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[asatte Vol.3](特集:旅する音楽) 須田佳之 「作家、村上龍の挑戦」

2011年11月19日
"RYU’S CUBAN NIGHT" タニアvsハイラ with キューバン・オールスターズ
於:品川ステラボール

カリブ海に浮かぶ島国キューバは、ルンバ、マンボ、チャチャチャといったラテンリズムのふるさとだ。革命前はカリブ海きっての歓楽街であった首都ハバナでは、誰もが踊りだしたくなる、身体に直に響く音楽が数多く生み出されてきた。



作家の村上龍は、1991年に初めてこの国を訪れ、その音楽の魅力に取り憑かれ、翌年から毎年欠かさず来日コンサートを開催している。NGラ・バンダ、イサック・デルガード、チャランガ・アバネーラ、マノリート・シモネー、バンボレオ・・・いずれもキューバン・サルサ/ティンバと呼ばれるジャンルのトップスター達である。コンサートは、彼の知名度もありいつも盛況だ。



2011年の来日コンサートは、有名バンドではなく、初めて日本向け特別編成のバンドとなった。村上自ら人選と選曲を手がけた、彼の色が濃く出たライヴということになる。トップ・ミュージシャンと若手の混成バンドがどんな音を出すのか興味津々であったが、各自のテクニックはすばらしく、特に1曲だけ演奏したジャズでのソロは最高だった。ただし、カバー曲のリフなどはオリジナルと比べこなれておらず物足りない部分もあった。そして、本国での人気を二分する女性歌手、タニア・パントーハとハイラ・モンピエの歌手対決は迫力満点、歌のみならず衣装もダンスも、甲乙つけがたい好パフォーマンスだった。楽曲はダンス・ナンバーを控えめに、ボレロ(バラード)が多目。彼のファン、もしくはマニアでない一般音楽ファンに向けた趣向なのだろう、「愛の賛歌」や「コーヒールンバ」を日本語で歌わせていたが、こういうサービスは好みが分かれるところだ。とはいえ、全体として、歌手対決という趣向は大成功と感じた。

いまや数少ない社会主義国であるキューバの経済は苦しく、多くの国民が外国での成功を夢見て国を離れている。日本にも、まだまだ数は少ないものの、そうしたキューバ人が住み始めている。彼らの、明るくしたたかに生きる姿は周囲の日本人にカルチャー・ショックを与え、折からのダンス・ブームもあり彼らの教えるダンス教室は賑わいを見せている。そうした、日本語カバー曲を必要としなかった草の根ファンも徐々に増えている現在、作家の更なる挑戦とあいまってラテン音楽がどのように受け入れられていくのか、注目したい。