国を超えた音、国を超えた空間を共有する存在

神戸出身、平均年齢22歳の若手ロック・バンドだ。今年3月にEP盤『GLOWING RED ON THE SHORE EP』を初の全国流通でリリースし、本作は1stアルバムとなる。彼らの愛するチルウェイヴ以降の音楽はもちろん、UK/USのインディ・ロックを彷彿とさせるスタイリッシュさを持ち、シューゲイザー、ドリーム・ポップといったカテゴライズが適した、幻想的なサウンドを得意としている。加えて、筆者が初めて見たライヴでは、青紫色のスモークが焚かれ彼らのシルエット姿だけが見える状況で演奏を披露し、音楽性を含めさながら来日アーティストのようであったことを覚えている。
さて、その音楽性はEPの時点でしっかりと確立していて、本作はその延長線をゆくいくつかの味付けが見られる。マス・ロック感のある音で丁寧に切り刻まれた「Illumination」、寄せては返す波のようなループが艶めかしい「Night Time」など、特に80年代シンセ・ポップを随所に思わせるアプローチもあり、ほぼアカペラなほど音数を削ぎ落とした「Thaw」、「Veil」など新境地もある。いずれも低体温でさっぱりした楽曲ながら、それらにグルーヴの強いベースが敷かれており、フロアで静かに踊れるナンバーばかりだ。
本作において彼らが成し遂げたのは、ザ・エックスエックスやドーターのような余白でもって、チルウェイヴの空間を作り上げるということだ。「引き算で音楽を作る」と過去のインタビューでの発言や、本作発売前の11月にアコースティックにてUstream配信を行うなど、ここ最近の彼らは、一音一音への配慮はそのままでも「音の多さ」や「形態」という概念はないことを証明しているかのようだ。それは、繰り返しになるが空間が大事だということ――ギター1本、いや人間の声だけでも海外に立ち向かえる可能性があるのをちゃんと理解しており、上記のようなUK/USのシーンを、ほぼリアルタイムで日本の音楽シーンにうまく落とし込み伝えるセンス――において、丁寧で非常に長けているのだ。
日本のバンドにおいて、あまり語られることのない「世界進出」を早いうちから掲げ、その目標が大きすぎず近いところに感じられる新人はそうそういないと思う。日本のインディ・ロックは既にここまでのレベルに到達しており、彼らはその何よりの証明だ。来年は国境を超えた活躍が期待できるのは間違いない。(梶原 綾乃)
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本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。