20150430

【レビュー】BUMP OF CHICKEN 『RAY』

僕らのヒーロー、へなちょこの4人組が鳴らす光

BUMP OF CHICKEN
RAY
トイズファクトリー, 2014年
 バンプ・オブ・チキンは曲を鳴らしたいバンドじゃない。藤くん(藤原基央)から生み出された曲が「こう鳴りたい」と願う姿を実現する4人組なんだ。この数年彼らは今までのスタンスからすれば「らしくない」と思われることに次々と踏み切った。その理由は「曲が望んだから」。藤くんが作った歌を一人でも多くの人に聴いてほしい -この思いは彼らが音楽を世界に向けて鳴らし始めたそのときから一貫して変わらない。本人達としても賛否を呼ぶだろう新たな一歩を躊躇なく歩んでいるわけではないようで、藤くんは「ガタガタ震えながら -それでも”やろうね!”ってなるんですよ」と語っている。これってまさに「臆病者の一撃」を冠す彼ららしいよね。
 『RAY』に関しても『FLAME BAIN』や『THE LIVING DEAD』のころを知っている人からすれば、いわゆるギター・ロック・バンドらしかぬシンセや同期を盛り込んだサウンドに「変わったなバンプ」と思うかもしれない。けれど年齢を重ね円熟味を増した4人の思いは音楽があるべき形で響くためにもはや手段を選ばなくなってる。その結果、光量の多い眩しいアルバムが届けられた。プログラミング音と共に優しいアコギが僕らを温かく包容し、祝祭感が空まで高らかに鳴り響く「虹を待つ人」。色彩豊かな光が周囲を駆け廻り〈生きるのは最高だ〉と藤くんに言わしめたタイトル曲の「ray」を始めとしたエネルギーと多幸感に満ちた楽曲は僕達の日々を明るく照らし出してくれる。一方で震災を契機に作られた「smile」は静謐な歌い出しから生命力溢れるプログレッシヴ・サウンドが一気に展開し、力強い光で僕らを呑み込む。「(please)forgive」が放つのは切なく淡い光だ。起伏の穏やかなこの歌は安寧とした日常の不自由さ、しかしそれすらも自らが自由に選んだものだ、ということを粛々と紡ぎだしている。
 音の質感や活動のアプローチこそ変われど、芯の部分に耳をすませば愚直なまでにバンプは変わらないんだっていうのがわかる。藤くんの中の体験や感情が干渉し合って生まれたものが歌になり、それを伝えたい4人が愚直なまでに歌に向き合い、寄り合ったものが一つの作品になる。そこで歌われる言葉は本人達の意思を越えて、いつしか僕らのために鳴り、生きるために僕らの背中を押してくれるんだ。いつも助けてくれてありがとう。そして、また新しい光をありがとう。(森 勇樹

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150428

【レビュー】GORO GOLO 『Golden Rookie, Goes Loose』

日本ならではのハードコアR&Bパンク

GORO GOLO
Golden Rookie, Goes Loose
P-VINE, 2014年
 約22分の音楽しか入っていないCDはプレイヤーに入れて再生すると、都市生活者の変化が激しいメンタルを癒して整え肉体を揺らす。聴いた途端に素敵なBGMとして、鼻歌・エア楽器演奏・ダンス必至の作品である。それは紆余曲折を経て再びシーンに戻ってきた彼らの人生と音楽の深みが生み出したものであるからか。
 12年ぶりにフルアルバムとして出した本作。2002年アルバムを一枚だけ出して解散したバンドGORO GOLOが復活してスガナミユウ(Vo)主催の制作クルー音楽前夜社結社や、同じメンバーによるでぶコーネリアスの藤田千秋(Vo,Sax)を迎えたバンドのジャポニカソングサンバンチ結成。現在も行う新宿ロフトのバースペースでの2時間千円飲み放題の余興「ロフト飲み会」と、バンド同士の勝敗付きのトーナメント形式のライブ「ステゴロ」の開催も交えながら完成させた。こんなにも洒落た演奏なのに歌える高速パンクは実に奇跡的だ。
 音しかなくてもメンバーたちが楽しく演奏する姿が目に浮かぶ今作。J・ガイルズ・バンドの演奏が気付いたらハードコア・パンクになっていて、ハイ・スピードなソウル・レビューになってしまっていたみたいな構成である。スガナミ、きむらかずみ(Ba)、しいねはるか(Key)が創った楽曲はインストゥルメンタル6曲と歌が4曲。速くタイトでスウィング&ロールしまくるリズムに、暖かくテクニカルなキーボードとギターは様々なジャンルを呑み込む。「More Japanisch」ではオリエンタル。「theme#4」では民謡からのヒゲダンスといった具合だ。しかし「MONKEY SHOW」では黄色人種・日本人として踊る意志、「GOD SAVE THE DANCING QUEEN」では風営法とシリアスなテーマな歌詞の曲も。それすらも高速で明るく洗練された形で見せてしまうのが凄い。それは洋楽に近づくのではなく、日本人としてのアイデンティティを持ったうえでのミクスチャー感覚の音楽とパーティーを敷居低く伝えたいからといえる。
 2014年はロフトでの定期的な完全無料ライブ開催や、ジャポニカのアルバムリリース、下北沢THREEで行った数々の面白い試みなど、スガナミにとって大きく痛快な1年となった。1月8日にリリースされたこの作品は、果報を練って待った彼の中に存在するパンク性のスピード力の勝利を印象づけた14年最初の一撃だった。(小泉 創哉)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150427

【レビュー】stillichimiya 『死んだらどうなる』

あの世この世に挑む笑撃的ヒップホップ


stillichimiya
死んだらどうなる
Mary Joy Recordings, 2014年
 懐かしのフレーズや時事・地元ネタをパロディと風刺で包んだ言葉遊びの楽しさが伝わるリリック。ニヤニヤが無限に襲いかかってくる。それと同時にどす黒い真理も。それを山梨県の今はなき一宮町出身の男たち5人が自由なサウンド・メイキングにのせて達者にラップしまくる。その5人とはソロで大活躍の田我流を含む結成10周年のstillichimiyaだ!
 「うぇるかむ」は三木道三がどうしても頭によぎる地元激励レゲエだと思ったら衝突音で曲が終わり、丹波哲郎の死生観を語る声が流れこのアルバムが一筋縄ではいかぬ作品であることを宣言する。そして次の楽曲である「Hell Train」に私たちは乗車して戻ることはできない。<何なら神様に送るワイロ 可愛いコンパニオン雇うガイド 天国にはマットヘルスとかないの? じゃこのまま地獄でどんちゃん騒ぎ><キング・クリムゾン聞くジャック・ニコルソン キム・ウィルソンと飲むウィルキンソンで>などのリリックでカオスと真理が伝わる地獄の描写を描く。
 零心会以上の大きな衝撃を持って虚実混じった自己紹介を5人マイクリレーする「ズンドコ節」。意味不明だけどもとりあえず生!!な感じは伝わる「生でどう?」。95年に山梨県のローカルCMで使われたことにより県内で大ヒットを飛ばした「だっちもねえこんいっちょし」をラップした原田喜照と、MC HAMMERの「You Can’t Touch This」をネタにして共演した「だっちもねえ」。過去のヒット曲のタイトルとスケベ心でノリまくる「竹の子」。〈土偶〉というキーワードから地元への思いを伝える「土偶サンバ」。などその他にも衝撃的な楽曲とスキットが聴いているあなたにクエスチョン・マークを浮かばせ、大きな感動を与えさせる。
 映画への出演や単独での音楽活動でメンバーの中でも目立った活躍を見せる田我流と、その相方でありサウンドを手掛けると共にラップもするDJのYoung-G。12年に出したソロの傑作『B級映画のように 2』では震災後のシリアスな現実世界を描写していたが、今回がっつり制作に参加したBig BenやMMM、Mr.麿によるクルーでの作品はパロディと自由な世界観で強力なユーモアに包まれる。元来クルーはこのような作風であるが、より外にも開いた高いクオリティの作品になった。さて、このアルバムを聴いてあなたは死んだらどうする?!(小泉 創哉)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150424

YIM寄稿者によるメタル座談会:その1

 asatte+をメタルがジャックします。
2014年に1stアルバムが発表されたBABYMETALは世界的な人気を獲得するに至り、昨年に引き続き今年もワールドツアーの開催も決定しているなど、日本国内のマスメディアにおいても「メタル」の言葉が登場するようになりました。
 そうした一方で、メタルというジャンルには依然、独特かつ敷居が高そうで、なかなか手が出せないイメージもあるように思います。
 そこで、今年1月に発刊された『YEAR IN MUSIC 2014』の執筆陣で常日頃メタルを聞いている3名のライター陣、堀中さん、板垣さん、佐久間さん、に、メタル素人の小林が進行役となり話を伺いました。メタルが持つ様々な要素を解きほぐしていくと、そこに雑多で多くのジャンルと隣接する姿が見えてきました。新たな観点が加わり、立体的にメタルを聴くきっかけになることができれば非常にうれしく思います。

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——そもそもなのですが、「メタル」というジャンル名称はいつくらいから使われるようになったんでしょうか。

堀中:「メタル」や「ヘヴィメタル」という言葉の語源については諸説あるんですけど、よく言われているのが、70年代の中盤くらいにアメリカのブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)の音楽を表現するのに”heavy metal”という言葉が使われたのが最初という説ですね。あと、”heavy metal”という言葉自体が最初に登場したのは、ステッペンウルフ(Steppenwolf)の有名な「ボーン・トゥ・ビー・ワイルド(Born To Be Wild)」の歌詞のようですけど、これはメタルの音楽性を表現したものではないですね。UKの雑誌(Sounds誌)の記者によって、アイアン・メイデン(Iron Maiden)サクソン(Saxon)といったバンドが70年代後半に出てきたムーヴメントをNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリテッシュ・ヘヴィ・メタル)と名付けたことが直接的なルーツですね。

——これからメタルについて色々話をしていくにあたって、セレクトに特徴があるということで事前にRolling Stoneの2014年のメタル部門のランキングを堀中さんに教えてもらいました。

<Rolling Stone 20 Best Metal Album of 2014>
1. Yob『Clearing the Path to Ascend』
2. Triptykon 『Melana Chasmata』
3. At the Gates 『At War with Reality』
4. Old Man Gloom 『The Ape of God』
5. Scott Walker + SunnO))) 『Soused』
(以下はリンクを参照ください)

佐久間:オルタナ色が強いし、かなりリベラルなセレクトですよね。

堀中:実はこのランキングの中で、日本のヘヴィメタル専門雑誌であるBURRN!などで取り上げられているのはアット・ザ・ゲイツ(At The Gates)、とか20枚のうち5枚くらいで。日本国内よりも海外の方がメタルというジャンルについては圧倒的に範囲が広くて雑多なんです。日本ではメタルとはあんまり言われてないけど、海外だとメタルチャートにはこういうものも入ってるよ、という。

——今日はこうしたことも踏まえて、広い観点からメタルについて話をしてもらえればと思います。まずは自己紹介も兼ねて、いつぐらいからメタルを聴くようになったのかを教えて下さい。

堀中:中学生だった2000年くらいにボン・ジョヴィ(Bon Jovi)とかモトリー・クルー(Mötley Crüe)といったアメリカの派手なロックを聴くようになり、その後高校生くらいでスラッシュ・メタル、メガデス(Megadeth)メタリカ(Metallica)を聴くようになっていくという感じです。メタルの中でいうといわゆるメロディック・デス・メタル(メロデス)のバンドが出てきてそれにすごくハマったんですね。イン・フレイムス(In Flames)とかアーチ・エネミー(Arch Enemy)とかです。その後は、他の音楽も聴くようになったので来日公演にはたまに行きつつといった感じです。

板垣X JAPANが高校生の頃、流行っていて何となく聴いていました。音楽にハマったのはもう少し後、渋谷系なのですが、途中でガンズ・アンド・ローゼズ(Guns 'N' Roses)をよく聴くようになって。そこから、ボン・ジョヴィとかミスター・ビッグ(Mr.Big)とかエアロスミス(Aerosmith)とかを聴き出して、なぜかメタルも聴くようになりました。
デス・メタルのようなスクリームしているのは元々はだめでした。大丈夫になったのは2006年くらいにアレクシスオンファイアー(Alexisonfire)を聴いてからです。元々エモ系も好きだったのですが、メロディアスで聴きやすかったのもあって。そのあとはデス・メタルも含めてメタルは継続して聴いていて、最近はBABYMETALにもハマってます。

佐久間:2000年代はじめの学生の頃、L'Arc〜en〜Cielとかが入り口なのですが、もっと激しくてヘヴィな音楽がないかと探している中で、コーン(KoRn)を知ったんです。特に1stアルバム『コーン(KoRn)』には、こんなヘヴィな音楽があるのかと衝撃を受けて。これ以上ヘヴィなものはないんじゃないかと思いながら、もっと変わったものがないかと、デフトーンズ(Deftones)を聴いたんです。2000年に出た『ホワイト・ポニー(White Pony)』は最初はよくわからなかったんですけど、聴いていくうちにこれはすごいレコードだと思って。その後は、実験的な方を掘り下げるようになり、トゥール(Tool)とかアイシス(Isis)とか変わったヘヴィ・ロックにいって、今はノイズとかを聴いているという。ハードコアとかは聴いてますが、デス・メタルとかスラッシュ・メタルとか、そういうトラディショナルなメタルはどうしても馴染まないところがあります。


——ここからは2010年以後くらいの期間で印象に残ったメタル関連の作品を各自選んできてもらいましたので、それを元に話を聞かせてください。まず一番いわゆるメタル的なセレクトだった堀中さんからお願いします。

■ マストドン(Mastodon)「High Road」

堀中:このマストドン(Mastodon)の『ワンス・モア・ラウンド・ザ・サン(Once More 'Round The Sun)』というアルバムは、悪い意味ではなく歌もので、アメリカでもチャート・アクションが良くて普通にラジオとかでも掛かっていました。一方で、ギターとかベースの重さだったり、リフの感じにはメタルらしいものがあって、今のシーンで見た時には最もメタルらしいバンドかなと思っています。

——このバンドは2000年アメリカのアトランタ結成ですね。

佐久間:ギターのビル・ケリハーとドラムのブラン・デイラーがトゥデイ・イズ・ザ・デイ(Today is the Day)というヘヴィロック・バンドの出身なんです。残りのメンバーもノイズとか地下音楽系のことをやっていたりして。

堀中:メンバーの年齢がだいたい40歳くらいのバンドです。

——あと、この音源はワーナーからリリースと。

佐久間:ワーナーと契約したのは2005年か2006年くらいで。契約前に、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』をモチーフにしたコンセプトアルバムを出していて、それがかなり注目されました。

堀中:2ndアルバム『レヴァイアサン(Leviathan)』ですね。あと、04年頃にはスレイヤー(Slayer)のツアー(The Unholy Alliance Tour)に参加しているんです。そういう大規模なツアーの前座に起用されて注目を集めたバンドですね。

——リードギターのメロディーがポップな感じの印象があって、聴きやすい印象でした。

佐久間:このジャケットを見た時にビックリしましたよ。80年代のダサいメタルの感じとかがあって、聴くまで不安でした。

Mastodon
Mastodon『Once More 'Round The Sun』

——実際、昔のメタルの影響はどの程度あるように感じますか。

堀中:70年代の音楽の影響は常にあるんじゃないかと。世代的にはリアルタイムではないにしても、割とそういうところに憧れはある感じかなと思います。

佐久間シン・リジィ(Thin Lizzy)とか大好きですからね。

板垣:そういう感じは音に出てますね。

堀中:暗黒的な要素というのは元々あったんですけど、今はかなり薄まっているように思います。歌詞とかには一部あったりするのかなという感じはしますけど。

佐久間:このバンドの特徴ってメンバー全員コーラスをやるんですよね。曲によってリード・ボーカルが変わったりして。そういうふうになったのはメジャーに行ってからですが。

——なるほど。まずはメジャーなバンドということでマストドンと。

佐久間:それもあるし、アンダーグラウンドからも未だに支持されています。

——それはメジャー移籍後の楽曲も含めてですか。どういうところがポイントなんでしょう。

佐久間:たぶんマストドンはスラッジ・メタルとか、ドゥーム・メタルみたいな要素があって、そういう音楽が好きな人たちが好むような音楽をやっているというところがあると思います。

板垣:今の曲には重いギターリフみたいなスラッジ的な要素はないですね。

佐久間:アルバム全体で見ると、そういうテイストのものもありますね。

——ポップで聴きやすい一方で、マニアックなところもあると。

堀中:今でもハードコアとかデス・メタルの界隈のバンドともやれるというのはあるかなと思います。


■ オーペス(Opeth)「Eternal Rains Will Come」

堀中:こういうのがメタルなのかというのはありますけど。オーペス(Opeth)の中心人物のミカエル・オーカーフェルト(Mikael Åkerfeldt)という人も、マストドンのメンバーと同い年くらいです。ミカエルが1974年生まれで、マストドンのトロイ・サンダース(Troy Sanders)は1973年生まれ。

佐久間:ミカエルはもうちょっと年齢が上かと思っていました。

堀中:マストドンはアメリカのバンドで、一方このオーペスは北欧・スウェーデンのバンドです。オーペスは結成が90年で、元々はデス・メタルをベースにした音楽をやっていました。ミカエルという人は70年代のプログレッシブ・ロックとデス・メタルをあわせたものをやろうとしていて、『ブラックウォーター・パーク(Blackwater Park)』あたりが分岐点なんですけど、この後に2枚で対となるアルバム、『デリヴァランス(Deliverance)』と『ダムネイション(Damnation)』を出していて、デス・メタル寄りな作品とプログレ寄りの作品をリリースしてあと、デス・メタルの要素がどんどん無くなっていきます。

——取り上げてもらった曲は、長めの尺の中で各パートが入れ替わりながら展開して、バンド・アンサンブルをしっかり聞かせる壮大な曲ですよね。全体としてサウンドが非常に洗練されています。デス・メタル的な要素は減っているとのことですが、以前のサウンドの特徴を挙げるとすればどんなものになるでしょうか。

堀中:活動初期(90年代後半)のころは、デス・メタルに典型的とも言える歪んだギターや複雑で高速なドラムとグロウルを中心としたボーカルスタイルを持った音楽性でしたね。とはいえ現在のスタイルに繋がるような幽玄でプログレッシヴな展開の曲もありました。

——最近はどんどんプログレ化していると。

堀中:今回挙げたようなプログレッシブなものが中心になってきていますが、ライブではまだデス・メタル的な楽曲もやっています。メタル・フェスにも出ていますよ。プログレ系の雑誌だと年間のベストアルバムとかに選ばれてもいました。

佐久間:2年くらい前にライブを見た時は、新譜の曲はそこまでではないけど、昔の曲をやると盛り上がるという感じで、温度差はあったと思います。日本だとプログレとデス・メタルのファンは層が違っている雰囲気もあって、ここ数年で評価が割れていますよね。

——プログレに接近したことで新しいファンがついているような印象がありますか。

堀中:どうなんですかね?少なくとも、オーペスとかを日本の若い人が聴いている感じはあまりしないんですけど。

佐久間:前回の来日単独公演は若い女の子もいましたよ。ライブもかなりゴシックな、退廃的なムードがあって。

堀中:オーペスでは2001年に出たアルバム『ブラックウォーター・パーク』を最高傑作だという人も多いです。このジャケットから分かる幽玄な感じとかが彼らの雰囲気としてありますね。

Opeth
Opeth『Blackwater Park』

板垣:今回取り上げたニュー・アルバム『ペイル・コミュニオン(Pale Communion)』も売り上げはかなり良かったですよね。タワレコのチャートでもいい順位で結構注目されているんだなと。

——あとスウェーデンというのは、北欧のメタル・シーンではどういった位置づけになるんでしょうか。

堀中:実際スウェーデンが中心だと思います。あとはフィンランドやノルウェーですかね。

佐久間:北欧は今でも根強いメタル人気がありますね。

——北欧のバンドと言ってひとくくりに出来ないくらい音楽性としてはいろいろあると。

板垣:暗黒神とかって呼ばれてたのはこのバンドですよね。

堀中:そうですね、「北欧の暗黒神」ってレコード会社の誰かが名付けてました。

その2へ続く)

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 本稿よりスタートしたメタル座談会。その1と次回その2は「メタル」内のいくつかのサブ・ジャンルについて近年の音源を紹介していきます。今回登場したハード・ロックやプログレといった要素以外にどういった音楽と接点があるのか、注目して頂ければと思います。

20150405

YIM2014著者による年間ベストディスク(佐久間義貴編)

今年1月にBCCKSよりリリースされた『YEAR IN MUSIC 2014』についてはBCCKS人気ランキング1位を達成するなど、多くの方にご覧いただき本当にありがとうございます。
この『YIM2014』に連動したブログ企画として、各著者による年間ベストディスクのショートレビューをお送りします。ぜひそれぞれの著者にも注目し、引き続き『YIM2014』楽しんで頂ければと思います。
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著者:佐久間 義貴

掲載原稿

Year in Music 2014
  • BORIS『Noise』
  • 
Swans『To be kind』
音楽書評
  • 佐々木敦『Ex-music
再発レビュー
  • Icuts『Discography』

年間ベストディスク2014

ハチスノイト『Universal Quiet』


 夢中夢のハチスノイトによるソロ・デビューアルバム。本作は声のみで構築された崇高な世界観のヴォイス・シンフォニーである。天啓から大地に降り注ぐようなサウンドには思わず眩暈を覚える。その世界観はビョークというより、声のみで構築されたアルヴォ・ペルトというのが、最も近いのではないか。また本作はそのような陶酔するとところに留まらず、声の編集によるミニマルなアプローチもユニークである。

古川麦『Far / Close』


 至高のシンガーソングライターによる至高のアルバム。エレガントなアレンジが楽曲の素晴らしさを最大限に引き上げている。極めて豊饒なエモーションに彩られたこの音楽詩集は、初のソロアルバムにも関わらず、既に老成されている。本作で古川麦という天賦の才能は日本の音楽史にその名を刻印した。そして今後も常に古川麦は音楽史のオルタナティヴな存在であり続けるだろう。私は本作を聴いてそれを確信している。

Scott walker & Sunn O)))『Soused』


 
スコット・ウォーカーとサン O)))の邂逅に偶発性は全くないと言っていい。何故ならばこの両者は出逢うべくして出会った――輪廻の中に互いに矛盾することなく存在していたからだ。それは言い変えるならば、アヴァンギャルド音楽史の中でと言ったところだろうか。それを象徴するように本作は正に正統派アヴァンギャルド・ロックが全編に亘り展開されているのである。しかし、この正統派のアヴァンギャルドはときたら、何たる凄絶か!

Mamiffer『Statu Nascendi』


 先日来日公演を行った、フェイス・コロッチャと夫である元アイシスのアーロン・ターナーによる音響ユニットの3rdアルバム。この二人の関係性はどこかアンヌ=マリー・ミエヴィルとジャン=リュック・ゴダールを思い起させる。互いの創作にインスピレーションとして干渉し生まれる相互作用の結果がこの作品に結実となって表れているのだ。フェイスのピアノの主旋律とアーロンの残響ノイズが深奥な響きを奏でていて美しい。

Keiichi Sugimoto 『Play Music』


 音楽の記憶の断片――杉本圭一による『Play Music』の主題とは、正にここにある。数多の劇伴を手掛けてきた中から厳選された楽曲群は、驚異的な音楽的レンジを誇っている。且つ散漫な印象は全く受けない。むしろ、次々と現れるあらゆる趣向の音楽が巡り、イメージ(場面の転換)を想起させる。これは一本の明瞭なストーリー性を備えた音劇である。

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佐久間 義貴