先週よりスタートしましたasatte+のメタル企画(その1はこちらからご覧ください)。前回に引き続き今回は堀中さんのセレクトからメタルとハードコア、シューゲイザーのつながりについてみていきます。
*****
■ カーカス(Carcass)「Cadaver Pouch Conveyor System」
堀中:次に3枚目なんですけど、カーカス(Carcass)です。リヴァプールを拠点に85年から95年まで活動していて、その後2007年に再結成しています。中心人物のビル・スティアー(Bill Steer)という人がいるんですけど、彼が1969年生まれなんで、いま45-6歳くらい。さっきのバンドより5-6歳上くらいですね。佐久間:ナパーム・デス(Napalm Death)にいた頃は10代とかでしたよね。
堀中:そうですね。彼は初期の頃はナパーム・デスのようなグラインド・コアのバンドに参加していましたし、その後は70年代のブルース・ロックをやるファイアバード(Firebird)というバンドとか、今もジェントルマンズ・ピストルズ(Gentlemans Pistols)というプログレッシブ・ロックをやるバンドとかいろいろやっていて、ルーツとしては70年代のプログレとかハード・ロックを聴いてきた人なんです。この作品なんかは先ほどのオーペスの作品と対になる部分もあると思うんですけど、カーカスはより伝統的なメタルの要素をかなり前面に出してきたのが2013年に出たこのアルバムで、僕はこの作品が2010年代で一番いいメタルアルバムだと思ってるんですけど。
——とにかく手数の多いドラムとエッジーなギターリフにだみ声のボーカルと、今回挙げてもらった音源の中でも、個人的には一番「メタル」っぽい音源でした。
堀中:いまとなってはよくあるスタイルなんですけど、ボーカルはずっとスクリームしてて、その代わりにギターがメロディーを弾くというスタイルは、このカーカスというバンドが90年代に出していたアルバムが与えた影響は大きいです。そういう意味で尊敬されているバンドですね。さっきのオーペスとかマストドンとかと同じで、70年代の音楽、例えばジューダス・プリースト(Judas Priest)とかをリスペクトしながら、おどろおどろしい不穏な感じのメロディー・ラインを多用しているところも、他のバンドに影響を与えていると思います。
佐久間:いまカーカスを聴くと、現代のメタルコアとかのバンドはいろいろ引用していますよね。
堀中:そうですね。いまのメタルコアのバンドは、直接的ではないにしてもこういうスタイルがルーツにあると思います。
——メタルコアというのはどんな感じの音楽ですか?
堀中:メタルコアのルーツとしてはいくつかあるのですが、90年代前半にスウェーデンのバンド、代表的なところではアット・ザ・ゲイツなどが旧来のデスメタルにメロディーの要素を持ち込んだ動きと、あとこのカーカスの4thアルバム『ハートワーク(Heartwork)』の影響を受けて、イン・フレイムスとかソイルワーク(Soilwork)、チルドレン・オブ・ボドム(Children of Bodom)といったメロディック・デス・メタルのバンドが北欧で登場します。その後、そういったバンドが2000年前後にアメリカに進出してスリップノット(Slipknot)とかとツアーするようになったりして、そのメロディック・デス・メタルに影響を受けたアメリカのバンドが、ヨーロッパのメロディアスなメタルとアメリカのニューヨーク・ハードコアのエクストリームさを掛け合わせた音楽をやるようになって形成されたのがメタルコアです。特にマサチューセッツのボストンを中心にして、キルスウィッチ・エンゲイジ(Killswitch Engage)やシャドウズ・フォール(Shadows Fall)、アズ・アイ・レイ・ダイイング(As I Lay Dying)というバンドが出てきました。
板垣:2000年代以降はメタルコアのバンドは多かったですよね。
堀中:カーカスの中心人物のビルと、元カーカスに在籍していた現アーチ・エネミーのマイケル・アモット(Michael Amott)は同い年なんですけど、日本で人気のあるメタルの様式もこういうところにルーツがあるかなとも思います。
——日本での人気はこれらのバンドはどうなんですか?
堀中:カーカスはBURRN!誌でも取り上げられているし、人気が高いですね。
佐久間:ライブもソールド・アウトしていましたし、新しいファンも聴いてるんじゃないですか。
堀中:ヘドバンという雑誌でもフィーチャーされていて、そこからまた火がついたというのもありましたね。
——1985年から1995年の時と再結成した後では、音楽性としてはあまりかわっていないんですか?
堀中:より伝統的な感触がありますけど、音楽性として決定的に変わっているということはないと思います。中心となるメンバーはほぼ同じなので。
板垣:マイケル・アモットは抜けてるんですよね。
堀中:いまは脱退しています。メロディーの話になりますが、比較のためにマイケル・アモットのギターを聴いてみましょう。カーカスからは抜けて、別のバンドをやっている人ですね。
堀中:一見すると似てるんですけど、僕の感覚ではマイケルの方がいわゆる泣きと言われているようなメロディーの感じが強くて、ビルの方が不穏な感じのメロディーというのが対照的かなと思います。このマイケル・アモットという人も70年代のハード・ロックとかにはすごく影響を受けています。
■ デフヘヴン(Deafheaven)「Dream House」
堀中:このバンドは若いバンドで、たぶんメンバーは20代前半です。アメリカ・サンフランシスコ出身。——メタルの音って結構クリアなものが多い印象があったので、この曲を事前にYoutubeで聴いて、エンコードに失敗してるのかなってくらいがさがさした音で驚きました。
堀中:どちらかというとメタルをやりたくてやっているバンドというよりは、シューゲイザーとかインディー側から、自分達の音楽の要素としてブラック・メタルとかハードコアの要素を入れてきているバンドで、様々な要素がクロスしてます。彼らはコンヴァージ(Converge)のメンバーが関わっているデスウィッシュ(Deathwish)というハードコア・レーベルに所属しています。
佐久間:ブラック・メタルっぽいスクリームですね。
堀中:これを聴いて感じるのは明るい感じというか、ブラック・メタルってもっと暗くて寒い感じなんですけど、そういう感じは全然しなくて。あとメンバーも、ブラック・メタル・バンドとは違って比較的普通の格好でライブをやっています。
佐久間:ギターの眼鏡かけたメンバーはモリッシー(Morrissey)の大ファンらしいですよ。
——今の話だとブラック・メタルって、普通じゃない格好のバンドが多いんですかね。
堀中:ブラック・メタルとかは、コープス・ペイントと呼ばれるメイクとか、アンチ・クライストの思想というのもあるし、そういう部分も含めた文化という感じで。ただ、トレモロリフという同じ音を細かく弾き続ける奏法を多用したり、楽曲的にも特徴があります。
佐久間:そういう所がシューゲイザーと接合しやすいんだと思います。
堀中:音像をぼんやりさせるとシューゲと似ていて。90年代のウルヴェル(Ulver)とかブラック・メタルの有名な音源は単純に音が悪いという特徴も…。
佐久間:音質悪いのはブラック・メタルの特権ですよね。
堀中:音が悪すぎてシャーってなってるアルバムとかも結構ありますし。
佐久間:音こもらせるために4トラックでしか録らないバンドがいたりとか。
堀中:今では若干音良くなってきてますが。それでもインディーズのバンドでは信じられないくらい音悪いバンドも。ブラック・メタルのライブではなんか忙しそうに演奏しているんだけど刻みが細かすぎてゴーと鳴ってるだけみたいなのもたまにあります。
——デフヘヴンは奏法とかサウンド面でブラック・メタルとの類似性があると。
堀中:ブラック・メタルのバンドは多かれ少なかれ今でも身なりに気を使ったりとか、悪魔的なニュアンスを出したりするんですけど、彼らは写真で見ればインディー・ロック・バンドと変わらないですし、あまりメタルがルーツって感じでもないんですよね。もちろん少しはあると思うんですけど。そういうところが面白くて、でもメタル好きな人からも評価されている。この曲はピッチフォークでベスト・ニュー・トラックとかに選ばれてるんです。
佐久間:これはかなり大絶賛されてましたよね。
堀中:そう。ピッチフォークってメタル・バンドはそれほど取り上げていないんですけどね。
——これ、すごいいい曲ですね。後半にメロディアスなリードギターが急に入ったりして、そこでよりシューゲっぽくなる感じとか。
堀中:その辺の境目がどんどん無くなっていくんだろうなという感じがします。
——彼らが所属するデスウィッシュというレーベルには似たようなサウンドのバンドが結構いるんですか?
堀中:デスウィッシュにはいないですけど、フランスのアルセスト(Alcest)とか、アイスランドのソルスターフィア(Sólstafir)というバンドがいて、ブラック・メタルとシューゲイザーだったりポスト・ロックが繋がり始めています。
佐久間:2000年代以降はその動きがかなり顕著ですね。
堀中:メタルの入り口から見るとブラック・メタルって奥の方で、辿り着けないようなところかなって思ってたんですけど、意外とポストロックやシューゲイザーみたいなメタルとは違うジャンルの音楽と接近していて、こういうバンドってのは各地から出てきていますね。
佐久間:僕はデフヘヴンの初期の頃から聴いているんですけど、2012年くらいの初来日の時はあまり盛り上がっていなくて、単独公演はかなり客が少なかったらしいです。でもこのアルバムを出してからの2014年の再来日は盛況で、昔から聴いていた人もいると思うんですけど、もうちょっとカジュアルな感じで見に来ている人が多かった印象がありますね。
板垣:メタルを聴かないような人たちが来ていた?
佐久間:そうですね。どちらかというとインディーロックとか、そっち系の人たちが来ている印象はありました。丁度メタルコアとかハードコア側からのシューゲイザーへのアプローチがある頃で。
堀中:デフヘヴンは面白い存在だと思いますよ。シューゲの人が注目しているって感じはあって。昨年の来日公演に行けなかったんですけど、そのことをTwitterで呟いたら、日本のシューゲイザー・バンドの人からリプライが来てやり取りした覚えがあります。やっぱりシューゲの人も行くんだと思って。メタルとは違う層の人が来てるんだなと。
(その3へ続く)
*****
次回からは佐久間さんのセレクトをもとに、ドローン、アンビエントといったサウンドとメタルとの接点を探っていきます。お楽しみに。