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20150601

【レビュー】Lillies and Remains 『ROMANTICISM』

ロマンティックが止まらない

Lillies and Remains
ROMANTICISM
Fifty One Records, 2014年
 ああ、いつもそうだ。ゾクゾクするくらいクールでいて、またどうしようもなくなるほどに切なくさせる。焼け付くくらいに胸を焦がされる。こうしていつも私の心をかき乱していくんだ。Lillies and Remains (以下リリーズ)、彼らの音楽にはいつも良い意味で翻弄されてばかりだ。今回、約3年半ぶりのフル・アルバムとなったリリーズの新譜『ROMANTICISM』は、聴いたものの感情を狂おしくなるほどかき乱す。曲から、そして歌詞から溢れる切なさと、やるせなさ。今作の彼らはまた、今までの作品とは違う新たな新境地にたどり着いている。
 今年は6月に約5年、バンドでベースを務めていたNARA MINORUが脱退し、KENT(Vo./Gt.)とKAZUYA(Gt.)の新体制が始動した年であった。今作『ROMANTICISM』は新体制後、初のアルバムとなる。制作するにあたって、元SOFT BALLET、現minus(-)の藤井麻輝がプロデューサー兼、レコーディング・エンジニアとして参加した。従来はバンドのソングライターであるKENTを中心に曲作りをしていた彼らだが、今回新たに藤井が加わったことで曲層の幅が広がりを見せ、楽曲から人間味が垣間見えるようになった。
 10月12日に盟友PLASTICZOOMSと共催したオールナイト・イベント「BODY」で今作の楽曲を初めて聴いた時は、彼らの見せる新境地に強く胸が躍った。アルバム1曲目の電子音バキバキ、且つギターが唸りをあげるインダストリアルなナンバー「BODY」は、聴いたものの本能を解放させ、踊らずにはいられなくさせる。メロウなメロディーが醸し出す寂寥感が胸をしめつけるのが2曲目の「Go Back」。ラストにかけて、80年代感のある煌めくシンセサウンドにのるKENTの高音域の歌声、そしてコーラスワークが、さらに胸をしめつける。これがたまらない。さらに特筆したいのが4曲目、「Like the Way We Were」。これまでのリリーズでは聴いたこともない特徴的なギターのリフ、疾走感のある爽快なメロディーとサウンドが癖になる。
 『ROMANTICISM』という新たな礎を元に、今後も新体制で進んでいく彼らのポテンシャルに期待しかしていない。そして、私はこれからも彼らの何者にも侵されない意志を、今までと変わらずに貫いていく美学と矜持を、見届けていきたい。(コイズミリナ

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150530

【レビュー】ROTH BART BARON 『ロットバルトバロンの氷河期』

光のように降りそそぐ美しい音のヴェール

ROTH BART BARON
ロットバルトバロンの氷河期
Felicity, 2014年
 今年もだいぶ冬めいてきた。子供の頃は、冬の訪れにとてもワクワクしていたし、雪が降らないかな、なんてうずうずしながら過ごしていた私も今や成人を過ぎ、大人になってしまったな。今やもうあの頃感じていたはずの豊かな気持ちなど薄れて、感受性が鈍くなっていくのを日々感じながら、私は去年の今頃に生まれたこの作品を手に取る。
 東京出身の2人組、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン、以下RBB)待望の初アルバムである『ロットバルトバロンの氷河期』。この作品を作るにあたり、彼らは念願であった海外でのレコーディングを行った。場所はアメリカのペンシルヴァニア州フィラデルフィアにある名門スタジオ、マイナー・ストリート・レコーディングス。またミックスはザ・ナショナルなどを手掛るジョナサン・ロウ、2曲のプロデュースと録音は、ザ・ウォー・オン・ドラッグスなどを手がけるブライアン・マクティアーが手掛けている。
 作品全体からは、冬の明け方から、早朝にかけての時間帯のような、ひやりとしていても、どこか温い日の光を感じる独特の空気感が漂っていて、不純物の無い、まっさらで澄み渡った世界が広がっている。そして、RBBを象徴する三船雅也(Vo./Gt.)の美しいファルセットが響く歌声と、時に優しく爪弾かれ、時に強い意志を持って刻まれるアコースティック・ギターの音を軸に、中原鉄也(Dr.)の大地を這うようなドラミングと、トランペットやトロンボーンをはじめ、バンジョーやピアノ、グロッケンなどの多数の楽器たちが、聴く者を壮大で美しいRBBの世界に誘う。また、なにも取り繕わない、感情をむき出しにしている歌詞は、まるで子供の頃のような、まっすぐで純粋な気持ちをぶつけてくる。作詞はすべて三船が担当しているが、彼の紡ぐ歌詞は、非現実のようでいてどこか現実味もある、不思議な感覚に陥る歌詞を書く。日常とお伽話の境界線を溶かしていくストーリー・テラー、三船はその目でどんな世界を見ているのだろうか。RBBの紡ぐ"物語"にどんどん惹かれていく。
 大人になっていくにつれ、日々を早々と過ぎる時間に急かされ、煩雑な人間関係に神経をすり減らす。偽りの自分を演じていくたびに、心はすり切れ、凍りつく。そんな凍りつく心に、RBBの音楽は染み込んでいく。まるで雲間から降りそそぐ薄明光線の光のような荘厳で美しいその音は、心の蟠りを溶かしていく。(コイズミリナ

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。
 

20150528

【レビュー】Temples 『Sun Structures』

洗練されたハイブリッド・ミュージック

Temples
Sun Structures
Heavenly Recordings, 2014年
 イギリスのミッドランズ出身の4人組、テンプルズ。彼らを始めて目の当たりにしたのは昨年11月のHostess Club Weekenderでの初来日公演だった。2012年に結成したばかりのバンドとは思えない完成された音像、メンバーの優雅な佇まい、新人らしからぬ風格と雰囲気に惚れ込むのに時間など必要なかった。筆者にとって、"サイケデリック"といえば、強烈に歪んでいる音像、そして独特の浮遊感と、醸し出されるキラメキに酔ってしまう音であるが、まさにテンプルズの音に触れたあの瞬間は、初めて生で感じた"サイケデリック"という音の原体験であると言えた。
 バンドのフロントマンであるジェームス・バックショー(Vo./Gt.)の自室ですべて宅録したという『Sun Structures』。宅録ならではの自由度の高さを生かし、往年のピンク・フロイドやバーズから、最近のテーム・インパラに至るまで、新旧のサイケデリック・ミュージックや、プログレ、フォークなどあらゆる音楽性を飲み込んで昇華させている。あらゆる音楽性を巧みに調理したことで、まるで万華鏡を見ているようなキラメキと、霞がかった艶めきと妖しさのあるテンプルズ独自のサウンドに仕上がっている。
 『Sun Structures』は、1曲目の「Shelter song」からイントロの12弦ギターのリフより聴くものを幻想的なテンプルズの世界へ引き込ませていく。タイトル曲である2曲目「Sun Structures」以降も、色気のあるムード感たっぷりな「The Golden Throne」、曲から漂う哀愁感がいたたまれない感情を呼び起させる「Move With The Season」、1曲目とはまた異なる、甘美でうっとりとさせる12弦ギターの響きが印象的な「Colours To Life」など、テンプルズの楽曲は、1曲1曲の中毒性がかなり高く、聴く者を幻想世界にトリップさせてくれる。と同時に、どこかスマートさに感じる楽曲たちに陶酔せずにはいられなくさせる。
 彼らは今現在で既に4度目の再来日が決まっている。そして既に世界各地のフェスへ引っ張りだこであったし、スウェードやカサビアンなど大物バンドの前座を務めたりもしていて、ここ最近で数々の大きな場数を踏んできているテンプルズ。今後もさらに躍進していくだろう。彼らは間違いなく大きなバンドへなっていく逸材である。(コイズミリナ

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 本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。