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20150526

【レビュー】ゆるめるモ!×箱庭の室内楽 『箱めるモ!』

アイドルとロックバンドの最高なコラボレーション

ゆるめるモ!×箱庭の室内楽
箱めるモ!
T-Palette Records, 2014年
 アイドル戦国時代と言われている今、日本には数えきれないほどのアイドルが存在している。その中で輝きを増してきているのが、ゆるめるモ!というニューウェーブ・アイドル・グループである。ゆるめるモ!は2012年10月に結成。「窮屈な世の中を私たちがゆるめるもん!」をコンセプトに、サブカル界隈を中心に話題を集める。ニューウェーブ、パンク、ヒップホップ、エレクトロなど多彩なサウンドの楽曲は音楽好きの間でも話題になっている。
 そんな彼女たちはさまざまなアーティストとの共演やコラボレーションを積極的に行っている。今回の作品では、ジャンルレスなバンド・アンサンブルによる高スケールな楽曲を提供し続けているバンド、箱庭の室内楽とのコラボレーションを果たした。アイドルとロック・バンドという異色のように思える組み合わせだが、どちらも独創的で高い音楽性を持ちつつ、馴染みやすい楽曲をリスナーに提供してくれるという点においては共通していると思う。
 この作品は作曲、編曲をすべて箱庭の室内楽のハシダカズマ(Vo./Gt.)が担当していて、ヒップホップ、シューゲイザー、ポストロック、オルタナなど、あらゆるジャンルの音楽が詰め込まれており、ゆるめるモ!の魅力が最大限に引き出されている。一曲目「manual of 東京 girl 現代史」は、爽快に駆け抜けるような勢いのあるサウンドと、「みなさん、こんにちはー!」という元気なMCから始まり、リスナーのテンションを一気に上げてくれる。ラッパーのDOTAMAがリリックで参加した「木曜アティチュード」は、グロッケンなどのサウンドが組み込まれている軽やかなアンサンブルと、ゆるめるモ!のメンバーの個性が生み出した脱力系ラップが見事にマッチしている。「木曜アティチュード」以外の曲は、他作品の楽曲も含め小林愛が作詞している。これはどういう意味だ?と考えてしまう不思議な歌詞が、少女達の複雑でもやもやしているような気持ちを上手く表現している。
 アイドルらしい、リスナーをハッピーな気持ちにしてくれるゆるめるモ!のパフォーマンスと、箱庭の室内楽が奏でる疾走感と切なさを感じられるサウンドが融合し、青春の甘酸っぱさがぎゅっと詰め込まれている作品となっている。儚い少女時代を生きている彼女たちと、人の心を捉えて離さないような魅力のある箱庭の室内楽だからこそ生み出すことができた音楽であろう。(日高 玲央奈)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。

20150524

【レビュー】Gotch 『Can't Be Forever Young』

この作品に込められているもの

Gotch
Can't Be Forever Young
only in dreams, 2014年
 初めてこの作品を聴いたときは、どちらかというと期待を裏切られたような気持ちのほうが大きかった。なぜなら、私の知っている後藤正文はアジカンのフロントマンであり、パワーコードに乗せて力強く歌っているイメージだったからである。
 この作品はアジカンではなかなか見られないGotchこと後藤正文のキャラクターが全面に出されていて、その要素がいろいろな方面から組み込まれているのである。まず、ヴォーカルの他にも、アコギ、ハーモニカ、パーカッション、シンセサイザー、プログラミングなどほとんどの音を自らが演奏している。アコギやパーカッションなどわざとアコースティック楽器を多用したり、あえてシンセサイザーを手で弾いたりして、彼のヒューマニティを存分に出している。サポート・メンバーには、日頃から交流のあるホリエアツシ、下村亮介、井上陽介、TORAが参加している。仲の良いミュージシャンが参加することで、より一層温かみのあるアットホーム感漂う作品になっている。
 一番彼のヒューマニティが表れている部分、それはやはり歌詞であろう。アジカンの曲にはないようなストレートな表現が印象的である。彼が「A Girl in Love / 恋する乙女」なんてどストレートにラブソングみたいなタイトルをつけていることにとても驚いた。この曲以外にも恋について歌っている曲もあるのだが、この作品は全体を通して、生きることや死ぬことについて歌っている。「Sequel to the Story / 話のつづき」の最後に<今日のことは忘れないだろう>という歌詞がある。この文面だけ見ると、「誰でも言いそうな言葉だよな~」と思ってしまうのだが、それを彼が歌うとなぜこんなにも心に沁みるのか。時間が経てば薄れてしまうこと、命には限りがあること。まるでそのことを彼に話しかけられているかのように、言葉が自然と染み込んでくるのだ。
 人同士の出会いもそうであるように、最初はあまりしっくりこない作品であった。しかしなんとなく何回も聴いているうちに、自分と馴染んできて、聴き心地の良い音楽に変わっていった。優しく奏でられているアコースティック楽器の音やノリのいいリズムなど、すべてがこの作品にとって大事な要素であるが、一番の魅力はやはり彼の人間性なのであろう。この作品には音楽に一番大事な”心”が込められている。きっと聴いたすべての人にそれが伝わるであろう。(日高 玲央奈)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。

20150522

【レビュー】SHAKALABBITS 『Hallelujah Circus Acoustic』

初のアコースティック・アルバムに詰めた想い

SHAKALABBITS
Hallelujah Circus Acoustic
Hallelujah Circus Inc., 2014年
 SHAKALABBITSといえばパンク・ロックというイメージが強いであろう。しかし、この作品はなんと彼等にとって初めてのアコースティック・アルバムである。彼等とアコースティック音楽というのは意外な組み合わせに思えるかもしれないが、メンバー自身、アコースティックの音楽を聴くのが好きで、いつかはアコースティック・アルバムを作りたいなと話していたとUKIのブログに綴られている。それがとうとう完成したのだ。
 最初に流れてきたのは、アコギが奏でるノリのいいイントロであった。一曲目の「MutRon」は、原曲はおどろおどろしいイントロから始まり、奇妙で不思議な歌詞が印象的な曲であったが、その印象はまったく消え去っていた。UKIの歌い方も少しかわいらしい感じになっていて、奇妙な歌詞がなんだか楽しく思えた。アレンジによって、こんなにも原曲の印象を覆されてしまい、一曲目からこの作品の魅力に引き込まれてしまった。「モンゴルフィエの手紙」のような、原曲がアコースティックっぽい曲もアレンジされている。初めて収録曲を知ったとき、アップテンポな曲が収録されていることよりも、このような曲があえて収録されていることのほうが驚いた。この曲も自然と身体を横に揺らしたくなるリズム感で、UKIが吹いているハーモニカの伸び伸びとした音色が心地良い。そしてさりげなく奏でられているヴァイオリンの音色が、この曲の切ない雰囲気にぴったりである。「ROLLIE」はライブで演奏すれば絶対に盛り上がる彼等の代表曲であるが、それがもうよくもこんなにやってくれたな!というくらい別世界になっていた。エコーの効いたアコギの音色と子守唄のように優しいUKIの歌声が、まさに夢の中にいるかのようにただただ広がっていく。おちゃめな小さい女の子のような原曲が、綺麗な大人の姿に生まれ変わったように感じられた。
 「Jammin'」という曲に〈ハレルヤサーカスの鳥たち波に乗った〉という歌詞がある。このアルバム名はこの歌詞からきていて、同じ名前を彼等が立ち上げたレーベルにも名づけている。この歌詞のように、この作品は彼等にとって思い入れのある記念すべき作品であり、今後に繋がる大事な作品でもあるだろう。これが新たな彼等の出発点なのだ。たくさんの想いが詰まったこの作品を、ファンはもちろんSHAKALABBITSの音楽を聴いたことのない人達にも聴いてほしい。(日高 玲央奈)

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。