僕らのヒーロー、へなちょこの4人組が鳴らす光

バンプ・オブ・チキンは曲を鳴らしたいバンドじゃない。藤くん(藤原基央)から生み出された曲が「こう鳴りたい」と願う姿を実現する4人組なんだ。この数年彼らは今までのスタンスからすれば「らしくない」と思われることに次々と踏み切った。その理由は「曲が望んだから」。藤くんが作った歌を一人でも多くの人に聴いてほしい -この思いは彼らが音楽を世界に向けて鳴らし始めたそのときから一貫して変わらない。本人達としても賛否を呼ぶだろう新たな一歩を躊躇なく歩んでいるわけではないようで、藤くんは「ガタガタ震えながら -それでも”やろうね!”ってなるんですよ」と語っている。これってまさに「臆病者の一撃」を冠す彼ららしいよね。
『RAY』に関しても『FLAME BAIN』や『THE LIVING DEAD』のころを知っている人からすれば、いわゆるギター・ロック・バンドらしかぬシンセや同期を盛り込んだサウンドに「変わったなバンプ」と思うかもしれない。けれど年齢を重ね円熟味を増した4人の思いは音楽があるべき形で響くためにもはや手段を選ばなくなってる。その結果、光量の多い眩しいアルバムが届けられた。プログラミング音と共に優しいアコギが僕らを温かく包容し、祝祭感が空まで高らかに鳴り響く「虹を待つ人」。色彩豊かな光が周囲を駆け廻り〈生きるのは最高だ〉と藤くんに言わしめたタイトル曲の「ray」を始めとしたエネルギーと多幸感に満ちた楽曲は僕達の日々を明るく照らし出してくれる。一方で震災を契機に作られた「smile」は静謐な歌い出しから生命力溢れるプログレッシヴ・サウンドが一気に展開し、力強い光で僕らを呑み込む。「(please)forgive」が放つのは切なく淡い光だ。起伏の穏やかなこの歌は安寧とした日常の不自由さ、しかしそれすらも自らが自由に選んだものだ、ということを粛々と紡ぎだしている。
音の質感や活動のアプローチこそ変われど、芯の部分に耳をすませば愚直なまでにバンプは変わらないんだっていうのがわかる。藤くんの中の体験や感情が干渉し合って生まれたものが歌になり、それを伝えたい4人が愚直なまでに歌に向き合い、寄り合ったものが一つの作品になる。そこで歌われる言葉は本人達の意思を越えて、いつしか僕らのために鳴り、生きるために僕らの背中を押してくれるんだ。いつも助けてくれてありがとう。そして、また新しい光をありがとう。(森 勇樹)
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本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。