アート性と大衆性を融合した新しい才能の登場

穏やかで、しかしながら燃えるような情熱を感じるアルバムだと思う。ここ数年静かな盛り上がりを見せているインディR&Bシーンにおいて、これほど待ち望まれたデビュー・アルバムもそうはないであろう。FKAツイッグスは、10代のころからUK・ロンドンでキャリアを積み上げているダンサーだったが、2012年に最初の音源をBandcampにて発表したことを契機にシンガー・ソングライターとしても注目を集めた。彼女が2013年に発表したEPに続いて発表したフル・アルバムが、本作『LP1』にあたる。このアルバムは、高いアート性と同時に強靭なポピュラリティーをも備えた2014年を象徴する作品である。
この作品にプロデューサーとしてクレジットされているのは、ビョークの次回作を手掛けるアルカや、ブラッド・オレンジ名義で知られるデヴ・ハインズなど、現代のエレクトロ、R&Bシーンをリードするトップランナーばかり。そんなシーンを代表する才能を曲ごとに起用しつつも、それぞれの曲で散漫な印象は皆無だ。むしろ作品を貫く繊細な感覚が印象的で、ミニマルで宇宙的なトラックの上を泳ぐ彼女の声は、自由に私的な内容を打ち明ける。プロデューサーの起用に関しては、自身の得意でない部分を埋める存在としての起用であると彼女自身は語っており、自らや作品をコントロールする存在としてではなく、作品制作における一要素として主体的に起用しているということであろう。そこには、シンガーでありダンサーである表現者としての「身体性」の彼女と、作品の世界観を形成する「精神性」の彼女がそれぞれ別に、しかし互いに関係しあいながら存在していることを強く感じる。
FKAツイッグスというアーティストは、最初の音源をインターネット上にアップしてシーンに登場した、いわゆる”インターネット出身”のアーティストで、この作品に収録されている「Video Girl」や「Two Weeks」をはじめとした奇抜で印象的なMVの存在からも、そのビジュアルイメージや音楽をインターネット経由で十分に知ることができる状況にある。しかし、それでもまだどこか掴みきれないような神秘性をたっぷりと残しているように思う。この感覚は、ライブという場において「身体性」の彼女を目の当たりにしたときにまた変化するのだろうか。音楽作品として高い完成度を示しながら、それを上回る強い引力を秘めた稀な作品である。(堀中 敦志)
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本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。