20150510

YIM寄稿者によるメタル座談会:その3

 asatte+のメタル座談会企画3回目となります。これまでの2回は堀中さんのセレクトで大まかにいくつかのメタル内のサブ・ジャンルを見てきました。(その1その2)今回は佐久間さんのセレクトで、スラッジ・メタルやドゥーム・メタルをキーワードに様々な音楽との隣接をみていきます。

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■ スーマック(Sumac)『Blight's End Angel』

佐久間ロシアン・サークルズ(Russian Circles)というインストのヘヴィロック・バンドのベーシスト、ブライアン・クックとバプティスツ(Baptists)のドラマー、ニック・ヤシシン、そして元アイシス(Isis)のフロントマン、アーロン・ターナーが組んだバンドです。アーロンは2014年にオールド・マン・グルーム(Old Man Gloom)で2枚アルバムを出しているんですが、先ほどのRolling Stone誌のベスト・アルバムにも選ばれていました。ただ、このアルバムはそれをはるかに上まわる完成度を提示しています。

——ギターがメロディーではなく、ヘヴィなリフを反復して曲がで進んでいくスタイルで、皆さんのセレクトの中でも特徴のあるサウンドでした。

佐久間:僕がメタルとかヘヴィロックといったいわゆるヘヴィミュージックの中で唯一未だに聴いているのはスラッジ・メタルとドゥーム系なんですね。それらの音楽の特徴がリフの執拗な反復なんです。曲のテクスチャー、構成もミニマルで。スワンズ(Swans)とかが始祖的な影響があるかなと思います。

板垣:スワンズに凄い近いですね。

堀中:いわゆるメロディっていうのが全然ないっていう。

佐久間:アーロンが昔やっていたアイシスにはメロディ要素がありました。それも最終作で究極的に洗練されていたのですが、 アーロンはもうそういう洗練されている形のヘヴィロックはやらないと。スーマックはアイシスとは、またベクトルが別の方向で完成度が高い。しかもここ5年くらいのアンダーグラウンドのヘヴィロック/ハードコアシーンの総決算的なことをやってきた。

板垣:スウィングしてる感じがしたんだけど。ブラック・サバスとかああいう感じの。

佐久間:ブラック・サバスの影響はかなりありますね。ドゥーム・メタル、ブラック・メタルもブラック・サバスを起源にしていますよね。

——スーマックのサウンドに関しては、新しいというよりも凄く洗練されているという感じなんですかね。

佐久間:そうですね、非常に洗練されたアルバムだと思います。構成でいうと結構いろんなことやっているんですけど。

堀中:新しいっていう感じはしない。

佐久間:マスロック的というか、数学的なアプローチの、非常に作りこまれた構成です。一方でフリーキーな感じもして。おそらくジャムセッションを発展させて作っているんじゃないかと。これは2015年のベストアルバムに選ばれるクオリティのものだと思います。



■ チェルシー・ウルフ(Chelsea Wolfe)『Apokalypsis』

——佐久間さんはのセレクトは段々周辺的になっていきます。

板垣:今回選んでいるのは最新作じゃないんですよね。

佐久間:最新作はニューウェーブっぽい要素が強くて、2012年に出た本作の方がまだドゥームとかブラック・メタルっぽい要素があるので、こちらを持って来ました。

板垣:2013年に出た最新作の『Pain Is Beauty』は色んな楽器が入ってて。

——ぱっと聴いてメタル要素があるなと思う曲の方が少ないかなと。

佐久間:チェルシー・ウルフがデビューした時にドゥーム・フォークという形容詞が使われいて。ドゥーム・メタルをより記号化してるんですよ。雰囲気的な領域になっていて。確実にドゥームとかブラックメタルが持つ不穏さとか音の質感が近いなと思うんですけど――例えば、Sunn O)))のような、いわゆるドローン系のドゥームと接点ですね。サン O)))はドゥーム系中でも極端なアプローチを取っていて、基本的にはサバス直系のリフを執拗に繰り返しますが、彼らの場合大音響で一つ一つのコードを鳴らすので、リフの原型が識別しにくいぐらいに記号化/拡張化しているんですね。チェルシー・ウルフのドゥーム要素もサン O)))とは別ベクトルですが、より記号化された形で提示していると思います。

——ドゥーム・メタルって言われているところとの質感が、かなり隣接していると。音数を減らしていくとこういう感じになるみたいな。他にドゥーム・フォークと言われていた人たちいるんですか。

佐久間:いない。ドローン・フォークと言われているのは、まあグルーパー(Grouper)とかいますけど。

板垣:どっかでドローン・メタル・アート・フォークって書いてあったけど。何かオルガン系も使っていますよね。

佐久間:使っていますね。チェルシー・ウルフは単独含めライヴも行きました。

——決まったバンド・メンバーでやっているんですか?

佐久間:みたいですね。今のところ。

板垣:私凄い好きな系統です。普通に聴くとメロディはないんだけど、メロディが隠れているというか。つないでいくとメロディになる。

佐久間:これも構成としてミニマルですよね。ブラック・メタルのバンド、バーズム(Burzum)も結構なんかアンビエントっぽい事をやっていて。アンビエントな曲でも不穏なブラック・メタルの匂いはする、という感じにチェルシー・ウルフも近いかなと思って。

——ドゥーム的な、ダークだったり、神秘的な空気感は聴いていて感じる一方、あまりこれ見よがしじゃなくどういう風にも聴けるようなバランスが素晴らしいアルバムですよね。あと、彼女はエメラルズ(Emeralds)とかワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)とかと交流があるというのも納得させられました。



■ ウィリアム・ファウラー・コリンズ(William Fowler Collins)『Slow Motion Prayer Circle』

佐久間:次はウィリアム・ファウラー・コリンズというドローン系のアーティストで。相当ニッチです。

堀中:曲と言われると曲かなあっていう…。

——これ再生されてますか。

佐久間:始まってます。始まってるけど別に飛ばしても変わんないんじゃないかっていう。

堀中:曲のクレジットすらない。

佐久間:この人は基本ギターで演奏し、曲を作っています。2010年か2011年にこの後も出しているんですけどそっちはまだ入手してなくて。

——この人はニュー・メキシコが拠点とのことですが、面白いっていうかわけわかんないっていうか。本当に家で一人でやっているんじゃないかっていう。

佐久間:そうだと思いますよ。アイシスのアーロン・ターナーと幼馴染の人らしいんですよ。アーロン・ターナーが奥さんとやっているSIGE(シージー)レコード。そこからカセットテープとかアナログ盤とかで作品を出していて。作品数はそんな多くないですね。この人はブラック・メタルとかドゥームっぽいことを取り入れているアンビエント・ミュージックだと思うんですけど。クリスチャン・フェネス(Christian Fennesz)とかティム・ヘッカー(Tim Hecker)とかの、もっとブラック・メタルとかの色が濃いバージョンみたいな。

——どこかでエクスペリメンタル+ブラック・メタルって感じで紹介されてもいましたね。確かにそれよりもアンビエントっぽいかなあと。

佐久間:ブラック・メタルのリフをもっとなんか記号化して膨張させている感じですよね。

——ガンガンガンガンじゃなくて、ガーーになってる。

板垣:ライヴだとどうなるんでしょうかね。

佐久間:多分基本、即興ですよ。ギターとペダルを使って。YouTubeとかに動画もあんまりなくて。

——2000年代はメタル関連の人たちがアンビエントとかもう少し広く実験的な方面に行くっていうのは多かったんでしょうか。

佐久間:実験的な音楽っていうところで言うと、ナパーム・デスのミック・ハリスがやってたスコーン(Scorn)とかジェイムズ・プロトキン(James Plotkin)の影響が大きいと思いますね。

——ナパーム・デスみたいなヘヴィでハードコア的な音楽をやっていた人たちがどういった流れで実験的な方向に行ったのでしょうか。

佐久間:ミック・ハリスはナパーム・デス脱退後にスコーンでトリップホップとかドラムンベースをいろいろやっていて、あとはレゲエとかアンビエントとかも取り入れてました。一方でルル(Lull)というソロ・プロジェクトではアンビエントとかをやっていましたね。アーロン・ターナーとかもヘヴィミュージックから基軸としつつ、それらの実験的アプローチをやっていて、アングラ系のヘヴィロックの界隈にいた人たちが最終的に実験的な方に行く、という流れがありました。

——アングラという話でいうと、どこか特定の地域でシーンが盛んだったとかそういったものはありますか。

佐久間:シアトル周辺――そこら辺の出身であるアース(Earth)の93年に出した『Earth 2』という作品があるんですけど、それはただブラック・サバスのひとつのリフを延々弾き続けるような作品なんです。あれは、その後のいわゆるドローンの概念を応用したドゥームの実験的アプローチのパイオニア的ものだと思います。メルヴィンズ(Melvins)とかもそうですね。この辺は2000年代以降のミュージシャンに影響与えているなと。

——やっぱりドゥーム的なものってドローンとかと簡単に結びつきやすいですね。

佐久間:サン O)))とかまさにそうじゃないですか。日本だとボリス(Boris)とかがそういうことやってますね。



■ ロクリアン(Locrian)『Return To Annihilation』

佐久間:これはいわゆるドローンなんですけど、でもものすごいヘヴィロックの形態に近いドローンというか。シカゴのバンドですね。

——Relapse Recordsというメタルのレーベル所属と。

堀中:マストドンとかも、もともとRelapse Records出身で、アメリカのアンダーグラウンドのメタルとかデスメタルのバンドとかが結構います。

——この曲はミックスに特徴がありますよね。演奏自体は非常にヘヴィなサウンドなはずなのにミックスで音を絞って遠くに配置しているというか。

佐久間:ある意味ドローン系中では、サン O)))とかよりもっと分かりやすい例ですね。。

——ロクリアンはどのくらいのキャリアのバンドなんですか。

佐久間:割と十年くらいやっていたと思うんですけど。アーロン・ターナーとその奥さんのフェイス・コロッチャがやってるマミファー(Mamiffer)というバンドがあって、それとコラボ盤を2年前に出しているんですよ。その時点で結構出してます。2005年くらいからです。

——後半の泣きのメロディみたいなフレーズは邦楽にもありそうなくらいキャッチーですね。

佐久間:これは結構明るい方だと思ってて。昔はもうちょっと暗かったです。その前のアルバムからJ・G・バラードの小説を元にしたコンセプトアルバムなども作ったりしていました。

——これレコーディングとかどこでやっているんですか。

佐久間:基本的にシカゴでレコーディングしているようです。

——録音はグレッグ・ノーマン。スタジオがエレクトリカルオーディオで。ミックスもグレッグ・ノーマンがやっている。やっぱりそういう意味ではシカゴの音響的な。

佐久間:ここまで紹介して来たバンドにどれも共通しているのが音響感覚に対して鋭敏というところがあるかと思います。僕もそういう音響的なアプローチ――いわゆるポストロックとか音響派が大好きなんで、そこの延長上で聴いているといった感覚はありますね。

——メタルの中でノイジーなものをやっていると、音響的なところにも簡単に接続しやすいと。

佐久間:僕自身も、メタルとかハードコアを聴くようになった頃からトータス(Tortoise)なんかを並行して聴いていました。未だに10代の頃からずっと、デフトーンズとかトゥールを聴いているのもその延長ですね。デフトーンズとトゥールはアンビエントなどの音響的なアプローチを盛り込んでいるヘヴィロックだと僕は認知しています。

堀中:音響派的なポストロックやマスロックっぽいとこととメタル的なサウンドのクロスポイントが、ロクリアンとかシカゴのシーンかもしれないですね。

佐久間:残響のte’なんかもドラムがかなりメタルっぽいですよね。

——メタル好きの日本のバンドって結構いますよね。the band apartとかもともとメタルのバンドやってたっていう話を聞いたことがあります。やっぱりメタルやってた人たちって演奏うまいなと。ロクリアンはシカゴの全体のシーンと直接結びついてるバンドだっていうのは確かに言えそうですね。

佐久間:シカゴのシーンで言えば、トータスのジョン・マッケンタイアがデヴィッド・クラブスと昔やっていたバストロ(Bastro)もメタリックなポスト・ハードコアでした。

堀中:これはちゃんと聴いてみたいな。

(その4へ続く)

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 メタル座談会もいよいよ終盤となります。次回は板垣さんのセレクトでジャズやクラシックといったこれまでに登場しなかったジャンルとメタルの関係を取り上げます。(BABYMETALもやっと登場します!)