世界は簡単に倒れそう、でも意外としっかりできている

「うつし世は夢 よるの夢こそまこと」――“この世は夢で夜の夢こそが現実”と江戸川乱歩が言ったように、オーガ・ユー・アスホールも我々の常識感覚を大きく混乱させるような音楽を鳴らし始めた。夢、現実、時間…人間の意識のなかをとりまく概念をぐちゃぐちゃにかき回した、現在地の分からない音楽。それが『ペーパークラフト』の正体だ。
近年の彼らの潮流には、非常に興味深いものがあった。楽天的な音作りとシニカルな終末観を併せ持った『100年後』、ドープで実験的なリアレンジ音源集となった『Confidential』。口数は少なく、音は機械的になっていく楽曲からは次第に人間の体温を感じられなくなり、気味の悪さが漂っている。そして今回彼らが目指した次なるものは、先述2作の中間点のような、新譜でありながらリミックス音源をも思わせる音だった。
たとえば、「他人の夢」の終盤を覆うヘリコプターのような音や、「見えないルール」で均等にならされるホイッスルのようなループ音。これらのサウンド・エフェクトが味付けとして不穏に耳に訴えかける。これらの作用は時間軸をリミックスすることであり、時間を分断/リセットさせ、リスナーの正常な感覚を奪っていく。ライヴ・ハウスで見るVJのような、ずっと同じ映像の繰り返しを見せられている気分だ。全編を通しアナログ盤のようなぷつぷつとした音も挿入されていて、ラスト「誰もいない」ではついに大きなノイズとなり息絶える。
この音楽は現代の政治、事件への皮肉を歌っているのだろうか…なんて、それらしい答えを見つける気持ちなどは起きない。まともな感覚がつかなくなるほどの浮遊感と後味の悪さ。そして深い悲しみの迷路で宙ぶらりんとなった自分の存在を確認する。どうしてオーガはここまで巨大な虚構を作り上げてしまったのだろうか。私は未だにこの世界から抜け出せずにいる。
しかしただ一つ思うのは、たとえ今が本当の現実じゃなくて、自分の居場所がわからなくても、自分という存在は自分の意識があれば確認できるということ。出戸学(Vo./Gt.)は、『ペーパークラフト』という巨大なレイヤーを張ってまでこんなことを言いたかったんじゃないだろうか。でもそんなことが分かったくらいで、この世界から抜け出すことはおそらくできない。簡単に倒れそうで、意外としっかりできているこの世界の縮図を、人間の意識と絡めて巧みに表現した作品である。(梶原 綾乃)
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本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。