20150115

シャムキャッツインタビュー(YEAR IN MUSIC 2014 リリース記念)

 本日2015年1月15日、『asatte増刊 YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )が電子書籍にてBCCKSから無料でのリリースとなりました!(PCまたはスマートフォンにて閲覧可能です。)

 今回で3回目となる『YEAR IN MUSIC』は、オトトイの学校「岡村詩野音楽ライター講座」において講師と受講生による議論の中でセレクトされた年間ベスト50枚(以上!)のディスク・レビューに、各種特集も交えながら2014年を振り返る書籍となっています。

 今年の第一特集はシャムキャッツへのインタビュー!アルバム『AFTER HOURS』をリリース後、全国ツアーを成功させ、同時に「ROCK IN JAPAN」を含む数多くのフェスへも出演するなど、めまぐるしく活動してきた彼らへの1万字にも及ぶヴォリュームで話を伺ってきました。

 当インタビュについて、BCCKSで無料で閲覧可能ではありますが、本ブログでも以下に一部公開します!電子書籍では、シャムキャッツのインタビュー全文、講座内でセレクトされた2014年のベスト・ディスクのレビュー(+再発盤レビュー)、2014年の音楽書評と、様々なコンテンツを用意しておりますのでぜひそちらもご覧ください。


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シャムキャッツインタビュー


——まずはメンバーの皆さんにお聞きしたいのですが、今年一年で気に入った作品などあったら教えてください。

菅原慎一:同じようなものをずっと聴いてたかな~。

夏目知幸:バンビ(大塚)は新譜を一枚も買ってないですから(笑)。

菅原:ああ、でもディアンジェロの新作!(※インタビューはディアンジェロの新作がiTunesでリリースされた翌日に行われました。)

夏目:前に好きって言ってなかったっけ?

大塚智之:ああ、まあまあ(笑)。

——藤村さんはどうですか?

藤村頼正:いや、特に新しいのは聴かないですね(笑)。でも、レコード・プレイヤーを今年買って、それでちょいちょい聴いてます。

菅原:何を聴いてるの?

藤村:一番最初に買ったのはスティーリー・ダン。昔ハタチくらいの時に、「バンビ・ミックス」みたいな感じでCDにまとめてその辺のミュージシャンを聴かされたんだけど、その時はそんなにハマらなくて。でもあらためてレコード・プレイヤーで聴くと、すげーいいなあって。今の方が(気分的に)そういうのが合ってるからかもしれないけど。ドラムとベースの感じとかちょうどよくて。

——シャムキャッツはその時自分たちが聴いている音楽が作品に反映されるバンドだと思いますか?

夏目:まあするよね、それはね。

大塚:うん。

——どちらかというと古いものを掘り下げていくような聴き方をすることが多いですか?

夏目:俺は新しいもの聴くけど。まあ、みんな掘り下げてるよね。

菅原:僕も音楽すごい好きで、掘り下げて聴くんですけど、自分のプレイにはほとんど反映されてないと思います。

——自分のプレイは自分のプレイとして、何かしら改良していってるという感じですか?

菅原:そうそう。自分の出来ることをしっかりやっていくっていう。機材も限られているから、いきなりギターで最近ハマってるのとか出そうとしても難しいし。

——それはソロ活動の方でも変わらないですか?

菅原:あ、ソロは入れます!(笑)

夏目:(バンドでも)入れてよ、もっと!

菅原:いや、バンドはバンドのことちゃんと考えて、すき間でやってるから。

——じゃあ、バンドのどっしりとした方向性はまた別であると。

菅原:全然別ですね。

夏目:いま聴いてるものに影響されるっていうか、『AFTER HOURS』を作る前まではいつも天然で出してたんですよ。それこそ、聴いてるものと出すものが全く別っていう感じで。聴くほうは趣味で、そっちはそっちで楽しんで、出すほうはもっと自分の生活のこととか考えてて、「音楽」から「音楽」を作るっていうタイプじゃなかったんですけど、『AFTER HOURS』からは、もう完全に好きなアーティスト、好きな曲の構成・コード進行から、どこにどういうオカズがあるからこういうことになるんだっていうところまで、全部データで書き出してから曲を作ってたから。そういう意味では聴いている音楽がそのまま糧になって、最近は自分たちの曲になっている。

——それは意識的に変えたんですか?

夏目:そうですね。これ以上自分の天然に頼っても曲は出来ないかなって思って。俺の才能は出切ったなって。よく考えると、大学で論文書くときとかも、イチから「さあ、この経済はどういうことになっているのか考えてみよう」って、経済のことを頑張って考えて論文書く人はいないじゃないですか。いろいろな文献を漁ってそこから自分なりの答えを出すから、それと同じ作業をやってる感じ。

大塚:わかりやすいね(笑)。

夏目:でしょ、慣れてるでしょう?(笑) 例えば、悲しい曲だったらなんでその曲が悲しいか、イマっぽい曲だったらなんでイマっぽいか、その曲の中に絶対秘密が隠れてるじゃないですか。それがちゃんと自分の中にアーカイブされていれば、「あの悲しい感じがやりたいんだよな。」ってときに参考文献として引っ張ってこれるから。そこから自分たちの色に変えたりも出来る。まあ、便利ですよね。そうすると自然とオマージュ的なものになっていくし、自分たちがちゃんと音楽の歴史の中にいる感じがするから、いまのやり方がいいなと思ってます。

——なるほど。作り方がそういう風に変わると、作曲という行為も自分が表現したいことに対して、アーカイブの中からどう組み立てていくのかという作業になってくると思うのですが、『AFTER HOURS』は当時、どういうものを作りたいと思っていましたか?

夏目:自分から出すっていう作業に疲れたんで、とにかく疲れないことをやりたいと思ってました。それと、それまで天然でやってたから、その時の気持ちとかを歌ってきてたんだけど、もっと「景色」みたいなものを表現したいなっていうのがすごく大きくて。『たからじま』までは、自分が納得いってない社会や人とかのフラストレーションで曲を書いていたところもあったけど、そういうのは一旦全部排除して、自分がいいなと思った景色をバンドで作るって感じになりました。

——そういう脱力感というか、「疲れた」とか「盛り上がりたくない」みたいな感情は時代的なものだと思いますか?それとも個人的なものだと思いますか?

夏目:僕にとっては個人的なものですね。時代的にはそれこそEDMみたいに盛り上がってるじゃないですか。でも、きっと僕みたいに思っている人もいるんじゃないかなとは思っています。それこそ、博多華丸・大吉がこのあいだ「THE MANZAI」で優勝したじゃないですか。あれはちょっと僕らには希望だなって。そういう価値観でも優勝できるっていうのはいいなあと。だから「ROCK IN JAPAN」とかは華丸・大吉的な感覚で出ました。みんなはしゃべくり漫才で何分間のうちにいくつ笑いを入れられるかってところで勝負してるけど、こっちはすごい柔軟な芸で、ゆったりやって笑わせられればいいなっていう。

——それは何らかのカウンター的なイメージもあるんですか?

夏目:いや、全然ないです。作りたいものがたまたま主流じゃないってだけで、別に主流じゃないものを作りたいわけではない。

——「盛り上がりたくない」みたいな気持ちは他のメンバーの方も共感していますか?

藤村:いや、共感してないですね。たぶん全員が同じことを思ってたらシャムキャッツみたいなバンドにはならないと思う。

大塚:でも、共感はしてないけど、(夏目が)こういうことを考えてるんだろうなとは思うよね。

夏目:俺は俺で他のメンバーはこう思ってるんだろうな、っていうとこを思って作ってるところはあるけど。

菅原:だから共有はしてないけど、お互いに想像して気を遣い合ってるっていう感じですね。

夏目:でも、『AFTER HOURS』を作る時に常々言ってたのは、わざとらしい展開とか「はい、盛り上がりそうだね」っていうスイッチを押したくないっていうことで。そこは共有していたと思います。

——とはいえ、シャムキャッツの音楽って、ポップに作られてるじゃないですか?

夏目:うん、そうですね。

——例えば、「MODELS」のサビの前のSE的なギターの使い方とか、すごくポップス的な作り方をしていると思うんです。となると、スイッチを押さないっていうのがどういうニュアンスなのかなと。

菅原::自分たちの感覚の中でってことだよね。

夏目:たぶんね。

——自分たち的にナシなことはやらないっていう感じですか?

大塚:でも、あまりにもやらな過ぎるのも…。

夏目:そうそう。やらな過ぎるのも自分たちにとっては違うってなるんですよ。だからちょうど良いところを見つけてるって感じなんですけどね。いつも。

藤村:いい塩梅のスイッチを探して押すというか。

大塚:押すっちゃ押す。

夏目:でも、これは僕のクセなんですけど「これベタじゃない?」っていうのを練習中とかもよく言うんですよ。でも、音楽って基本的にベタなものだからね。

——みんなでクチを出して軌道修正して、ぎりぎりベタじゃないものにしていくみたいな。

夏目:そうですね。あとは思いっきりベタなものをベタじゃなく聴かせるとか。

菅原:「SUNDAY」って曲とかは結構最後まで葛藤があって。で、形になってからも結局どうなんだろうねって言ってます。

夏目:なんて言うか、『AFTER HOURS』に限って言えば、「コンクリートに捧げるバンド音楽をやる」っていうのがテーマとしてあって。人とかじゃなくて、自分たちが生まれた埋め立て地の地面とか橋とかに捧げる曲っていうのがテーマだったから。豊かな感じ、森とか海とか、人々の会話とか愛情とかそういうのだと豊かさが出てくるじゃないですか。芳醇な感じが。そういうのはなるべく排除したかったんですよ。そういう自分たちが思ってるヒューマンな感じっていうのを出さずに、でも、どうやって豊かな音楽にするかっていうのがテーマだったんです。そういう部分でちょうどいいスイッチを探していたっていう感じ。だから少しのっぺりしてたりとか、少し無機質っていうか、少し無表情っていうか、そういう展開とか盛り上がりじゃないと、テーマとして成立してないわけですよ。だからそういうのを探してたって感じです、『AFTER HOURS』は。やっと分かった、自分でも。