20150609

【レビュー】人間椅子 『無頼豊饒』

"ホラーではなく怪談"を表現し時代に寄り添う

人間椅子
無頼豊饒
徳間ジャパン, 2014年
 人間椅子はデビュー25周年にして、時代に更に寄り添うバンドとなった。子供たちは妖怪体操にいそしみ、大人たちはアイドルに思いを馳せる昨今。人間椅子といえば、2013年の「Ozzfest Japan」において、ももいろクローバーZと共演したことも記憶に新しい。筋肉少女帯を率いる大槻ケンヂの別バンド・特撮でもギターを担当し、アイドルに曲を書くNARASAKIが、和嶋慎治(Gt/Vo)を推薦したことが契機となっている。人間椅子は海外のHR/HM勢から影響を受けつつ、これを日本の風土になじませた。和嶋と、鈴木研一(Ba/Vo)の出身地である青森の津軽三味線由来のコードも取り入れている。ギターの譜面を読むのに一苦労する複雑さ。曲のタイトルには江戸川乱歩などの怪奇文学本のタイトル。日本的な耽美と日常の慈しみが詰まった楽曲が並ぶ。筆者の好きな宮沢賢治の作品からの曲も新譜に収められている。
 人間椅子のもう一つの要素といえば、「おどろおどろしい」「妖怪」「怪談」の世界。ブラック・サバスの初期のコンセプトは「音で人を怖がらせよう」ということだった。HMとホラーなどの世界は、切っても切れない関係となった。対して人間椅子は、怖がらせるとしたら、あくまで「怪談」。狂気を表すとしたら「日本的な美しさ」。新譜の歌詞カードの最後に載っている骸骨絵は、歌川国芳の『相馬の古内裏』に出てくる骸骨絵から拝借したものと推測される。バンドのFacebookにも国芳の絵は載せられ、この絵の大ファンであった筆者はデジャヴを感じた。歌詞カードのほうは国芳の絵を少しいじり、骸骨がメロイックサインまで出している。非常にファニーで滑稽で、可愛らしさまである。
 歌詞についてみていくと、枕詞(たらちねの母、あらたまの年など)、童謡(かごめかごめ、達磨さんが転んだなど)、「無」や「諦め」「地獄」といった仏教的世界観を織り交ぜた語り口が独創的だ。新譜からの曲「なまはげ」では<泣いでるわらしは いねが>と、民俗行事としてのなまはげそのものを歌にしている。音圧・音質が上がったこともあり、新作は全体としてメタリックな印象が強くなった。長い活動のなかで、料金未払いで電話を止められた時期まであったのだそうだ。人間椅子が少数でも喜んでくれる人たちに届ける喜びを追及し続けたことに、改めて敬意をこめて大きな拍手をおくるとともに、今後に更に期待したい(板垣 有

*****
 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。