20150530

【レビュー】ROTH BART BARON 『ロットバルトバロンの氷河期』

光のように降りそそぐ美しい音のヴェール

ROTH BART BARON
ロットバルトバロンの氷河期
Felicity, 2014年
 今年もだいぶ冬めいてきた。子供の頃は、冬の訪れにとてもワクワクしていたし、雪が降らないかな、なんてうずうずしながら過ごしていた私も今や成人を過ぎ、大人になってしまったな。今やもうあの頃感じていたはずの豊かな気持ちなど薄れて、感受性が鈍くなっていくのを日々感じながら、私は去年の今頃に生まれたこの作品を手に取る。
 東京出身の2人組、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン、以下RBB)待望の初アルバムである『ロットバルトバロンの氷河期』。この作品を作るにあたり、彼らは念願であった海外でのレコーディングを行った。場所はアメリカのペンシルヴァニア州フィラデルフィアにある名門スタジオ、マイナー・ストリート・レコーディングス。またミックスはザ・ナショナルなどを手掛るジョナサン・ロウ、2曲のプロデュースと録音は、ザ・ウォー・オン・ドラッグスなどを手がけるブライアン・マクティアーが手掛けている。
 作品全体からは、冬の明け方から、早朝にかけての時間帯のような、ひやりとしていても、どこか温い日の光を感じる独特の空気感が漂っていて、不純物の無い、まっさらで澄み渡った世界が広がっている。そして、RBBを象徴する三船雅也(Vo./Gt.)の美しいファルセットが響く歌声と、時に優しく爪弾かれ、時に強い意志を持って刻まれるアコースティック・ギターの音を軸に、中原鉄也(Dr.)の大地を這うようなドラミングと、トランペットやトロンボーンをはじめ、バンジョーやピアノ、グロッケンなどの多数の楽器たちが、聴く者を壮大で美しいRBBの世界に誘う。また、なにも取り繕わない、感情をむき出しにしている歌詞は、まるで子供の頃のような、まっすぐで純粋な気持ちをぶつけてくる。作詞はすべて三船が担当しているが、彼の紡ぐ歌詞は、非現実のようでいてどこか現実味もある、不思議な感覚に陥る歌詞を書く。日常とお伽話の境界線を溶かしていくストーリー・テラー、三船はその目でどんな世界を見ているのだろうか。RBBの紡ぐ"物語"にどんどん惹かれていく。
 大人になっていくにつれ、日々を早々と過ぎる時間に急かされ、煩雑な人間関係に神経をすり減らす。偽りの自分を演じていくたびに、心はすり切れ、凍りつく。そんな凍りつく心に、RBBの音楽は染み込んでいく。まるで雲間から降りそそぐ薄明光線の光のような荘厳で美しいその音は、心の蟠りを溶かしていく。(コイズミリナ

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150528

【レビュー】Temples 『Sun Structures』

洗練されたハイブリッド・ミュージック

Temples
Sun Structures
Heavenly Recordings, 2014年
 イギリスのミッドランズ出身の4人組、テンプルズ。彼らを始めて目の当たりにしたのは昨年11月のHostess Club Weekenderでの初来日公演だった。2012年に結成したばかりのバンドとは思えない完成された音像、メンバーの優雅な佇まい、新人らしからぬ風格と雰囲気に惚れ込むのに時間など必要なかった。筆者にとって、"サイケデリック"といえば、強烈に歪んでいる音像、そして独特の浮遊感と、醸し出されるキラメキに酔ってしまう音であるが、まさにテンプルズの音に触れたあの瞬間は、初めて生で感じた"サイケデリック"という音の原体験であると言えた。
 バンドのフロントマンであるジェームス・バックショー(Vo./Gt.)の自室ですべて宅録したという『Sun Structures』。宅録ならではの自由度の高さを生かし、往年のピンク・フロイドやバーズから、最近のテーム・インパラに至るまで、新旧のサイケデリック・ミュージックや、プログレ、フォークなどあらゆる音楽性を飲み込んで昇華させている。あらゆる音楽性を巧みに調理したことで、まるで万華鏡を見ているようなキラメキと、霞がかった艶めきと妖しさのあるテンプルズ独自のサウンドに仕上がっている。
 『Sun Structures』は、1曲目の「Shelter song」からイントロの12弦ギターのリフより聴くものを幻想的なテンプルズの世界へ引き込ませていく。タイトル曲である2曲目「Sun Structures」以降も、色気のあるムード感たっぷりな「The Golden Throne」、曲から漂う哀愁感がいたたまれない感情を呼び起させる「Move With The Season」、1曲目とはまた異なる、甘美でうっとりとさせる12弦ギターの響きが印象的な「Colours To Life」など、テンプルズの楽曲は、1曲1曲の中毒性がかなり高く、聴く者を幻想世界にトリップさせてくれる。と同時に、どこかスマートさに感じる楽曲たちに陶酔せずにはいられなくさせる。
 彼らは今現在で既に4度目の再来日が決まっている。そして既に世界各地のフェスへ引っ張りだこであったし、スウェードやカサビアンなど大物バンドの前座を務めたりもしていて、ここ最近で数々の大きな場数を踏んできているテンプルズ。今後もさらに躍進していくだろう。彼らは間違いなく大きなバンドへなっていく逸材である。(コイズミリナ

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20150526

【レビュー】ゆるめるモ!×箱庭の室内楽 『箱めるモ!』

アイドルとロックバンドの最高なコラボレーション

ゆるめるモ!×箱庭の室内楽
箱めるモ!
T-Palette Records, 2014年
 アイドル戦国時代と言われている今、日本には数えきれないほどのアイドルが存在している。その中で輝きを増してきているのが、ゆるめるモ!というニューウェーブ・アイドル・グループである。ゆるめるモ!は2012年10月に結成。「窮屈な世の中を私たちがゆるめるもん!」をコンセプトに、サブカル界隈を中心に話題を集める。ニューウェーブ、パンク、ヒップホップ、エレクトロなど多彩なサウンドの楽曲は音楽好きの間でも話題になっている。
 そんな彼女たちはさまざまなアーティストとの共演やコラボレーションを積極的に行っている。今回の作品では、ジャンルレスなバンド・アンサンブルによる高スケールな楽曲を提供し続けているバンド、箱庭の室内楽とのコラボレーションを果たした。アイドルとロック・バンドという異色のように思える組み合わせだが、どちらも独創的で高い音楽性を持ちつつ、馴染みやすい楽曲をリスナーに提供してくれるという点においては共通していると思う。
 この作品は作曲、編曲をすべて箱庭の室内楽のハシダカズマ(Vo./Gt.)が担当していて、ヒップホップ、シューゲイザー、ポストロック、オルタナなど、あらゆるジャンルの音楽が詰め込まれており、ゆるめるモ!の魅力が最大限に引き出されている。一曲目「manual of 東京 girl 現代史」は、爽快に駆け抜けるような勢いのあるサウンドと、「みなさん、こんにちはー!」という元気なMCから始まり、リスナーのテンションを一気に上げてくれる。ラッパーのDOTAMAがリリックで参加した「木曜アティチュード」は、グロッケンなどのサウンドが組み込まれている軽やかなアンサンブルと、ゆるめるモ!のメンバーの個性が生み出した脱力系ラップが見事にマッチしている。「木曜アティチュード」以外の曲は、他作品の楽曲も含め小林愛が作詞している。これはどういう意味だ?と考えてしまう不思議な歌詞が、少女達の複雑でもやもやしているような気持ちを上手く表現している。
 アイドルらしい、リスナーをハッピーな気持ちにしてくれるゆるめるモ!のパフォーマンスと、箱庭の室内楽が奏でる疾走感と切なさを感じられるサウンドが融合し、青春の甘酸っぱさがぎゅっと詰め込まれている作品となっている。儚い少女時代を生きている彼女たちと、人の心を捉えて離さないような魅力のある箱庭の室内楽だからこそ生み出すことができた音楽であろう。(日高 玲央奈)

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20150524

【レビュー】Gotch 『Can't Be Forever Young』

この作品に込められているもの

Gotch
Can't Be Forever Young
only in dreams, 2014年
 初めてこの作品を聴いたときは、どちらかというと期待を裏切られたような気持ちのほうが大きかった。なぜなら、私の知っている後藤正文はアジカンのフロントマンであり、パワーコードに乗せて力強く歌っているイメージだったからである。
 この作品はアジカンではなかなか見られないGotchこと後藤正文のキャラクターが全面に出されていて、その要素がいろいろな方面から組み込まれているのである。まず、ヴォーカルの他にも、アコギ、ハーモニカ、パーカッション、シンセサイザー、プログラミングなどほとんどの音を自らが演奏している。アコギやパーカッションなどわざとアコースティック楽器を多用したり、あえてシンセサイザーを手で弾いたりして、彼のヒューマニティを存分に出している。サポート・メンバーには、日頃から交流のあるホリエアツシ、下村亮介、井上陽介、TORAが参加している。仲の良いミュージシャンが参加することで、より一層温かみのあるアットホーム感漂う作品になっている。
 一番彼のヒューマニティが表れている部分、それはやはり歌詞であろう。アジカンの曲にはないようなストレートな表現が印象的である。彼が「A Girl in Love / 恋する乙女」なんてどストレートにラブソングみたいなタイトルをつけていることにとても驚いた。この曲以外にも恋について歌っている曲もあるのだが、この作品は全体を通して、生きることや死ぬことについて歌っている。「Sequel to the Story / 話のつづき」の最後に<今日のことは忘れないだろう>という歌詞がある。この文面だけ見ると、「誰でも言いそうな言葉だよな~」と思ってしまうのだが、それを彼が歌うとなぜこんなにも心に沁みるのか。時間が経てば薄れてしまうこと、命には限りがあること。まるでそのことを彼に話しかけられているかのように、言葉が自然と染み込んでくるのだ。
 人同士の出会いもそうであるように、最初はあまりしっくりこない作品であった。しかしなんとなく何回も聴いているうちに、自分と馴染んできて、聴き心地の良い音楽に変わっていった。優しく奏でられているアコースティック楽器の音やノリのいいリズムなど、すべてがこの作品にとって大事な要素であるが、一番の魅力はやはり彼の人間性なのであろう。この作品には音楽に一番大事な”心”が込められている。きっと聴いたすべての人にそれが伝わるであろう。(日高 玲央奈)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。

20150522

【レビュー】SHAKALABBITS 『Hallelujah Circus Acoustic』

初のアコースティック・アルバムに詰めた想い

SHAKALABBITS
Hallelujah Circus Acoustic
Hallelujah Circus Inc., 2014年
 SHAKALABBITSといえばパンク・ロックというイメージが強いであろう。しかし、この作品はなんと彼等にとって初めてのアコースティック・アルバムである。彼等とアコースティック音楽というのは意外な組み合わせに思えるかもしれないが、メンバー自身、アコースティックの音楽を聴くのが好きで、いつかはアコースティック・アルバムを作りたいなと話していたとUKIのブログに綴られている。それがとうとう完成したのだ。
 最初に流れてきたのは、アコギが奏でるノリのいいイントロであった。一曲目の「MutRon」は、原曲はおどろおどろしいイントロから始まり、奇妙で不思議な歌詞が印象的な曲であったが、その印象はまったく消え去っていた。UKIの歌い方も少しかわいらしい感じになっていて、奇妙な歌詞がなんだか楽しく思えた。アレンジによって、こんなにも原曲の印象を覆されてしまい、一曲目からこの作品の魅力に引き込まれてしまった。「モンゴルフィエの手紙」のような、原曲がアコースティックっぽい曲もアレンジされている。初めて収録曲を知ったとき、アップテンポな曲が収録されていることよりも、このような曲があえて収録されていることのほうが驚いた。この曲も自然と身体を横に揺らしたくなるリズム感で、UKIが吹いているハーモニカの伸び伸びとした音色が心地良い。そしてさりげなく奏でられているヴァイオリンの音色が、この曲の切ない雰囲気にぴったりである。「ROLLIE」はライブで演奏すれば絶対に盛り上がる彼等の代表曲であるが、それがもうよくもこんなにやってくれたな!というくらい別世界になっていた。エコーの効いたアコギの音色と子守唄のように優しいUKIの歌声が、まさに夢の中にいるかのようにただただ広がっていく。おちゃめな小さい女の子のような原曲が、綺麗な大人の姿に生まれ変わったように感じられた。
 「Jammin'」という曲に〈ハレルヤサーカスの鳥たち波に乗った〉という歌詞がある。このアルバム名はこの歌詞からきていて、同じ名前を彼等が立ち上げたレーベルにも名づけている。この歌詞のように、この作品は彼等にとって思い入れのある記念すべき作品であり、今後に繋がる大事な作品でもあるだろう。これが新たな彼等の出発点なのだ。たくさんの想いが詰まったこの作品を、ファンはもちろんSHAKALABBITSの音楽を聴いたことのない人達にも聴いてほしい。(日高 玲央奈)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。

20150520

【レビュー】SWANS 『To be kind』

愛憎のリヴァース・ショット

SWANS
To be kind
Young God/Mute, 2014年
 ドローンとは即ち反復であり、音を引き延ばすという意志の表れである。幾度も音は反復され、永遠/永続性を強調する。初期スワンズが提示した音もまたドローンであった。メカニカルでマシナリーなハンマー・ビートにノイズまみれのリフの執拗な反復は正しくノイズ・ドローンの形態をとっている。では、スワンズ=マイケル・ジラにとっての反復とは何を指しているのだろうか。
 来年1月に再来日が決定しているスワンズの再結成後3作目となる本作でも根底にあるのは反復=ドローンにあると言っていい。しかし、それでいて、おおよそインプロヴァイズを軸としたであろうと推測できるアルバム構成は各音のパートの分離と隙間が非常に生かされた、有機的で立体的なアンサンブルが特徴だ。言い変えるならば、スワンズ史上最もライヴ感溢れる作品である。強靭な反復のリズムを基調にしつつも、ギター・ノイズは自在に、時に多彩に暴れまわる。ジラのヴォイスはジム・モリソンを彷彿させるように情念を湛え、歌い、叫び散らす。初期のスワンズの反復は脊髄反射的なものであったが、本作におけるスワンズの反復は極めてフィジカリティなものである。リズムの躍動感は呪詛的でプリミティヴですらあるのだ。また長尺が占める楽曲群の構成と展開はスワンズ流の演劇=音劇を鑑賞しているようである。「Bring the sun/Toussaint L’Ouverture」はその象徴であろう。本作の要素を全て凝縮し、展開され、繰り返される。スワンズ流の演劇=音劇は永遠に終わりのない反復なのだ。
 ここで冒頭の問いは繰り返される。スワンズ=ジラの反復とは何を指しているのか。結論から言えば、スワンズの反復は初期の頃から何も変わっていない。即ちスワンズの反復とは愛憎の反復なのだ。徹底した愛憎がジラを反復に掻き立てるのである。愛と憎しみは相反しない。ジラにとって愛することと憎むことは同義であり、愛するが故に憎み、憎むが故に愛する。その愛と憎しみの反復によって、生まれる軋轢がスワンズの反復の根源なのだ。本作でもメビウスの輪のように終わりなき愛憎はグルーヴとなって貫かれていると言っていい。 仮にマルグリット・デュラスのテキストにサウンドトラックをつけるのならば、本作ではないか。『To be kind』は永遠に繰り返される愛と憎しみの間で反復し、そして逆転し続ける愛憎のリヴァース・ショットなのだ。(佐久間 義貴)

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20150518

【レビュー】BORIS 『NOISE』

日本のロック史の新たな金字塔

BORIS
NOISE
tearbridge, 2014年
 『NOISE』はこれまでのボリスの歴史を総括するように非常にバラエティに富んだ内容だ。その音楽的豊穣さはそのまま情報量にも繋がり、ボリス史上最も情報量の多い作品となった。本作にはドゥーム/ドローン/ノイズから出発したバンドがアニソンやヴィジュアル系、歌謡曲と言った日本的音楽要素を飲み込むまでの歴史が極めて濃度と強度の高い音を持って詰め込まれている。ボリスの膨大な諸作の中で中央に位置する指針となる作品と言えよう。
 更に本作はいよいよ日本のロック史に踏み切った作品と言えるのではないか。「Vanilla」や「太陽のバカ」のようにJ-ROCK的なメロディがあり、日本的な抒情性のある歌はイースタン・ユースやブラッドサースティ・ブッチャーズのような日本のオルタナティヴ・ロックの巨匠等に通ずるものがある。また、先鋭的なギタリスト栗原ミチオ離脱を逆手に取るように隙間を生かした有機的なバンド・アンサンブルは彼らが《バンド》に戻った事を強く印象づける。元々演奏の引き出しが多いとは言えないバンドだっただけに新鮮味を感じさせる。以前までは轟音で埋め尽くし楽曲の輪郭を曖昧にすることによって一種の暗号化するという手法をとっていた。しかし、本作は以前とは異なり楽曲の輪郭がはっきりしていることによって、より《音楽的》に感じられるのだ。全曲をシングルにしても差し支えないぐらい分かりやすく、且つ質が高い。「Angel」のような大曲でも極めてキャッチ―だ。「Quicksilver」のような疾走感溢れるハードコアな楽曲でも歌が耳に残る。ギターフレーズも極めてJ-ROCK的である。全曲比較的コンパクトな仕上がりとなっている。
 ボリスがここにきて日本のロック的なアプローチを強めて来ているのは、日本のバンドでありながら海外活動を主としてきたのが大きいのではないか。外から内を見ることによって日本のロック、音楽の面白さに気づいたのではないか。これまでのボリスに日本の音楽的要素が感じられなかったわけではない。己の中に流れる日本の音楽的素養を持ちながら『NOISE』にはまるで海外のバンドが日本のロックを解釈したような、ある種矛盾を内包したユニークさがある。
 本作でボリスはこれまで海外の文脈で語られてきたものから、日本の音楽シーンの文脈で語られるべき存在となった。『NOISE』は日本のロック史に新たな金字塔を打ち立てたのだ。(佐久間 義貴)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。