20150504

【レビュー】Spoon 『They Want My Soul』

着飾らずとも、艶やかで力強いということ

Spoon
They Want My Soul
Loma Vista, 2014年
 音像が世の中にあまりにも多く溢れていたのではないだろうか。00年代後半NYインディーに端を発し、ハウスからアフリカン・ミュージックまで多くのジャンルを飲み込んで混淆的な様相を見せていたのが近年のロックだった。過剰に音を塗りたくり、複雑さを増していったそれは”大衆的な”という意味を含むポピュラー・ミュージックの本質から私たちを置き去りにしつつあったかもしれない。
 そんなシーンを知ってか知らずか、20年超のキャリアを持つスプーンの新作『They Want My Soul』は骨太な60年代的メロディを基幹にロックの伝統的な初期衝動を感じさせる。それでいて、10年代の潮流となりつつある緻密な曲構成や質の高い録音を用いて革新性を提示することも忘れていない。タイトル曲「They Want My Soul」の〈ああ、やつらは俺の魂が欲しいのさ!〉というソウルフルな叫び。自らを取り巻く泥濘としたものを蹴散らす力強さには思わず拳を握った。
  冒頭の破裂音を思わせるスネアから始まり、ドライな硬さと美しいリフを携えたミドル・ナンバー「Rent I Pay」。かき鳴らされるギターは頼もしくも、恍惚感を湛えたコーラスは輝きを放つ「Do you」では繰り返されるサビを思わず一緒に口ずさみたくなる。気の抜けたカントリー調のイントロが特徴的な「Let Me Be Mine」は、近年復権を見せつつあるスラッカーな空気との共振を漂わせるようだ。ラストに流れ込む「New York kiss」はNYの街角での古い恋人と交わした接吻がありありと浮き上がり、センチメンタルな思いに締め付けられる。
 先には初期衝動と述べたが、多くに絡めとられたロックが蔓延した現代において本作は単なる過去の引用に留まらない。ブルックリンで00年代の音楽を方向付けた代表格のTV・オン・ザ・レディオが本年『Seeds』で新たに見せたフィジカルさにも通ずるような、理性よりも本能に訴求する―そんな魅力を秘めているように思う。時代の空気に触れつつ、決してトレンドに逸って作られたものではない。「色々な新しい音楽を見つけよう」というバンドが従来から持つスタンスがもたらした会心の一撃は、見事に全米四位の座を再び射抜いた。この功績はスプーンがオルタナティヴ=唯一無二なロック・バンドであることの何よりの証であろう。まだまだロックの未来は捨てたものじゃない。(森 勇樹

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。