日本のロック史の新たな金字塔

『NOISE』はこれまでのボリスの歴史を総括するように非常にバラエティに富んだ内容だ。その音楽的豊穣さはそのまま情報量にも繋がり、ボリス史上最も情報量の多い作品となった。本作にはドゥーム/ドローン/ノイズから出発したバンドがアニソンやヴィジュアル系、歌謡曲と言った日本的音楽要素を飲み込むまでの歴史が極めて濃度と強度の高い音を持って詰め込まれている。ボリスの膨大な諸作の中で中央に位置する指針となる作品と言えよう。
更に本作はいよいよ日本のロック史に踏み切った作品と言えるのではないか。「Vanilla」や「太陽のバカ」のようにJ-ROCK的なメロディがあり、日本的な抒情性のある歌はイースタン・ユースやブラッドサースティ・ブッチャーズのような日本のオルタナティヴ・ロックの巨匠等に通ずるものがある。また、先鋭的なギタリスト栗原ミチオ離脱を逆手に取るように隙間を生かした有機的なバンド・アンサンブルは彼らが《バンド》に戻った事を強く印象づける。元々演奏の引き出しが多いとは言えないバンドだっただけに新鮮味を感じさせる。以前までは轟音で埋め尽くし楽曲の輪郭を曖昧にすることによって一種の暗号化するという手法をとっていた。しかし、本作は以前とは異なり楽曲の輪郭がはっきりしていることによって、より《音楽的》に感じられるのだ。全曲をシングルにしても差し支えないぐらい分かりやすく、且つ質が高い。「Angel」のような大曲でも極めてキャッチ―だ。「Quicksilver」のような疾走感溢れるハードコアな楽曲でも歌が耳に残る。ギターフレーズも極めてJ-ROCK的である。全曲比較的コンパクトな仕上がりとなっている。
ボリスがここにきて日本のロック的なアプローチを強めて来ているのは、日本のバンドでありながら海外活動を主としてきたのが大きいのではないか。外から内を見ることによって日本のロック、音楽の面白さに気づいたのではないか。これまでのボリスに日本の音楽的要素が感じられなかったわけではない。己の中に流れる日本の音楽的素養を持ちながら『NOISE』にはまるで海外のバンドが日本のロックを解釈したような、ある種矛盾を内包したユニークさがある。
本作でボリスはこれまで海外の文脈で語られてきたものから、日本の音楽シーンの文脈で語られるべき存在となった。『NOISE』は日本のロック史に新たな金字塔を打ち立てたのだ。(佐久間 義貴)
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本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。