20150520

【レビュー】SWANS 『To be kind』

愛憎のリヴァース・ショット

SWANS
To be kind
Young God/Mute, 2014年
 ドローンとは即ち反復であり、音を引き延ばすという意志の表れである。幾度も音は反復され、永遠/永続性を強調する。初期スワンズが提示した音もまたドローンであった。メカニカルでマシナリーなハンマー・ビートにノイズまみれのリフの執拗な反復は正しくノイズ・ドローンの形態をとっている。では、スワンズ=マイケル・ジラにとっての反復とは何を指しているのだろうか。
 来年1月に再来日が決定しているスワンズの再結成後3作目となる本作でも根底にあるのは反復=ドローンにあると言っていい。しかし、それでいて、おおよそインプロヴァイズを軸としたであろうと推測できるアルバム構成は各音のパートの分離と隙間が非常に生かされた、有機的で立体的なアンサンブルが特徴だ。言い変えるならば、スワンズ史上最もライヴ感溢れる作品である。強靭な反復のリズムを基調にしつつも、ギター・ノイズは自在に、時に多彩に暴れまわる。ジラのヴォイスはジム・モリソンを彷彿させるように情念を湛え、歌い、叫び散らす。初期のスワンズの反復は脊髄反射的なものであったが、本作におけるスワンズの反復は極めてフィジカリティなものである。リズムの躍動感は呪詛的でプリミティヴですらあるのだ。また長尺が占める楽曲群の構成と展開はスワンズ流の演劇=音劇を鑑賞しているようである。「Bring the sun/Toussaint L’Ouverture」はその象徴であろう。本作の要素を全て凝縮し、展開され、繰り返される。スワンズ流の演劇=音劇は永遠に終わりのない反復なのだ。
 ここで冒頭の問いは繰り返される。スワンズ=ジラの反復とは何を指しているのか。結論から言えば、スワンズの反復は初期の頃から何も変わっていない。即ちスワンズの反復とは愛憎の反復なのだ。徹底した愛憎がジラを反復に掻き立てるのである。愛と憎しみは相反しない。ジラにとって愛することと憎むことは同義であり、愛するが故に憎み、憎むが故に愛する。その愛と憎しみの反復によって、生まれる軋轢がスワンズの反復の根源なのだ。本作でもメビウスの輪のように終わりなき愛憎はグルーヴとなって貫かれていると言っていい。 仮にマルグリット・デュラスのテキストにサウンドトラックをつけるのならば、本作ではないか。『To be kind』は永遠に繰り返される愛と憎しみの間で反復し、そして逆転し続ける愛憎のリヴァース・ショットなのだ。(佐久間 義貴)

*****
 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。