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20150506

【レビュー】Shiggy Jr. 『LISTEN TO THE MUSIC』

90年代のわくわくよ、2014年によみがえれ!

Shiggy Jr.
LISTEN TO THE MUSIC
mona records, 2014年
 フロントマンの池田智子(Vo)と曲作りの核を担う原田茂幸(Gt)は僕と同じ25歳だ。
 僕らと同世代である人がこの「LISTEN TO THE MUSIC」を聴いたなら、初めて出会った音であるにも関わらず「どこか聴きなじみがあるな」と感じるかもしれない。それは90年代を通過してきた僕らが暮らしのなかで意図せずに聴き、浴びるようにして育った音楽 -つまり「J-POP」を血肉に変えて、現代のシティ・ポップへと再構築したものこそがこの作品だからだ。
 90年代当時、オリコンチャートを席巻しミリオンを連発したTKサウンドやビーイング系の楽曲は若者たちの間でこぞってカラオケの十八番として歌われ、夜通し盛り上がるBGMの定番だった。「今が楽しければいい」というある種の刹那主義/現場快楽主義とでもいうものが90年代の空気であり、この時代のJ-POPの良さだったのではと僕は思う。
 『LISTEN TO THE MUSIC』はこうした楽天的な部分に突き抜け、音楽が持つ快楽の要素が弾けんばかりに溢れている。はつらつとした歌詞や打ち込みとテクノ感のある音の粒から構成され、まるでJ-POPの無垢な部分を抽出したようなポップをふりまくタイトル曲「LISTEN TO THE MUSIC」や、ホーンのリズミカルな掛け合いが楽しい「day trip」、〈アイスクリームみたいに溶けそう〉と恋する乙女の心情をストレートに歌う「Baby I Love you」など、全編を通してキュートで迷いのない歌声。楽しく歌おう。楽しく聴こう。それだけに振り切っている、その潔さが気持ち良い。誰もが口ずさむことができるキャッチーな楽曲たちは360度全方向に瞬間を楽しむ幸せを放出している。また彼らの青春時代を彩ったチャットモンチーなどのバンドから影響を受けていることや、現代のクラブ・ミュージックの要素が盛り込まれたことも大きい。それが今作を「この時代のシティ・ポップ」へ昇華させ、90年代への回帰に留めるのでなく四半世紀の成長過程を経て作られたものに仕上げている。
 -2014年、今ありきとして消費された90年代の音楽たちは街の片隅で忘れられたように投げ売られ、いっときのブームとして命を終えたかに見えた。だが僕らの音楽の原体験であり、僕らを形造ってきたこのJ-POPたちは今、シギー・ジュニアの手によって再び現代に定義されようとしているのだ。(森 勇樹

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150504

【レビュー】Spoon 『They Want My Soul』

着飾らずとも、艶やかで力強いということ

Spoon
They Want My Soul
Loma Vista, 2014年
 音像が世の中にあまりにも多く溢れていたのではないだろうか。00年代後半NYインディーに端を発し、ハウスからアフリカン・ミュージックまで多くのジャンルを飲み込んで混淆的な様相を見せていたのが近年のロックだった。過剰に音を塗りたくり、複雑さを増していったそれは”大衆的な”という意味を含むポピュラー・ミュージックの本質から私たちを置き去りにしつつあったかもしれない。
 そんなシーンを知ってか知らずか、20年超のキャリアを持つスプーンの新作『They Want My Soul』は骨太な60年代的メロディを基幹にロックの伝統的な初期衝動を感じさせる。それでいて、10年代の潮流となりつつある緻密な曲構成や質の高い録音を用いて革新性を提示することも忘れていない。タイトル曲「They Want My Soul」の〈ああ、やつらは俺の魂が欲しいのさ!〉というソウルフルな叫び。自らを取り巻く泥濘としたものを蹴散らす力強さには思わず拳を握った。
  冒頭の破裂音を思わせるスネアから始まり、ドライな硬さと美しいリフを携えたミドル・ナンバー「Rent I Pay」。かき鳴らされるギターは頼もしくも、恍惚感を湛えたコーラスは輝きを放つ「Do you」では繰り返されるサビを思わず一緒に口ずさみたくなる。気の抜けたカントリー調のイントロが特徴的な「Let Me Be Mine」は、近年復権を見せつつあるスラッカーな空気との共振を漂わせるようだ。ラストに流れ込む「New York kiss」はNYの街角での古い恋人と交わした接吻がありありと浮き上がり、センチメンタルな思いに締め付けられる。
 先には初期衝動と述べたが、多くに絡めとられたロックが蔓延した現代において本作は単なる過去の引用に留まらない。ブルックリンで00年代の音楽を方向付けた代表格のTV・オン・ザ・レディオが本年『Seeds』で新たに見せたフィジカルさにも通ずるような、理性よりも本能に訴求する―そんな魅力を秘めているように思う。時代の空気に触れつつ、決してトレンドに逸って作られたものではない。「色々な新しい音楽を見つけよう」というバンドが従来から持つスタンスがもたらした会心の一撃は、見事に全米四位の座を再び射抜いた。この功績はスプーンがオルタナティヴ=唯一無二なロック・バンドであることの何よりの証であろう。まだまだロックの未来は捨てたものじゃない。(森 勇樹

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150430

【レビュー】BUMP OF CHICKEN 『RAY』

僕らのヒーロー、へなちょこの4人組が鳴らす光

BUMP OF CHICKEN
RAY
トイズファクトリー, 2014年
 バンプ・オブ・チキンは曲を鳴らしたいバンドじゃない。藤くん(藤原基央)から生み出された曲が「こう鳴りたい」と願う姿を実現する4人組なんだ。この数年彼らは今までのスタンスからすれば「らしくない」と思われることに次々と踏み切った。その理由は「曲が望んだから」。藤くんが作った歌を一人でも多くの人に聴いてほしい -この思いは彼らが音楽を世界に向けて鳴らし始めたそのときから一貫して変わらない。本人達としても賛否を呼ぶだろう新たな一歩を躊躇なく歩んでいるわけではないようで、藤くんは「ガタガタ震えながら -それでも”やろうね!”ってなるんですよ」と語っている。これってまさに「臆病者の一撃」を冠す彼ららしいよね。
 『RAY』に関しても『FLAME BAIN』や『THE LIVING DEAD』のころを知っている人からすれば、いわゆるギター・ロック・バンドらしかぬシンセや同期を盛り込んだサウンドに「変わったなバンプ」と思うかもしれない。けれど年齢を重ね円熟味を増した4人の思いは音楽があるべき形で響くためにもはや手段を選ばなくなってる。その結果、光量の多い眩しいアルバムが届けられた。プログラミング音と共に優しいアコギが僕らを温かく包容し、祝祭感が空まで高らかに鳴り響く「虹を待つ人」。色彩豊かな光が周囲を駆け廻り〈生きるのは最高だ〉と藤くんに言わしめたタイトル曲の「ray」を始めとしたエネルギーと多幸感に満ちた楽曲は僕達の日々を明るく照らし出してくれる。一方で震災を契機に作られた「smile」は静謐な歌い出しから生命力溢れるプログレッシヴ・サウンドが一気に展開し、力強い光で僕らを呑み込む。「(please)forgive」が放つのは切なく淡い光だ。起伏の穏やかなこの歌は安寧とした日常の不自由さ、しかしそれすらも自らが自由に選んだものだ、ということを粛々と紡ぎだしている。
 音の質感や活動のアプローチこそ変われど、芯の部分に耳をすませば愚直なまでにバンプは変わらないんだっていうのがわかる。藤くんの中の体験や感情が干渉し合って生まれたものが歌になり、それを伝えたい4人が愚直なまでに歌に向き合い、寄り合ったものが一つの作品になる。そこで歌われる言葉は本人達の意思を越えて、いつしか僕らのために鳴り、生きるために僕らの背中を押してくれるんだ。いつも助けてくれてありがとう。そして、また新しい光をありがとう。(森 勇樹

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。