現代の吟遊詩人、笹口騒音率いるロックバンド、うみのて。EP『もはや平和ではない』を経て届けられた彼らの1stアルバム『IN RAINBOW TOKYO』レコ発ライブ、会場は渋谷O-NEST。EP『もはや平和ではない』レコ発ライブの下北沢シェルターから会場の規模がステップアップしている。ここ数ヶ月で、彼らの知名度が急速に広まっていることの現れだろう。
物販には笹口騒音の姿が。マスクをして俯いているその姿からは、レコ発ライブに対する緊張のようなものが感じられる。それもそのはず、O-NESTは彼らにとっては大きな会場。このライブは絶対に失敗できないという気持ちがあるのだろう。
いよいようみのてのライブが始まる。不穏さを感じさせるノイズのSEからメンバーが登場。
カウベルのカウントから始まる「TALKING BABY BLUES」からライブがスタートした。「HEY BOY HEY GIRL 話を続けよう」と、世の中に対する宣戦布告のメッセージともとれる歌詞、高野P介の鋭角なギター、へヴィなサウンドを支えるリズムが満員のO-NESTを飲み込んでいく。
しかし、笹口騒音の声は本調子ではないようで、ところどころ掠れているのが気になる。
曲が続いていくが、言葉を吐き捨てるような彼のボーカルスタイルが本調子でないということもあり、会場には不安感が広がっていた。
しかし、うみのてはここで潰れてしまうバンドではなかった。四曲立て続けに演奏された後にMC。「みなさん、呑んでますか？僕たちがみなさんを酔わせてあげます！」というMCから演奏された「ぐるぐる回る」「SUICIDAL SUICIDE」。それまでの凶暴性を感じさせる曲たちとはうって変わって、うみのての持つ叙情性が強調された二曲に、O-NESTが静かに酔いしれる。絶叫を交えた曲ではないこの二曲で笹口騒音の声も若干持ち直したようで、会場には一体感が静かに広がっていた。
会場の一体感をバンドも感じたのか、この曲からの「東京駅」「正常異常」の流れは自信に満ちた貫禄たっぷりのパフォーマンスだった。「俺の家を知ってるかー！」という笹口騒音の絶叫から始まる「東京駅」、nekiのカウベルが不穏さを駆り立てる「正常異常」で、O-NESTが揺れる！高野P介はギターを激しくかき鳴らす。その痙攣したような動きに目が釘付けになる。ドラムのキクイマホも「東京駅」でのドラムソロを決め、会場のテンションをヒートアップさせる。陶酔感を切らすことなく、「FUNADE」で本編終了。笹口騒音の本調子ではない声をバンド全員でカバーし、結果的にうみのてというバンドの結束力を感じさせるライブだった。CDだけでは分からない、バンドマジックが巻き起こっていた。冒頭で「笹口騒音率いる」と書いたが、それは訂正しなければならない。うみのては、“笹口騒音のバンド”ではなく、紛れもなく“うみのて”というバンドとして進化していることをこのライブで証明したのだから。
(野津真澄)
2013年4月期(テーマ:1番印象に残ったライブ)