現代の子どもたちの音楽体験を可能にするメディアは目まぐるしく移り変わっている。数年前に突如現れ、その後に及ぶまで影響を残した「着うた」を起点とし、現代の子どもたちの音楽体験を紐解きたい。
2002年12月よりサービスを開始。楽曲を和音へ変換していた着メロより、音楽体験としての意味合いは高い。CD音源と同じものを手軽にダウンロードできる、そのリアルさと利便性が若年層に広く受け入れられた要因であろう。だが、そこには子ども達の音楽体験に対して問題点をはらんでいた。1つは、曲単位でしか聴かないことが、アルバムとしての聴取体験を失わせたこと。更に、興味の湧いた曲以外との出会いの場を減らしてしまうことだ。曲のダウンロードとなると、対象となる楽曲のダウンロード作業が完了すれば目的達成となり、自らが望まない限り他の曲、他のアーティストとの情報を得ることは難しい。そこから、単品満足型という聴取スタイルがメインユーザーの間に浸透していった。
近年、何十年とキャリアを重ねたわけでもなく、解散が決まったわけでもないアーティストがベスト盤CDをリリースすることが多い。あくまで、その時点までのシングル作品をまとめたものであり、アルバムとしての作品性を重視したものとはいえない。このような作品のリリースが相次ぐ現状には、着うた文化が影響していると考える。着うたの世界ではアルバム丸ごとが配信されても、そのすべてをダウンロードする人は多くない。気にいった楽曲だけを手に入れることこそ、CDをわざわざ買わずして得られる利便性だからだ。故にアルバムであったとしても、ランキングに反映されるリード・トラックのみがフィーチャーされることとなる。着うたが生み出した単品満足型の聴取スタイルにより、楽曲の切り売りというビジネスが成立した。
現在は、携帯音楽プレーヤーの普及により、PCの有料音楽配信の利用も広がりを見せつつある。しかし、その内訳をみるとアルバムは全体の5%を占めるばかりだ。ここでも、やはりシングルが圧倒的多数を占めている。着うた世代だった子どもたちが携帯から音楽プレーヤーへ音楽体験のツールを移行していった為、着うたが作り上げた単品満足型の聴取スタイルは、フィールドが変わっても引き継がれることとなった。この現状を憂うばかりでなく、彼らに作品としての聴取に対する興味を持ってもらうために行動していくことが急務だ。例えば、音楽配信サイトにおいてユーザー・レビューだけでなくプロのライターのレビューを掲載するなどして、どのような面白みがあるのかを明確に提示することが、単品満足型の撲滅に繋がるのではないだろうか。