20150615

【レビュー】FKA twigs 『LP1』

アート性と大衆性を融合した新しい才能の登場

FKA twigs
LP1
XL Recordings, 2014年
 穏やかで、しかしながら燃えるような情熱を感じるアルバムだと思う。ここ数年静かな盛り上がりを見せているインディR&Bシーンにおいて、これほど待ち望まれたデビュー・アルバムもそうはないであろう。FKAツイッグスは、10代のころからUK・ロンドンでキャリアを積み上げているダンサーだったが、2012年に最初の音源をBandcampにて発表したことを契機にシンガー・ソングライターとしても注目を集めた。彼女が2013年に発表したEPに続いて発表したフル・アルバムが、本作『LP1』にあたる。このアルバムは、高いアート性と同時に強靭なポピュラリティーをも備えた2014年を象徴する作品である。
 この作品にプロデューサーとしてクレジットされているのは、ビョークの次回作を手掛けるアルカや、ブラッド・オレンジ名義で知られるデヴ・ハインズなど、現代のエレクトロ、R&Bシーンをリードするトップランナーばかり。そんなシーンを代表する才能を曲ごとに起用しつつも、それぞれの曲で散漫な印象は皆無だ。むしろ作品を貫く繊細な感覚が印象的で、ミニマルで宇宙的なトラックの上を泳ぐ彼女の声は、自由に私的な内容を打ち明ける。プロデューサーの起用に関しては、自身の得意でない部分を埋める存在としての起用であると彼女自身は語っており、自らや作品をコントロールする存在としてではなく、作品制作における一要素として主体的に起用しているということであろう。そこには、シンガーでありダンサーである表現者としての「身体性」の彼女と、作品の世界観を形成する「精神性」の彼女がそれぞれ別に、しかし互いに関係しあいながら存在していることを強く感じる。
 FKAツイッグスというアーティストは、最初の音源をインターネット上にアップしてシーンに登場した、いわゆる”インターネット出身”のアーティストで、この作品に収録されている「Video Girl」や「Two Weeks」をはじめとした奇抜で印象的なMVの存在からも、そのビジュアルイメージや音楽をインターネット経由で十分に知ることができる状況にある。しかし、それでもまだどこか掴みきれないような神秘性をたっぷりと残しているように思う。この感覚は、ライブという場において「身体性」の彼女を目の当たりにしたときにまた変化するのだろうか。音楽作品として高い完成度を示しながら、それを上回る強い引力を秘めた稀な作品である。(堀中 敦志

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150613

【レビュー】THE NOVEMBERS 『Rhapsody in beauty』

徹底して美しいギター・ノイズ・アルバム

THE NOVEMBERS
Rhapsody in beauty
MERZ, 2014年
 "ノイズ"とは、人間が定義した規則から外れたもの。不要なもの。過剰なもの。あるいは居心地の悪いもの。そう考えると、我々の日常はノイズの中に存在しているように思える。そのノイズは果たして醜いものだろうか。「美しさ」と「醜さ」、「調和」と「不協和」がそれぞれ表裏一体だとして、必ずしも「美しさ」と「調和」が同じ対象に宿ることはなく、ノイズの中にだって美しいものは存在するに違いない。そんなことを、本作の幕開けとなるノイズ・オーケストラ「救世なき巣」を聴きながら考える。THE NOVEMBERSが前作『zeitgeist』に引き続き自主レーベル"MERZ"からリリースした『Rhapsody in beauty』は、ノイズで美しさを表現した作品だ。
 作品を支配する耳をつんざくギター・ノイズ、それはさながら猛獣のようだと思う。容易に手懐けることはできない暴力的な猛獣を、完全にコントロールする戦い。思えば、ジミ・ヘンドリックスやケヴィン・シールズは卓越した猛獣使いだろう。そんな猛獣にTHE NOVEMBERSは戦いを挑んでいる。彼らが尊敬の眼差しを向けてきたBorisやdownyもそうして来たように。コントロールを誤れば、音楽はたちまちノイズに飲み込まれてしまう。しかし、本作には重厚なノイズにも埋もれない存在感を主張するメロディーがある。地を這うように疾走するロック・ソング「Blood Music.1985」や、ムーディーな「Romancé」は、ノイズを楽曲の一要素としながら、豊かな力強さを持った歌だ。この作品におけるノイズとは、ジョン・ケージの「4分33秒」で日常の雑音が音楽として扱われるように、日常そのもののモチーフなのだ。
 アルバムは<どこの誰がなんと言おうと 僕らはただひとつの幸福だったんだよ>というフレーズで締めくくられる。幸福、それは例を挙げるなら、この作品のリリース前にバンドの中心人物である小林祐介が娘を授かったように、身近で手触りのあるものだろう。そんな日常の中にある美しさの表現が、ノイズとのコントラストによってより一層際立っている。この作品におけるノイズとは、不穏さや邪悪さをもたらすエフェクティヴなものとしてではなく、あくまでモチーフとしてのもの。だから、このロック・アルバムには強烈な存在感がある。2014年の音楽シーンにおいても、全く埋没する余地もないほどに。(堀中 敦志

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20150611

【レビュー】矢野顕子 『飛ばしていくよ』

不可思議な音の旅路へ、いらっしゃいませ。

矢野顕子
飛ばしていくよ
ビクター, 2014年
 矢野顕子がラジオに生出演し、生演奏を披露したことがあった。曲目は「いい日旅立ち」。遅ればせながら、これが筆者と矢野顕子との出会いとなった。独創的で、息をのむ…のみ続けてしまうかのような、"ものすごい"展開に、感動しすぎて頭がぼうっとしてしまった。この演奏の音源は残っていないようなのが残念だ。YouTubeの音源であれば、「ちいさい秋みつけた」で彼女のクリエイティヴィティが確認できるだろう。
 矢野顕子の音世界は、普通の音楽家が考えうる世界を一歩超えている。彼女の"ものすごい"部分は、ジャズの理論のなかで誰もが考え付かない突拍子もない一音をひねり出すことだ。(いつメインのフレーズに戻るのだろう)と聴き手が気を揉むなか、彼女は飄々と歌ってみせる。彼女なりの「いい日旅立ち」「ちいさい秋みつけた」の“"解釈"を。その展開は聴き手を不可思議な世界へと誘う。誰もが予測不可能なその世界で、私たちは音に溺れたり浮かび上がったりしながら、向こう岸へたどり着くのだ。
 NYに住み、スタインウェイのグランド(ショート)ピアノと、猫と共に暮らす矢野顕子。郊外には「パンプキン」というスタジオがある。矢野の才能の周りには、これまでも自然と他の才能が集まってきた。新譜『飛ばしていくよ』でも、矢野は自身が"カッコいい"と思ったアーティストと組み、はつらつと楽しんでいる。シンセサイザーやコンピューターナイズされた音が多いのも特徴の一つ。それもそのはず。今回はボカロPのsasakure.UKと組んでもいるのだ。「ごはんとおかず」「Captured Moment」ともに、ボーカロイドの作者が手掛けたとは思えない、メロディのたった楽曲だ。更にはyanokamiで、当時リリースされなかった音源をアレンジして発表した曲も(「YES-YES-YES」)。BOOM BOOM SATELLITESとの共作曲「Never Give Up on You」。ロック色が強いが、ハッとするプログレッシヴな展開が特徴だ。ボーカロイドであれ、ロックであれ、テクノ(砂原良徳との共作)であれ、最終的には矢野顕子色に染められていく。ピアノと対等に渡りあう歌心とともに、音源では音が"自然に"流れるように入ってくることも、矢野の“ものすごさ”を表している。ライヴではアレンジを変えて歌うことが多い矢野。“ぶっとんだ経験”をしに、ライヴに足を運びたい。(板垣 有

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20150609

【レビュー】人間椅子 『無頼豊饒』

"ホラーではなく怪談"を表現し時代に寄り添う

人間椅子
無頼豊饒
徳間ジャパン, 2014年
 人間椅子はデビュー25周年にして、時代に更に寄り添うバンドとなった。子供たちは妖怪体操にいそしみ、大人たちはアイドルに思いを馳せる昨今。人間椅子といえば、2013年の「Ozzfest Japan」において、ももいろクローバーZと共演したことも記憶に新しい。筋肉少女帯を率いる大槻ケンヂの別バンド・特撮でもギターを担当し、アイドルに曲を書くNARASAKIが、和嶋慎治(Gt/Vo)を推薦したことが契機となっている。人間椅子は海外のHR/HM勢から影響を受けつつ、これを日本の風土になじませた。和嶋と、鈴木研一(Ba/Vo)の出身地である青森の津軽三味線由来のコードも取り入れている。ギターの譜面を読むのに一苦労する複雑さ。曲のタイトルには江戸川乱歩などの怪奇文学本のタイトル。日本的な耽美と日常の慈しみが詰まった楽曲が並ぶ。筆者の好きな宮沢賢治の作品からの曲も新譜に収められている。
 人間椅子のもう一つの要素といえば、「おどろおどろしい」「妖怪」「怪談」の世界。ブラック・サバスの初期のコンセプトは「音で人を怖がらせよう」ということだった。HMとホラーなどの世界は、切っても切れない関係となった。対して人間椅子は、怖がらせるとしたら、あくまで「怪談」。狂気を表すとしたら「日本的な美しさ」。新譜の歌詞カードの最後に載っている骸骨絵は、歌川国芳の『相馬の古内裏』に出てくる骸骨絵から拝借したものと推測される。バンドのFacebookにも国芳の絵は載せられ、この絵の大ファンであった筆者はデジャヴを感じた。歌詞カードのほうは国芳の絵を少しいじり、骸骨がメロイックサインまで出している。非常にファニーで滑稽で、可愛らしさまである。
 歌詞についてみていくと、枕詞(たらちねの母、あらたまの年など)、童謡(かごめかごめ、達磨さんが転んだなど)、「無」や「諦め」「地獄」といった仏教的世界観を織り交ぜた語り口が独創的だ。新譜からの曲「なまはげ」では<泣いでるわらしは いねが>と、民俗行事としてのなまはげそのものを歌にしている。音圧・音質が上がったこともあり、新作は全体としてメタリックな印象が強くなった。長い活動のなかで、料金未払いで電話を止められた時期まであったのだそうだ。人間椅子が少数でも喜んでくれる人たちに届ける喜びを追及し続けたことに、改めて敬意をこめて大きな拍手をおくるとともに、今後に更に期待したい(板垣 有

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20150607

【レビュー】OGRE YOU ASSHOLE 『ペーパークラフト』

世界は簡単に倒れそう、でも意外としっかりできている

OGRE YOU ASSHOLE
ペーパークラフト
P-VINE, 2014年
 「うつし世は夢 よるの夢こそまこと」――“この世は夢で夜の夢こそが現実”と江戸川乱歩が言ったように、オーガ・ユー・アスホールも我々の常識感覚を大きく混乱させるような音楽を鳴らし始めた。夢、現実、時間…人間の意識のなかをとりまく概念をぐちゃぐちゃにかき回した、現在地の分からない音楽。それが『ペーパークラフト』の正体だ。
 近年の彼らの潮流には、非常に興味深いものがあった。楽天的な音作りとシニカルな終末観を併せ持った『100年後』、ドープで実験的なリアレンジ音源集となった『Confidential』。口数は少なく、音は機械的になっていく楽曲からは次第に人間の体温を感じられなくなり、気味の悪さが漂っている。そして今回彼らが目指した次なるものは、先述2作の中間点のような、新譜でありながらリミックス音源をも思わせる音だった。
 たとえば、「他人の夢」の終盤を覆うヘリコプターのような音や、「見えないルール」で均等にならされるホイッスルのようなループ音。これらのサウンド・エフェクトが味付けとして不穏に耳に訴えかける。これらの作用は時間軸をリミックスすることであり、時間を分断/リセットさせ、リスナーの正常な感覚を奪っていく。ライヴ・ハウスで見るVJのような、ずっと同じ映像の繰り返しを見せられている気分だ。全編を通しアナログ盤のようなぷつぷつとした音も挿入されていて、ラスト「誰もいない」ではついに大きなノイズとなり息絶える。
 この音楽は現代の政治、事件への皮肉を歌っているのだろうか…なんて、それらしい答えを見つける気持ちなどは起きない。まともな感覚がつかなくなるほどの浮遊感と後味の悪さ。そして深い悲しみの迷路で宙ぶらりんとなった自分の存在を確認する。どうしてオーガはここまで巨大な虚構を作り上げてしまったのだろうか。私は未だにこの世界から抜け出せずにいる。 しかしただ一つ思うのは、たとえ今が本当の現実じゃなくて、自分の居場所がわからなくても、自分という存在は自分の意識があれば確認できるということ。出戸学(Vo./Gt.)は、『ペーパークラフト』という巨大なレイヤーを張ってまでこんなことを言いたかったんじゃないだろうか。でもそんなことが分かったくらいで、この世界から抜け出すことはおそらくできない。簡単に倒れそうで、意外としっかりできているこの世界の縮図を、人間の意識と絡めて巧みに表現した作品である。(梶原 綾乃

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20150605

【レビュー】The fin. 『Days With Uncertainty』

国を超えた音、国を超えた空間を共有する存在

The fin.
Days With Uncertainty
HIP LAND MUSIC, 2014年
 神戸出身、平均年齢22歳の若手ロック・バンドだ。今年3月にEP盤『GLOWING RED ON THE SHORE EP』を初の全国流通でリリースし、本作は1stアルバムとなる。彼らの愛するチルウェイヴ以降の音楽はもちろん、UK/USのインディ・ロックを彷彿とさせるスタイリッシュさを持ち、シューゲイザー、ドリーム・ポップといったカテゴライズが適した、幻想的なサウンドを得意としている。加えて、筆者が初めて見たライヴでは、青紫色のスモークが焚かれ彼らのシルエット姿だけが見える状況で演奏を披露し、音楽性を含めさながら来日アーティストのようであったことを覚えている。
 さて、その音楽性はEPの時点でしっかりと確立していて、本作はその延長線をゆくいくつかの味付けが見られる。マス・ロック感のある音で丁寧に切り刻まれた「Illumination」、寄せては返す波のようなループが艶めかしい「Night Time」など、特に80年代シンセ・ポップを随所に思わせるアプローチもあり、ほぼアカペラなほど音数を削ぎ落とした「Thaw」、「Veil」など新境地もある。いずれも低体温でさっぱりした楽曲ながら、それらにグルーヴの強いベースが敷かれており、フロアで静かに踊れるナンバーばかりだ。
 本作において彼らが成し遂げたのは、ザ・エックスエックスやドーターのような余白でもって、チルウェイヴの空間を作り上げるということだ。「引き算で音楽を作る」と過去のインタビューでの発言や、本作発売前の11月にアコースティックにてUstream配信を行うなど、ここ最近の彼らは、一音一音への配慮はそのままでも「音の多さ」や「形態」という概念はないことを証明しているかのようだ。それは、繰り返しになるが空間が大事だということ――ギター1本、いや人間の声だけでも海外に立ち向かえる可能性があるのをちゃんと理解しており、上記のようなUK/USのシーンを、ほぼリアルタイムで日本の音楽シーンにうまく落とし込み伝えるセンス――において、丁寧で非常に長けているのだ。
 日本のバンドにおいて、あまり語られることのない「世界進出」を早いうちから掲げ、その目標が大きすぎず近いところに感じられる新人はそうそういないと思う。日本のインディ・ロックは既にここまでのレベルに到達しており、彼らはその何よりの証明だ。来年は国境を超えた活躍が期待できるのは間違いない。(梶原 綾乃

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20150603

【レビュー】吉田ヨウヘイgroup 『Smart Citizen』

スマート社会で豊かに生き抜く音楽とは?

吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen
P-VINE, 2014年
 今年、東京のインディ・シーンを象徴したのは吉田ヨウヘイgroup(以下YYG)だった。森は生きているやROTH BART BARONら、このシーンを代表するバンドが出演したイベント「20140420」でトリを務め、フジロック・フェスティバルのルーキー・ア・ゴーゴー、One Music Campなどのフェスへ参加、ルミナス・オレンジの新譜への参加。そして何よりも、活発な活動の中リリースされた本作がそれを物語っている。
 彼らはその名の通り、吉田ヨウヘイ(Vo, Gt, A.sax)を中心とする8人組ロック・バンド。ロック・バンドといっても、サックス、フルート、ファゴットら木管楽器のウエイトが高いのが特徴的だ。特にファゴットという楽器はソロから伴奏まで高低音を問わない音域を持ち、音量の小ささというネックがあるにも関わらず、バンド内で骨組となるメロディを担当するなど生き生きと鳴らされている点は素晴らしい。
 ファースト・アルバム『From Now On』以降1年3か月ぶりとなる本作は、OK?NO!!のriddamを含むメンバー・チェンジ後、初作品となる。ジャズから始まりファンクやニュー・ソウル的アプローチもあり、彼らの音楽は複合的で例えるのが難しい。具体的なコレというものは挙げにくいが、あえて言えば彼らの音作りはロネッツやカーデッツのようなコーラスにルーツがあると考える。YYGでは、メンバー8人のうち女性3人全員が楽器の他にコーラスを担当している。"ラララ" "ハハハハ"のような、スキャット的コーラスと楽器が絶妙な間を持って掛け合い、対話することで完成する流れは心地がよく、声も楽器の一部として組み込まれている様子をしっかりと感じられる。そういった手法を総括すると、音楽性は違えど方法論としてはルミナス・オレンジと近いものを感じた。先述の新譜ゲスト参加は必然的か。
 本作収録曲を引っ提げたフジロックでの公演以来、木管の音量やバンドのバランス共に絶好調で今めきめきと成長を感じられる彼ら。ファゴット・内藤彩の脱退は残念であったが、不景気な現代社会で鳴らされる彼らのアットホームで豊かな音楽は、今年のインディ・シーンが好景気であるという何よりの証拠となった。今年は東京インディを象徴したが、来年以降の彼らが、東京インディという言葉では描き切れない新たなシーンを形成してくれるのを楽しみにしている。(梶原 綾乃

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20150601

【レビュー】Lillies and Remains 『ROMANTICISM』

ロマンティックが止まらない

Lillies and Remains
ROMANTICISM
Fifty One Records, 2014年
 ああ、いつもそうだ。ゾクゾクするくらいクールでいて、またどうしようもなくなるほどに切なくさせる。焼け付くくらいに胸を焦がされる。こうしていつも私の心をかき乱していくんだ。Lillies and Remains (以下リリーズ)、彼らの音楽にはいつも良い意味で翻弄されてばかりだ。今回、約3年半ぶりのフル・アルバムとなったリリーズの新譜『ROMANTICISM』は、聴いたものの感情を狂おしくなるほどかき乱す。曲から、そして歌詞から溢れる切なさと、やるせなさ。今作の彼らはまた、今までの作品とは違う新たな新境地にたどり着いている。
 今年は6月に約5年、バンドでベースを務めていたNARA MINORUが脱退し、KENT(Vo./Gt.)とKAZUYA(Gt.)の新体制が始動した年であった。今作『ROMANTICISM』は新体制後、初のアルバムとなる。制作するにあたって、元SOFT BALLET、現minus(-)の藤井麻輝がプロデューサー兼、レコーディング・エンジニアとして参加した。従来はバンドのソングライターであるKENTを中心に曲作りをしていた彼らだが、今回新たに藤井が加わったことで曲層の幅が広がりを見せ、楽曲から人間味が垣間見えるようになった。
 10月12日に盟友PLASTICZOOMSと共催したオールナイト・イベント「BODY」で今作の楽曲を初めて聴いた時は、彼らの見せる新境地に強く胸が躍った。アルバム1曲目の電子音バキバキ、且つギターが唸りをあげるインダストリアルなナンバー「BODY」は、聴いたものの本能を解放させ、踊らずにはいられなくさせる。メロウなメロディーが醸し出す寂寥感が胸をしめつけるのが2曲目の「Go Back」。ラストにかけて、80年代感のある煌めくシンセサウンドにのるKENTの高音域の歌声、そしてコーラスワークが、さらに胸をしめつける。これがたまらない。さらに特筆したいのが4曲目、「Like the Way We Were」。これまでのリリーズでは聴いたこともない特徴的なギターのリフ、疾走感のある爽快なメロディーとサウンドが癖になる。
 『ROMANTICISM』という新たな礎を元に、今後も新体制で進んでいく彼らのポテンシャルに期待しかしていない。そして、私はこれからも彼らの何者にも侵されない意志を、今までと変わらずに貫いていく美学と矜持を、見届けていきたい。(コイズミリナ

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