20121004

[asatte Vol.6] 岡崎千紘「つなげる」

子どもに「すばらしい体験を」という志のもとに音楽活動を行っているミュージシャンは多い。そこで、ある例を紹介しようと思う。

Ozomatliというバンドがいる。L.A.で結成されたバンドで、ラテン、ヒップ・ホップ、ロックなど、いろんなジャンルを織り交ぜた……という紹介がこのバンドの常ではあるが、むしろL.A.という世界の人種や文化が織り交ざった場所で生まれた「ジャンルレス」な音楽と言った方が、彼らを紹介するにはよいかもしれない。数々の音楽フェスティバルに出演し、グラミー賞も受賞するなどの活躍ぶりも目覚ましい彼らが最近力を入れているのが「OZOKIDZ」というプログラムである。これは文字通り「子ども」を相手とした活動であり、子ども向け番組のコンピレーション・アルバムやゲームへの音楽提供、そして子どもを対象としたライヴを積極的に行っているほか、今秋にはその名を冠したアルバムも発売される。特にライヴには力を入れており、SXSWなどのフェスや音楽イベントへの出演はもちろん、ツアーも会場の大小問わず多数行っている。

そもそも彼らの音楽活動は、L.A.での、ある地域問題への抗議運動をきっかけとしている。その後の活動も社会問題に沿っていることが多く、それに従うようにして、彼らは多くの国や現場でライヴ活動を行ってきた。そして彼らの目線は、演奏する地域で生活する人々へと向けられている。その人たちがもし問題を抱えているならば、彼らはその問題に対して共に「NO」と言えるバンドなのだ。言ってしまえば、彼らが行うライヴは単なる見せ物ではなく、オーディエンスと同じ目線に立つツールであるのだろう。「ジャンルレス」と言える所以もそこにあるように思えるし、それこそが彼らの持つ音楽の力だ。そして17年にも及ぶ活動の中で、彼らが近年目を向け始めたのが、「子ども」ということなのだが、それはOzomatliの中に「父親」となったメンバーがいるということも大きく関わっているだろう。

OZOKIDZのライヴの様子を動画サイトなどで見ると、鶏のマスクをかぶったメンバーや小さなラッパを吹いて軽快に演奏するメンバーと一緒に、楽しそうに踊る子どももいれば、ぽかんと直立不動でじっと見続ける子どももいる。子どもの反応は、素直で、さまざまで、面白い。そして、子どもたちと一緒に大人も楽しそうにしているのを目にすると、このバンドはなんて素晴らしい時間と場所を作っているのだろうと思わずにいられない。彼らは、そこに居合わせた親子にとって、それだけで充分な役割を果たしている。

OzomatliFUJI ROCK FESTIVALで初来日した際、ステージ上ではなくオーディエンス・エリアから演奏を始め、その音楽に引き寄せられた観客をひきつれてステージに向かって行った。「子供の頃、音楽と出会えたことがどれほど幸せだったか… そんなチャンスを子供たちにあたえたい」(Smashing Magより引用)と、あるメンバーは発言している。彼らもかつては音楽にひきつけられた子どもたちだったのだ。そして今は彼ら自身が子どもたちをひきつれていく。それは、観客としてだけではなく、いつかステージに立つ人間として。まさにOzomatliの音楽を繋げていく「OZOKIDZ」が、いま生まれているときなのかもしれない。


Ozomatli and Harold Robinson Foundation team up for the kids
Ozomatli performing for the kids at 92nd Street School in Los Angeles.