど。

佐久間:前回の来日単独公演は若い女の子もいましたよ。ライブもかなりゴシックな、退廃的なムードがあって。

堀中:オーペスでは2001年に出たアルバム『ブラックウォーター・パーク』を最高傑作だという人も多いです。このジャケットから分かる幽玄な感じとかが彼らの雰囲気としてありますね。

Opeth
Opeth『Blackwater Park』

板垣:今回取り上げたニュー・アルバム『ペイル・コミュニオン(Pale Communion)』も売り上げはかなり良かったですよね。タワレコのチャートでもいい順位で結構注目されているんだなと。

——あとスウェーデンというのは、北欧のメタル・シーンではどういった位置づけになるんでしょうか。

堀中:実際スウェーデンが中心だと思います。あとはフィンランドやノルウェーですかね。

佐久間:北欧は今でも根強いメタル人気がありますね。

——北欧のバンドと言ってひとくくりに出来ないくらい音楽性としてはいろいろあると。

板垣:暗黒神とかって呼ばれてたのはこのバンドですよね。

堀中:そうですね、「北欧の暗黒神」ってレコード会社の誰かが名付けてました。

その2へ続く)

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 本稿よりスタートしたメタル座談会。その1と次回その2は「メタル」内のいくつかのサブ・ジャンルについて近年の音源を紹介していきます。今回登場したハード・ロックやプログレといった要素以外にどういった音楽と接点があるのか、注目して頂ければと思います。