20150524

【レビュー】Gotch 『Can't Be Forever Young』

この作品に込められているもの

Gotch
Can't Be Forever Young
only in dreams, 2014年
 初めてこの作品を聴いたときは、どちらかというと期待を裏切られたような気持ちのほうが大きかった。なぜなら、私の知っている後藤正文はアジカンのフロントマンであり、パワーコードに乗せて力強く歌っているイメージだったからである。
 この作品はアジカンではなかなか見られないGotchこと後藤正文のキャラクターが全面に出されていて、その要素がいろいろな方面から組み込まれているのである。まず、ヴォーカルの他にも、アコギ、ハーモニカ、パーカッション、シンセサイザー、プログラミングなどほとんどの音を自らが演奏している。アコギやパーカッションなどわざとアコースティック楽器を多用したり、あえてシンセサイザーを手で弾いたりして、彼のヒューマニティを存分に出している。サポート・メンバーには、日頃から交流のあるホリエアツシ、下村亮介、井上陽介、TORAが参加している。仲の良いミュージシャンが参加することで、より一層温かみのあるアットホーム感漂う作品になっている。
 一番彼のヒューマニティが表れている部分、それはやはり歌詞であろう。アジカンの曲にはないようなストレートな表現が印象的である。彼が「A Girl in Love / 恋する乙女」なんてどストレートにラブソングみたいなタイトルをつけていることにとても驚いた。この曲以外にも恋について歌っている曲もあるのだが、この作品は全体を通して、生きることや死ぬことについて歌っている。「Sequel to the Story / 話のつづき」の最後に<今日のことは忘れないだろう>という歌詞がある。この文面だけ見ると、「誰でも言いそうな言葉だよな~」と思ってしまうのだが、それを彼が歌うとなぜこんなにも心に沁みるのか。時間が経てば薄れてしまうこと、命には限りがあること。まるでそのことを彼に話しかけられているかのように、言葉が自然と染み込んでくるのだ。
 人同士の出会いもそうであるように、最初はあまりしっくりこない作品であった。しかしなんとなく何回も聴いているうちに、自分と馴染んできて、聴き心地の良い音楽に変わっていった。優しく奏でられているアコースティック楽器の音やノリのいいリズムなど、すべてがこの作品にとって大事な要素であるが、一番の魅力はやはり彼の人間性なのであろう。この作品には音楽に一番大事な”心”が込められている。きっと聴いたすべての人にそれが伝わるであろう。(日高 玲央奈)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。