20150814

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その4

色々と今年のフジロックについてレポートする記事がネット上に続々あがってきましたね。
テキストではどのようなレポートが出てくるでしょうか?
今年は確かに転換期かもしれません。
とにかくリスナー、ミュージシャン、フェスの三位一体によるポジティブな動きが望まれます。
そんなリスナー目線の動きをつたえるこの企画も今回で最終回。
ちょっと読んでみて深ーく考えてみませんか。
んじゃ今度は私サマソニ行ってきますよ!


RIDE


Day3:GREEN STAGE
ライター:中畑 琴絵

「再結成を待望んだファンのための演奏」

死ぬ前に見たいバンドのひとつ、それがライド。奇跡の再結成を果たしたシューゲイザーを代表するバンドだ。アンディ・ベルとマーク・ガードナーの不仲説やビーディ・アイの解散後、その動向は多くの音楽ファンをヤキモキさせた。2015年、待ちに待った再結成。その公演が日本で行われるとは、何とも言いがたい喜びと不安感が胸の中に混ざりあっていた。そんな不安感など一蹴したステージで、苗場にいた人々は彼等が隆盛を極めた90年代前後にトリップした。
私は彼等が活躍していた時代は物心がついたかついてないかの幼少期だった。リアルタイムで聞いていた世代ではない。音源を聞いて思いを募らせていただけに、「Leave Them All Behind」や「Seagull」のイントロだけで、ヒートアップ。もちろんビールが進んだ。
フジロックで見せたマークの満たされたような笑顔が全てを物語っていた。バンドの不仲説をはじめとしたいくつもの困難を乗り越えたのだと思う。色褪せることのない演奏を望んでいたファンにとって期待以上のステージだった。ファンのために再結成したと思わせざるを得ない。彼等のまっすぐな気持ちが胸を打つ。新曲を作ることは未定とのことだが、次回作に期待が高まる一夜だった。
(文:中畑 琴絵)



ORANGE COURT


Day2:Ex.ORANGE COURT
ライター:shoshoshosho

 

2日目になっていよいよ、オレンジ・コートの不在が大きく立ちあらわれている。僕にとって11回目のフジロック。例年、フィールド・オブ・ヘヴンとオレンジを幕あいごとに行き来し、ファンク、ブルーズ、あるいは(いわゆる)マイノリティ・ミュージックに囲まれながら3日間の大部分をすごしてきた。いとしのオレンジはいつだって、「ここでなければ出会えなかった」音楽にあふれて、自由でゆたかな時間を僕に与えてくれた。
ロック・フェスティバルが生きものなのだとしたら、19年目のフジロックはとっくに老年期を迎えているのかもしれない。いつまでも拡大と成長をつづけることはできないし、健康状態に合わせて今回のような「手術」だって必要だろう。もちろん、年をとること老いることは生きものの特権でありうつくしさだ。
オレンジの跡地でキャンプ・ファイヤーをした。たきぎは老朽化したボード・ウォーク。かつて歩いた木々に火をともす作業はどこか感慨ぶかく、参加者たちは思い思いにやぐらを吹き扇いだ。ようやく着火した空にはみごとな夕焼け、天も地もぼくらの顔もオレンジに染まり、気の利いた告別式のようだった。みんなでかこむ炎が2日目のベスト。オレンジ・コートよ、今までありがとうございました。

(文:shoshoshosho)

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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介致しました。次回の更新もお楽しみに!

20150810

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その3

リスナーの皆さん熱中症に気をつけて!!
アーティストの皆さんも稼ぎ時ではしゃぎ時だけど、身体に気をつけてステージの上で名演を!!
いくつかのフェスでのラインナップの変更のお知らせをみて思ってしまった次第です。
レポート第三弾暑い場所涼しい場所選ばず読んでください。


FKA twigs


Day3:WHITE STAGE
ライター:梶原綾乃

フジロック最終日、我々よりもアーティストが踊った夜

 なんといってもFKAtwigsが最高。彼女を観るために苗場に行ってよかった。
 私は彼女に対し、ダンサーを率いて、きらびやかな衣装を身に纏い歌う…そんな海外セレブ・アーティストのようなイメージを抱いていた。しかし彼女は、ダンスも華やかさもすべて自身で持ち合わせている、とてつもないパフォーマーだった。歌手というよりも、コンテンポラリー・ダンサーだろうか。
 そのダンスは、Siaのプロモーション・ビデオで有名なマディ・ジーグラーを彷彿とさせる。手先の細かい動きが多いマディに対し、FKAは全身でダイナミックな表現だ。一見別物なのだが、体の内側が溢れだす感情を見事に演じきっているという点では、同じエネルギーを感じた。彼女の口からは、上質な絹の糸のように、すらっと細い声が。特に「Two Weeks」のリズミカルかつ艶やかな発声は美しく、魅了されるという過程を通り越して、思考がストップしてしまったくらいだ。
 今年のフジはRäfvenやTXARANGO、Drakskipなど、思考を止めて、バカ騒ぎできるアーティストが多かった。しかし、めちゃくちゃ踊っているこのアーティストもまた、我々の思考を止めて、心の中を騒がせた。
(文:梶原綾乃)



FKA twigs


Day3:WHITE STAGE
ライター:モリティ

ホワイトに降り立った巫女

 正直、FKA TwigsをMVから入ってしまった私は、その身体を使ったセクシュアルすぎる表現が苦手であった。一応3日目ホワイトのヘッドライナーだし見ておこう、くらいの気持ちだった。しかし、彼女のパフォーマンスは私のフジロックのベストアクトになるくらい初見の印象を凌駕するものになった。
 夜の霧が立ち込めるステージの中、FKA Twigsの存在はMVで見るよりもはるかに小さくて、でもとてもしなやかな女性だと思った。ビートのようでビートでないようなトラックに、電子パッドのドラムから打ち放たれる音が曲の局所に響く。それに合わせて彼女のダンスはときにメリハリを持ったり、ぐにゃりと身体を波のように揺らがせたりしながら舞台を行き来する。その姿はとても小さいが、全体に響く曲と曲に不規則に乗りながらも神秘的に聴こえる歌声が、彼女の姿を何倍にも大きくさせる。この生身の姿あってこそ、彼女を語る上で取り上げられがちなビジュアルやMVの要素が更に彼女の存在感を何倍にも高めているのか。
 最後に少しだけMCで喋ってはじめて歌以外で放たれる声を聞いた。恐ろしくキュートな女性であった。こんなギャップ見せられたら、好きになってしまう他ないでしょう。
(文:モリティ)

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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介していく予定です。その4をお楽しみに!

20150807

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その2

夏フェスシーズンもいよいよ盛り上がりまくりの最高潮。
ROCK IN JAPANは2週目、RISING SUNやサマソニもそろそろですね。
皆さん、夏の思い出とBGMはまだまだつくれそうですか?
そんなことを思いながらレポート第2弾です。


Räfven


Day3:Gypsy Avalon
ライター:板垣有

音楽ってこれほどまでに楽しい!

 苗場は3日目。酷暑をやり過ごして夜へと向かう19:00ごろのアヴァロンは、ごった返していた。09年には入場規制がかかったほどの人気者・レーヴェンのお出ましだ。本人たち曰く「東欧音楽+スウェーデンのフォーク+パンクの精神」という音楽性。個人的印象としては北欧のケルト音楽、アイリッシュ・パンクの要素、最も大きいのは中欧~東欧で生まれたポルカの要素。フロッギング・モリーやゴーゴル・ボルデロ周辺がお好きな方は、必ずや気に入るはず。ブルガリアン・タンブラという弦楽器を使っており、哀愁のフォーク色を加えている。
 ノリノリで踊れる曲のオンパレードに、筆者も思わず反応。会場の圧倒的な一体感!誰もが音を楽しみ、どの顔も嬉々としている。「true loveのことを歌うよ」と、ヴァイオリニストが前置きした曲はワルツのようなバラード。ストリートで演奏してファンを増やしていったレーヴェンだが、独では演奏NGと言われたこともあったとか。バンドからは「10月にまた来るよ!」とのサプライズも。「面白くなかったら返金するから、CD買いなさい」。もちろん、購入。完売。だが正直、このバンドは音源よりはライヴがオススメ!
(文:板垣有)


Hudson Mohawke


Day3:WHITE STAGE
ライター:森勇樹

若き会心の一撃、苗場の夜に炸裂

 未踏の地だった苗場へ参加できたことが何より嬉しかったというのがまず一番の感想です。音楽を教えて連れて行ってくれた先輩方、ありがとうございます。
 ceroがバンドとして鳴らすファンクで晴天に向けて手を挙げ、ウィルコ御大のマシンガンギターに撃ち抜かれ、FKAツイッグスの壮絶なステージングに茫然とし、と挙げればキリが無いのだが、筆者はハドソン・モホークをベストアクトに挙げたい。
 闇夜のホワイトステージに立ち込める白煙と要塞のようなセット。そこから発される重低音は全身に音圧を浴びせ、ステージからの音塊はオーディエンスを掌握していた。恥ずかしながら筆者は初見であったが、空間を埋め尽くす重低音に腰かけていた椅子から思わず立ち上がり、腕を振り上げ心身共に躍る興奮を覚えた。
 そしてこの破裂せんばかりのビートトラックの全て人力だったということは特筆しておきたい。音源では打ち込み主体と思われるエレクトロな楽曲群がその場で生成されて発射されることによる興奮はきっとホワイトステージの魔法でもあったと思う。
 そして全てを見終えグリーンステージへ向かう途中でのドンルク大合唱。「あーフジロックだなー」と。また来れる日が楽しみです。
(文:森勇樹)
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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介していく予定です。その3をお楽しみに!

20150805

FUJI ROCK 2015 新旧講座生レポート:その1

2年ぶりにこの企画(前回はこちら)が帰ってきました。

開催前後に何やかんや言われながらも、名場面が今年も続出したフジロックフェスティバル。
来年20回目の開催も無事最終日のゲートから確認することが出来ました。

フェスのアミューズメントパーク化やリア充化進んでるなーとか、経済がどうこうとか、完全に音楽の好みが分断化されているとか、ラインナップがパッとしないだとかいろいろと言われていますが、3日間自然の中で飲み食いしながら音楽にあふれる誰にも邪魔されることのない聖域は今年も健在です。

その感動を共有したい!
行ったことのない人に伝えたい!!
名演繰り広げたアーティスト教えたい!!!

ということで新旧岡村詩野音楽ライター講座生によるフジロックレポート2015です。


Kitty Daisy & Lewis


Day1:THE PALACE OF WONDER
ライター:四年生K

長い時を経て。さあ、ここから。

 生まれてこのかた60年のロックンロール(R&R)。ロックとはニアイコールな元となった原点としての音楽だけれども、賛辞する表現として音楽ジャンルに留まらない言葉になった。そして思えばフジロックも19年。色々言われたけど今年も出来たし、来年の20年目の開催も決まった。僕は苗場の祭りに今日、初めて行く。
 最狂ベーシストレミーが何十年にもわたって危機を乗り越え、ヘヴィ・メタリックにもハードコアにもサウンドの展開をしながらやってきたモーターヘッドの音楽は紛れもなくR&Rだった。エンターテイメント性溢れるステージングながらも山中には轟音が響き、老若男女が熱狂した。圧倒的であった。
 昼もヘブンで空にどこまでも音が抜ける中、家族によるレトロな音世界を見せたキティー・デイジー&ルイス。ピタコスなジャンプスーツを着たキティー・デイジー姉妹。スーツで決めた味のあるルイス。そして絶妙にサポートする両親とゲストのタンタン。深夜多くの人が密集したテントの中でメンバー目の前で見るライヴは異空間のよう。
 R&Rは音も時代も国境もトライブも超越する。そんな事を確認できた日の夜だった。そして、それは日本人にも出来る人がもっと出てくるはずだ!!
(文:四年生K)


Super Furry Animals


Day2:WHITE STAGE
ライター:堀中敦志

おかえり!毛むくじゃらの5人組

 日も傾いてぐっと風に爽快感が増したころ、6年ぶりに活動を再開したスーパー・ファーリー・アニマルズ(以下、SFA)がフジロックのステージへと帰ってきた。白い防護服で登場したメンバーが1曲目の「Slow Life」を演奏する中、ボーカルのグリフは戦隊ものの赤いヘルメットをかぶり、<拍手>や<もっと>と書かれたパネルを掲げてみせる。そんなおなじみのジョーク混じりのパフォーマンスに、観客も一気に盛りあがりを見せる。浮遊感のあるメロディーと多彩なコーラスワークで会場の温度を高めていく巧さに、このバンドの帰還を確信した観客も多いだろう。
 最後の曲の演奏中にキーボードのキアンを残してメンバーが退場した後、それぞれ毛むくじゃらの着ぐるみに金髪のウィッグでステージに戻り、白熱のジャムを見せつける。そうかと思えば、去り際には<ありがとう> <おわり>と書かれたパネルを掲げてまた観客を笑わせる。そんなシュールさも実にSFAらしい。
 彼らのライブには、みんなで一緒に飛び跳ねたり大合唱したりするところはないけれど、フジロックの自由な空気としっかりシンクロした素晴らしいパフォーマンスだった。
(文:堀中敦志)

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 全4回に渡って各ライターのベストアクトやフジロックにまつわる記事を紹介していく予定です。その2をお楽しみに!

20150615

【レビュー】FKA twigs 『LP1』

アート性と大衆性を融合した新しい才能の登場

FKA twigs
LP1
XL Recordings, 2014年
 穏やかで、しかしながら燃えるような情熱を感じるアルバムだと思う。ここ数年静かな盛り上がりを見せているインディR&Bシーンにおいて、これほど待ち望まれたデビュー・アルバムもそうはないであろう。FKAツイッグスは、10代のころからUK・ロンドンでキャリアを積み上げているダンサーだったが、2012年に最初の音源をBandcampにて発表したことを契機にシンガー・ソングライターとしても注目を集めた。彼女が2013年に発表したEPに続いて発表したフル・アルバムが、本作『LP1』にあたる。このアルバムは、高いアート性と同時に強靭なポピュラリティーをも備えた2014年を象徴する作品である。
 この作品にプロデューサーとしてクレジットされているのは、ビョークの次回作を手掛けるアルカや、ブラッド・オレンジ名義で知られるデヴ・ハインズなど、現代のエレクトロ、R&Bシーンをリードするトップランナーばかり。そんなシーンを代表する才能を曲ごとに起用しつつも、それぞれの曲で散漫な印象は皆無だ。むしろ作品を貫く繊細な感覚が印象的で、ミニマルで宇宙的なトラックの上を泳ぐ彼女の声は、自由に私的な内容を打ち明ける。プロデューサーの起用に関しては、自身の得意でない部分を埋める存在としての起用であると彼女自身は語っており、自らや作品をコントロールする存在としてではなく、作品制作における一要素として主体的に起用しているということであろう。そこには、シンガーでありダンサーである表現者としての「身体性」の彼女と、作品の世界観を形成する「精神性」の彼女がそれぞれ別に、しかし互いに関係しあいながら存在していることを強く感じる。
 FKAツイッグスというアーティストは、最初の音源をインターネット上にアップしてシーンに登場した、いわゆる”インターネット出身”のアーティストで、この作品に収録されている「Video Girl」や「Two Weeks」をはじめとした奇抜で印象的なMVの存在からも、そのビジュアルイメージや音楽をインターネット経由で十分に知ることができる状況にある。しかし、それでもまだどこか掴みきれないような神秘性をたっぷりと残しているように思う。この感覚は、ライブという場において「身体性」の彼女を目の当たりにしたときにまた変化するのだろうか。音楽作品として高い完成度を示しながら、それを上回る強い引力を秘めた稀な作品である。(堀中 敦志

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150613

【レビュー】THE NOVEMBERS 『Rhapsody in beauty』

徹底して美しいギター・ノイズ・アルバム

THE NOVEMBERS
Rhapsody in beauty
MERZ, 2014年
 "ノイズ"とは、人間が定義した規則から外れたもの。不要なもの。過剰なもの。あるいは居心地の悪いもの。そう考えると、我々の日常はノイズの中に存在しているように思える。そのノイズは果たして醜いものだろうか。「美しさ」と「醜さ」、「調和」と「不協和」がそれぞれ表裏一体だとして、必ずしも「美しさ」と「調和」が同じ対象に宿ることはなく、ノイズの中にだって美しいものは存在するに違いない。そんなことを、本作の幕開けとなるノイズ・オーケストラ「救世なき巣」を聴きながら考える。THE NOVEMBERSが前作『zeitgeist』に引き続き自主レーベル"MERZ"からリリースした『Rhapsody in beauty』は、ノイズで美しさを表現した作品だ。
 作品を支配する耳をつんざくギター・ノイズ、それはさながら猛獣のようだと思う。容易に手懐けることはできない暴力的な猛獣を、完全にコントロールする戦い。思えば、ジミ・ヘンドリックスやケヴィン・シールズは卓越した猛獣使いだろう。そんな猛獣にTHE NOVEMBERSは戦いを挑んでいる。彼らが尊敬の眼差しを向けてきたBorisやdownyもそうして来たように。コントロールを誤れば、音楽はたちまちノイズに飲み込まれてしまう。しかし、本作には重厚なノイズにも埋もれない存在感を主張するメロディーがある。地を這うように疾走するロック・ソング「Blood Music.1985」や、ムーディーな「Romancé」は、ノイズを楽曲の一要素としながら、豊かな力強さを持った歌だ。この作品におけるノイズとは、ジョン・ケージの「4分33秒」で日常の雑音が音楽として扱われるように、日常そのもののモチーフなのだ。
 アルバムは<どこの誰がなんと言おうと 僕らはただひとつの幸福だったんだよ>というフレーズで締めくくられる。幸福、それは例を挙げるなら、この作品のリリース前にバンドの中心人物である小林祐介が娘を授かったように、身近で手触りのあるものだろう。そんな日常の中にある美しさの表現が、ノイズとのコントラストによってより一層際立っている。この作品におけるノイズとは、不穏さや邪悪さをもたらすエフェクティヴなものとしてではなく、あくまでモチーフとしてのもの。だから、このロック・アルバムには強烈な存在感がある。2014年の音楽シーンにおいても、全く埋没する余地もないほどに。(堀中 敦志

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150611

【レビュー】矢野顕子 『飛ばしていくよ』

不可思議な音の旅路へ、いらっしゃいませ。

矢野顕子
飛ばしていくよ
ビクター, 2014年
 矢野顕子がラジオに生出演し、生演奏を披露したことがあった。曲目は「いい日旅立ち」。遅ればせながら、これが筆者と矢野顕子との出会いとなった。独創的で、息をのむ…のみ続けてしまうかのような、"ものすごい"展開に、感動しすぎて頭がぼうっとしてしまった。この演奏の音源は残っていないようなのが残念だ。YouTubeの音源であれば、「ちいさい秋みつけた」で彼女のクリエイティヴィティが確認できるだろう。
 矢野顕子の音世界は、普通の音楽家が考えうる世界を一歩超えている。彼女の"ものすごい"部分は、ジャズの理論のなかで誰もが考え付かない突拍子もない一音をひねり出すことだ。(いつメインのフレーズに戻るのだろう)と聴き手が気を揉むなか、彼女は飄々と歌ってみせる。彼女なりの「いい日旅立ち」「ちいさい秋みつけた」の“"解釈"を。その展開は聴き手を不可思議な世界へと誘う。誰もが予測不可能なその世界で、私たちは音に溺れたり浮かび上がったりしながら、向こう岸へたどり着くのだ。
 NYに住み、スタインウェイのグランド(ショート)ピアノと、猫と共に暮らす矢野顕子。郊外には「パンプキン」というスタジオがある。矢野の才能の周りには、これまでも自然と他の才能が集まってきた。新譜『飛ばしていくよ』でも、矢野は自身が"カッコいい"と思ったアーティストと組み、はつらつと楽しんでいる。シンセサイザーやコンピューターナイズされた音が多いのも特徴の一つ。それもそのはず。今回はボカロPのsasakure.UKと組んでもいるのだ。「ごはんとおかず」「Captured Moment」ともに、ボーカロイドの作者が手掛けたとは思えない、メロディのたった楽曲だ。更にはyanokamiで、当時リリースされなかった音源をアレンジして発表した曲も(「YES-YES-YES」)。BOOM BOOM SATELLITESとの共作曲「Never Give Up on You」。ロック色が強いが、ハッとするプログレッシヴな展開が特徴だ。ボーカロイドであれ、ロックであれ、テクノ(砂原良徳との共作)であれ、最終的には矢野顕子色に染められていく。ピアノと対等に渡りあう歌心とともに、音源では音が"自然に"流れるように入ってくることも、矢野の“ものすごさ”を表している。ライヴではアレンジを変えて歌うことが多い矢野。“ぶっとんだ経験”をしに、ライヴに足を運びたい。(板垣 有

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。