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20150607

【レビュー】OGRE YOU ASSHOLE 『ペーパークラフト』

世界は簡単に倒れそう、でも意外としっかりできている

OGRE YOU ASSHOLE
ペーパークラフト
P-VINE, 2014年
 「うつし世は夢 よるの夢こそまこと」――“この世は夢で夜の夢こそが現実”と江戸川乱歩が言ったように、オーガ・ユー・アスホールも我々の常識感覚を大きく混乱させるような音楽を鳴らし始めた。夢、現実、時間…人間の意識のなかをとりまく概念をぐちゃぐちゃにかき回した、現在地の分からない音楽。それが『ペーパークラフト』の正体だ。
 近年の彼らの潮流には、非常に興味深いものがあった。楽天的な音作りとシニカルな終末観を併せ持った『100年後』、ドープで実験的なリアレンジ音源集となった『Confidential』。口数は少なく、音は機械的になっていく楽曲からは次第に人間の体温を感じられなくなり、気味の悪さが漂っている。そして今回彼らが目指した次なるものは、先述2作の中間点のような、新譜でありながらリミックス音源をも思わせる音だった。
 たとえば、「他人の夢」の終盤を覆うヘリコプターのような音や、「見えないルール」で均等にならされるホイッスルのようなループ音。これらのサウンド・エフェクトが味付けとして不穏に耳に訴えかける。これらの作用は時間軸をリミックスすることであり、時間を分断/リセットさせ、リスナーの正常な感覚を奪っていく。ライヴ・ハウスで見るVJのような、ずっと同じ映像の繰り返しを見せられている気分だ。全編を通しアナログ盤のようなぷつぷつとした音も挿入されていて、ラスト「誰もいない」ではついに大きなノイズとなり息絶える。
 この音楽は現代の政治、事件への皮肉を歌っているのだろうか…なんて、それらしい答えを見つける気持ちなどは起きない。まともな感覚がつかなくなるほどの浮遊感と後味の悪さ。そして深い悲しみの迷路で宙ぶらりんとなった自分の存在を確認する。どうしてオーガはここまで巨大な虚構を作り上げてしまったのだろうか。私は未だにこの世界から抜け出せずにいる。 しかしただ一つ思うのは、たとえ今が本当の現実じゃなくて、自分の居場所がわからなくても、自分という存在は自分の意識があれば確認できるということ。出戸学(Vo./Gt.)は、『ペーパークラフト』という巨大なレイヤーを張ってまでこんなことを言いたかったんじゃないだろうか。でもそんなことが分かったくらいで、この世界から抜け出すことはおそらくできない。簡単に倒れそうで、意外としっかりできているこの世界の縮図を、人間の意識と絡めて巧みに表現した作品である。(梶原 綾乃

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150605

【レビュー】The fin. 『Days With Uncertainty』

国を超えた音、国を超えた空間を共有する存在

The fin.
Days With Uncertainty
HIP LAND MUSIC, 2014年
 神戸出身、平均年齢22歳の若手ロック・バンドだ。今年3月にEP盤『GLOWING RED ON THE SHORE EP』を初の全国流通でリリースし、本作は1stアルバムとなる。彼らの愛するチルウェイヴ以降の音楽はもちろん、UK/USのインディ・ロックを彷彿とさせるスタイリッシュさを持ち、シューゲイザー、ドリーム・ポップといったカテゴライズが適した、幻想的なサウンドを得意としている。加えて、筆者が初めて見たライヴでは、青紫色のスモークが焚かれ彼らのシルエット姿だけが見える状況で演奏を披露し、音楽性を含めさながら来日アーティストのようであったことを覚えている。
 さて、その音楽性はEPの時点でしっかりと確立していて、本作はその延長線をゆくいくつかの味付けが見られる。マス・ロック感のある音で丁寧に切り刻まれた「Illumination」、寄せては返す波のようなループが艶めかしい「Night Time」など、特に80年代シンセ・ポップを随所に思わせるアプローチもあり、ほぼアカペラなほど音数を削ぎ落とした「Thaw」、「Veil」など新境地もある。いずれも低体温でさっぱりした楽曲ながら、それらにグルーヴの強いベースが敷かれており、フロアで静かに踊れるナンバーばかりだ。
 本作において彼らが成し遂げたのは、ザ・エックスエックスやドーターのような余白でもって、チルウェイヴの空間を作り上げるということだ。「引き算で音楽を作る」と過去のインタビューでの発言や、本作発売前の11月にアコースティックにてUstream配信を行うなど、ここ最近の彼らは、一音一音への配慮はそのままでも「音の多さ」や「形態」という概念はないことを証明しているかのようだ。それは、繰り返しになるが空間が大事だということ――ギター1本、いや人間の声だけでも海外に立ち向かえる可能性があるのをちゃんと理解しており、上記のようなUK/USのシーンを、ほぼリアルタイムで日本の音楽シーンにうまく落とし込み伝えるセンス――において、丁寧で非常に長けているのだ。
 日本のバンドにおいて、あまり語られることのない「世界進出」を早いうちから掲げ、その目標が大きすぎず近いところに感じられる新人はそうそういないと思う。日本のインディ・ロックは既にここまでのレベルに到達しており、彼らはその何よりの証明だ。来年は国境を超えた活躍が期待できるのは間違いない。(梶原 綾乃

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150603

【レビュー】吉田ヨウヘイgroup 『Smart Citizen』

スマート社会で豊かに生き抜く音楽とは?

吉田ヨウヘイgroup
Smart Citizen
P-VINE, 2014年
 今年、東京のインディ・シーンを象徴したのは吉田ヨウヘイgroup(以下YYG)だった。森は生きているやROTH BART BARONら、このシーンを代表するバンドが出演したイベント「20140420」でトリを務め、フジロック・フェスティバルのルーキー・ア・ゴーゴー、One Music Campなどのフェスへ参加、ルミナス・オレンジの新譜への参加。そして何よりも、活発な活動の中リリースされた本作がそれを物語っている。
 彼らはその名の通り、吉田ヨウヘイ(Vo, Gt, A.sax)を中心とする8人組ロック・バンド。ロック・バンドといっても、サックス、フルート、ファゴットら木管楽器のウエイトが高いのが特徴的だ。特にファゴットという楽器はソロから伴奏まで高低音を問わない音域を持ち、音量の小ささというネックがあるにも関わらず、バンド内で骨組となるメロディを担当するなど生き生きと鳴らされている点は素晴らしい。
 ファースト・アルバム『From Now On』以降1年3か月ぶりとなる本作は、OK?NO!!のriddamを含むメンバー・チェンジ後、初作品となる。ジャズから始まりファンクやニュー・ソウル的アプローチもあり、彼らの音楽は複合的で例えるのが難しい。具体的なコレというものは挙げにくいが、あえて言えば彼らの音作りはロネッツやカーデッツのようなコーラスにルーツがあると考える。YYGでは、メンバー8人のうち女性3人全員が楽器の他にコーラスを担当している。"ラララ" "ハハハハ"のような、スキャット的コーラスと楽器が絶妙な間を持って掛け合い、対話することで完成する流れは心地がよく、声も楽器の一部として組み込まれている様子をしっかりと感じられる。そういった手法を総括すると、音楽性は違えど方法論としてはルミナス・オレンジと近いものを感じた。先述の新譜ゲスト参加は必然的か。
 本作収録曲を引っ提げたフジロックでの公演以来、木管の音量やバンドのバランス共に絶好調で今めきめきと成長を感じられる彼ら。ファゴット・内藤彩の脱退は残念であったが、不景気な現代社会で鳴らされる彼らのアットホームで豊かな音楽は、今年のインディ・シーンが好景気であるという何よりの証拠となった。今年は東京インディを象徴したが、来年以降の彼らが、東京インディという言葉では描き切れない新たなシーンを形成してくれるのを楽しみにしている。(梶原 綾乃

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20140709

asatteVol.10「まつりと音楽」完成いたしました

asatte Vol.10「まつりと音楽」 完成しました!

テーマはまつりと音楽。

 
 


祭りがある場所には人々の祀り、祈り、そして音楽がある。
今回は音楽と切っても切り離せない「まつり」をテーマにいたしました。
インタビューはほうのきかずなり(禁断の多数決)。
禁断の多数決サウンドにおける「まつり」の感覚を語っていただきました。
掲載店舗は随時更新いたします。どうぞ、よろしくお願いいたします。

執筆陣(敬称略)

板垣有
中村文泰
島田和彰
小沼理
新垣友海(WEB掲載)
堀中敦志(WEB掲載)
梶原綾乃(編集長/インタビュー)


20140503

asatte Vol.9「エロスと音楽」完成しました

フリーペーパー asatte Vol.9が完成いたしました。

テーマはエロスと音楽。

銀杏BOYZの最新作、My Bloody Valentine、大森靖子、グラムロック、ヒッピー文化…
などなどそれぞれの視点からエロス論を展開している全8コラム掲載。
設置店舗は随時紹介していきます。

執筆陣(敬称略)

梶原綾乃
北原 きっちい 裕一郎
小泉創哉
佐藤優太
田中清鈴
中畑琴絵
千葉飛鳥
藤枝麻子
坂本哲哉(編集長)


20121106

[asatte Vol.5](特集:ファッションと音楽) 梶原綾乃「世界を魅了する“ぱみゅぱみゅ”マジック」

きゃりーぱみゅぱみゅの人気の裏には「自己プロデュース力」という強みがある。自分の好きな目玉や骨といった"グロカワ"アイテムに、芸人ばりの変顔やダンスはPVへ、ブログで多用されるきゃりー語"好きすぎてキレそう"は楽曲タイトルに。元々彼女が持つ独特な世界観を、所々惜しみなく売り出すことに成功しているといえるだろう。リスペクトする人物はケイティ・ペリーやレディー・ガガ。普通の女の子として生きることに飽き足らないきゃりーは、奇抜なファッションで世間を驚かせてきた憧れの彼女達のように、「ちょっとズレてる」女の子として、世界にきゃりー流"カワイイ"の発信を試みようとしているわけだ。