20140709

【asatteVol.10「まつりと音楽」WEB版2】とあるお祭り野郎バンドのこと

asatte Vol.10「まつりと音楽」では惜しくも掲載ができなかった素晴らしい原稿を

WEB版として公開しております。今回は堀中さんにジプシー・ブラスバンド、

ファンファーレ・チョカリーアについて書いていただきました。



とあるお祭り野郎バンドのこと

 

日毎に暑さを増し夏の訪れを感じると、幼い頃に参加した地元の町の夏祭りを思い出す。町に代々伝わる神輿で町中を練り歩き、その神輿に子供が乗って太鼓を叩く。その太鼓の叩き方やリズムにいわゆる教材はなく、上級生や大人に教わりながら見よう見まねで叩いてみる。思えばそれが最初の楽器体験だったかもしれない。どういう所縁の祭りだったか未だによく知らないままなのだが、ただその夏祭りを毎年楽しみにしていたという記憶だけは強く残っている。

その祭りの太鼓と同じように、口頭での伝承をベースとして活動し続けているバンドがいる。ファンファーレ・チョカリーア、ルーマニア出身のジプシー・ブラスバンドだ。彼らを扱ったドキュメンタリー・フィルム『炎のジプシーブラス ~地図にない村から~』に詳しいが、96年にとあるドイツ人に発見されるまでは、村の冠婚葬祭に呼ばれては演奏しに行くような、村の音楽隊だった彼ら。メンバーはアカデミックな音楽教育を受けた者たちではなく、村の若者がバンドのメンバーに教えを乞い、あるいは楽器を譲り受け、そうやって続いてきたバンドだ。活動の歴史の中で年長の中心メンバーを亡くしもしたが、それでも村の若者が新たに参加し、その新陳代謝の結果として今も活動を続けている。

音楽的には軍隊音楽などにルーツがあり、ヨーロッパやアジアの伝統音楽を取り込んだ独自のブラス・ミュージックだが、彼らの音楽の一番の特徴はなんと言っても「速さ」だ。曲によってはBPM200を超す曲もあり、それはメロコアやスラッシュ・メタルの速い曲にも匹敵する。誰と競うでもなく作り上げられたこの「速さ」は、祝い事や祭りでの演奏の中で進化を遂げてきた、彼らなりの祝祭の表現方法なのだと思う。

現在では世界中を旅して周るツアー・バンドとして活動する彼らだが、村の音楽バンドとしての出自に誇りを持って演奏している音楽は、享楽に満ちていて、ただただ楽しく、そして踊り狂うには最適だ。

そんな世界最速のジプシー・ブラスバンドにして屈指のお祭り野郎バンド、ファンファーレ・チョカリーアがまた今年も日本にやってくる。フジロックでのステージなんか、まさに祭りの中の祭りじゃないか。夏祭りを楽しみにしていた子供の頃のように、その高速ブラスを待ちきれない気分でいる。(堀中敦志)