20121028

[asatte Vol.6] 田中三千穂「三つ子の魂百まで。子どもの音楽の記憶は大人になるまで。」

火曜日の『サザエさん』をご存知だろうか。『サザエさん』といえば日曜日のものとしておなじみだが、95年頃までは日曜日の他に、火曜日にも放送されていた。私はこの火曜日の『サザエさん』のオープニングとエンディングのテーマ曲が日曜日のそれよりも大好きで、今でも完璧に空で歌えてしまう。先日、桜新町在住の同僚とそんな話になったのだが、火曜日の『サザエさん』を知る者はその場では少なかった。なるほど、私が関西出身だから、他の地域では放送していなかったのかもしれないと思ったのだが、そのテーマ曲を口ずさむと、驚いたことにその場の誰もが知っていたのである。


子どもの頃の音楽の記憶は、「覚えている」と言うよりも、「染み付いている」と言う方が正しいのかもしれない。冒頭の火曜日の『サザエさん』にしても、放送されていたかどうかは覚えていなくても、毎週のように聞いた歌は無意識に覚えている。また、多くの人が子どもの頃に歌ったABCの歌や九九の歌も、アルファベットや九九を覚えるために歌ったという意識は当事者にはなく、あくまでお遊戯のなかで歌ったものだったはずだ。それにもかかわらず歌による記憶は鮮明で、私など七の段はいまだにメロディーを頼りに思い出すほどである。

物事を記憶するには、反復的、且つ感情に結び付けると覚えやすいというのが定説になっているが、音楽はそれを実現するのに最適な方法である。しかも、成長過程にある子どもはそれを日常的に無意識的に行うことができ、吸収力も高い。毎日テレビから流れる教育番組の歌、アニメの主題歌やCM曲、保育園や幼稚園のお遊戯の歌も、たとえその時は意味がわからなくても、好きな歌の中に出てきたものは何でも覚えてしまう。まさに身体に染み付いているのである。しかも、一度覚えた歌は時間が経ってもそう簡単には忘れない。たとえ覚える曲が増えても、それはレパートリーが増えるだけなのだ。

もちろん、それを悪用することも可能だ。子どもの頃から偏った思想を植え付ける歌をたくさん教えれば、当然偏った子どもになってしまうことは容易に想像できるし、実際そのようなことが世の中には存在していると言われる。私が子どもの頃に歌でインプットされたもののひとつが、冒頭の火曜日の『サザエさん』に代表される明るい日本の家族の姿であったことは、とても幸せなことなのかもしれない。また、今の子どもたちには良い音楽をたくさん聞いて、幸せな記憶を持って大人になってもらいたいと願っている。