20150517

YIM寄稿者によるメタル座談会:その4

 asatte+メタル企画4回目。今回が最終回となります。ここまで触れられてこなかったジャズやクラシック、ポップスとメタルの関係についてみていきます。

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——最後は板垣さんのセレクトです。板垣さんにはメタルと他のジャンルとの親和性という観点で、年代やジャンル問わず広く選盤してもらいました。

■ 山下洋輔トリオ「キアズマ」

——音源は山下洋輔トリオのヨーロッパで75年に演奏されたライヴ音源。ドラムは森山威男、アルトサックスが坂田明です。

堀中:正直聴いてみたかったんですよ。僕は聴いたんですけど、これがメタルには全く聴こえないですね。

佐久間:僕も聴こえなかったです。どこにメタルっぽさを板垣さんが感じているのかを聞きたくて。

板垣:全然メタルに聴こえなかったですか?

——メタルよりもジャズのほうが馴染みがあって、普通にジャズとして聴いていました。主にメタルっぽいなと思うのは、どの楽器ですか。

板垣:どの楽器が、というより全体的にメタルを感じます。音の詰め方がすごくスレイヤーっぽいなと私は思って。

——曲中にあまり隙間を作らない感じというか。

板垣:そうです。前ノリというか。R&Bとかは溜めていくじゃないですか。そうではなくて前のめりに音を鳴らしている感じが、ハードロックとかメタルっぽいなと。山下洋輔さんや、同時期のフリージャズ、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(Art Ensemble Of Chicago)とかを聴くと、楽器が叫んでいるように聴こえる。

佐久間:スレイヤー的というと、ドラムはそういうところがあるかもしれないですね。ポール・ボスタフではなくデイヴ・ロンバートにはそういう感じがあると思う。

堀中:ドラマーがこういうジャズに影響を受けているというのはあるかもしれない。このアルバムも75年発表でスレイヤーの結成よりも前の作品だし。

佐久間:確かに、オーペスのドラムはジャズ的なところとも隣接してる気がします。

——この曲の終始一貫した焦燥感というか執拗に音を鳴らし続ける感じは、最近のライヴでも変わってないですよね。あと、メタルを感じるジャズとして座談会の前にバッドバッドノットグッド(BadBadNotGood)も挙げていました。


■ バッドバッドノットグッド(BadBadNotGood)「Bugg'n」

板垣:いま、またニュージャズみたいな面白いジャズが沢山出てきていて、そういうのがメタルとクロスすることがないのかなあと。ジャズが変わったら、ロックひいてはメタルも変わるように思っていて。ジャズは色んな模索を経て現在のニュージャズに至る訳ですけど、さっきのようなフリージャズが壊して生んだものも含めて、ジャンルを超えた地殻変動が起きないかなと期待しています。かつてミクスチャーが生まれてアーティストたちが様々な方向を向いていた時代みたいな動き。ロバート・グラスパー(Robart Glasper)ニルヴァーナ(Nirvana)の「Smells Like Teen Spirits」をカヴァーしましたけど、グランジを黒人音楽のノリに変えてしまっていた。エレクトロの分野からもフライング・ロータス(Flying Lotus)とかみたいにジャズの影響を受けて新しい音を作る動きがある。

——ジャズとその他のジャンルが相互に混ざり合っていく流れがここ最近ずっとあると。

板垣:ニュージャズでも、バッドバッドノットグッドみたいに白人の側からの回答も。今のところ、ニュージャズで楽器が叫ぶ系はないように思うけど、これから出てきてもおかしくないのではと。

——ジャズは、ビバップとかモードとか理論的な面での変化や進歩があったように思います。メタルについてもそういった理論的な進歩や新しい奏法などが今でも登場しているのでしょうか。

佐久間:現在では全くないと思っています。さっき取り上げられたオーペスも最初の方がすごく斬新なんですよね。プログレとデスメタルの要素があって。マストドンも初期よりもだんだん70年代の要素がどんどん増えていて、トラディショナル化するというか。最終的に皆そういう方向に行ってるんじゃないかって。

堀中:個人的には、音楽的に進歩したとか新しかったのはパンテラ(Pantera)の登場までかなと。

板垣:そうですね。

堀中:ああいうヘヴィなリフでというのはパンテラが最後で、その後はそれまでの要素の組み合わせというか。

板垣:パンテラから影響を受けて他の要素を取り入れているバンドはすごく多いですよね。


■ アンエクスペクト(Unexpect)「Desert Urbania」

板垣:その名の通り、予想外の展開をするという。スイング・ジャズみたいなものがベースにあるような感じがします。アヴァンギャルド・メタルと言われているようなジャンルの一つかなと思います。

佐久間:展開が凝っているメタルの中でも、ポップなものとそうでないものがあると思いますが、これはすごくポップですよね。プロテスト・ザ・ヒーロー(Protest the Hero)とかと同じような。

板垣:あの路線に近い感じではあります。メロディがあるようなないようなというか、途中でメロディを壊してまたメロディを作るような感じ。ジャズの要素にクラシックとメタルの要素が入ってるようなイメージがします。

佐久間システム・オブ・ア・ダウン(System of a Down)とかにも近いですよね。彼らがアヴァンギャルドなメタルの一番有名どころかもしれない。

——アンエクスペクトはカナダのバンドですね。

堀中:カナダってこういうプログレっぽいというか、テクニカルなバンドが多いような。

佐久間:プロテスト・ザ・ヒーローがまさにカナダですよね。

板垣:そうそう。プロテスト・ザ・ヒーローのようなテクニカルでかつエモっぽいサウンドがすごく受ける国なんですよね。

——エモについてはここまで何度か話に出てきましたが、メタルから派生している部分もあるんでしょうか。

佐久間:それはないですね。エモはハードコアです。元々エモはフガジ(Fugazi)のイアン・マッケイですよ。イアン・マッケイと、ジョーボックス(Jawbox)のJ.ロビンスが2大巨頭ですね。そこからポスト・ハードコアを経由しての泣きっぽい歌とかメロディとか。

——ハードコアを出自に発展していったという。

佐久間:そうです。あとはポスト・ロックとかと接合していってという。

堀中:そういうところの際にあったのが、先日来日したミネラル(Mineral)とか。ミネラルもライヴ見てるとハードコア。アンプは持ってきてなくて、ライブハウスにあるマーシャルのアンプに直差しでギター振り回しながら演奏してて。でも、音は綺麗なメロディで、やっぱエモはハードコアなんだなあと。

——ハードコアとメタルというジャンルの成立時期を大まかにみるとハードコアの方が遅いですよね。

佐久間:遅いと思います。

堀中:ここでいうメタルの源流には70年代後期のNWOBHMがあって、ハードコアはその後(80年代以降)ですね。メタルはNWOBHM、つまりヨーロッパのイメージが強いですけど、一方のハードコアについてはUKのハードコアもありつつも、やっぱりアメリカのハードコアが与えた影響が大きいイメージがありますね。

佐久間:ロンドン・パンクに影響を受けた人たちが更に激速化していったのがアメリカですね。

堀中:そういう感覚の違いがあって、ルーツを辿っていった時に、ヨーロッパかアメリカかという。


■ ワーグナー「Twilight of the Gods」

板垣:どちらかというと神様が出てくるよりも悪魔が出てきそうな感じなんですけど。ドイツのハロウィン(Helloween)というバンドが、これに影響されて同名の曲をリリースしています。(アルバム『守護神伝 -第一章-(Keeper Of The Seven Keys Part 1)』に収録)

——ワーグナーはロマン派の作曲家ですね。座談会にあたってバッハの話も少し出てたように記憶していますが、メタルとクラシックの結びつきについてもう少し話を聞かせてください。

板垣:ロックって元々ブルースからきているじゃないですか。クラシックは自分たちの白人の音楽だからロックに取り入れられるんじゃないかということで、最初に取り入れたのが多分ビートルズだと思うんですけど、それをハード・ロックに取り入れていったのが、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer)のキース・エマーソンとかディープ・パープル(Deep Purple)のジョン・ロードだと思うんですね。取り入れる時に、今までのクラシックのモードみたいなものを新しいコードに変更したとリッチー・ブラックモアも言っていて、その辺が今のバンドにどう生きているかというのがわかったら面白いと思ったんですけど、私はその辺はあまりわからない。

佐久間:かなり技術的な話ですね。

板垣:そうですね。ただ、シンフォニックなメタルの和音の進行は、クラシックからの影響が大きいみたいですね。各アーティストがクラシックの進行を微妙に変化させて使っているのかなと。

——佐久間さんがさっき話していた変化とは逆方向での話ですね。ドローンとかと結びついて和音とか関係ない世界に行ってしまう一方で、あくまでもロジカル/技巧的に進歩させていくベクトルもあると。

板垣ダニエル・ラノワ(Daniel Lanois)のソロの「Opera」という曲を聴いたときにも、メタルっぽさを感じたんですよね。U2とかハード・ロック/ヘヴィ・メタルのプロデューサーなんですけど、最近はメタルっぽい実験音楽を作ったり、逆にスティールギターで和みの音楽やったりしています。実験音楽とはいえ、和音の基礎があった上で外してるみたいに思えます。自分がクラシックの中にハード・ロックを初めて感じたのは、友人の演奏会でだったんですけどね。

——それはフレーズのニュアンスとか、雰囲気があるとかそういったものですか。

板垣:そうだと思います。あとはヘヴィな感じがあるとか。ハード・ロック/ヘヴィ・メタルに陽性と陰性とあるとしたら、陰性なものにはそういった暗さや重さを求めてしまいますね。現実でのストレスや嫌な感情を忘れさせてくれる音、みたいな。あと『Metal Evolution』を書いたサム・ダン監督が言うには、ワーグナーの音を低音にしたものがハード・ロック的で、例えるとワーグナー=ディープ・パープル、ベートーベン=レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)、バッハ=ヴァン・ヘイレン(Van Halen)とか。


■ BABYMETAL「紅月」

佐久間:完全にX JAPANですよね。

板垣:私は「メギツネ」を聴いてBABYMETALにハマりました。でも歌い方が荻野目洋子さんとかのような日本のアイドルの歌謡曲。発声も基本ストレートな発声ですね。ペンタトニック・スケールで演歌にも近いかもしれない。いわゆるブラック・ミュージックのニュアンスとは違いますよね。

堀中:ライヴで「紅だー!」と叫ぶのではなく「アカツキだー!」と叫ぶ部分があって。そういうところまでオマージュするのかと。SU-METALはぎりぎり(97年12月生まれ)だけど、他のメンバーはX JAPANの解散後に生まれているし、もうX JAPANを知ってるとか知らないとかの話ではない。

板垣:X JAPANの要素に、アニメソングの要素に、アイドルJ-POPの要素に、B'zの要素もちょっと入っているように思って聴いてました。キバオブアキバとスプリットのシングルを出してたりとか、アキバ系の要素もあるかなと。

——アキバ系、という話ではメタル自体が日本だとオタク的なイメージもある音楽なのかなと思うのですが。

佐久間:そうですよね。板垣さんの話に出てたものって全部オタク×オタク×オタク、みたいに変換できるなって。

堀中:ファンとしても、一般的なところからはそう思われているという意識がメタラーと言われている人達はあって。それで閉鎖的になっているような感じがあります。例えば、とても有名なとある少年犯罪が報道されたとき、ワイドショーでは犯人はメガデス(MEGADETH)のファンだったと報道されたこともありました。他の事件でも、犯人が少女アニメファンだったとかって報道されてしまうのと近いというか。

佐久間:アメリカでも、少年犯罪者がスリップノットやマリリン・マンソン(Marilyn Manson)を聴いてたという話はありますもんね。

堀中:そういうところからの防衛本能のようなものが働いて、メタラー側が壁を作らざるを得ないというか、どうせそう思われているんだろうという感じでオープンになりきれない部分もある。海外も同じなのかもしれない。

——B'zっぽいっていうのはどんな感じですかね。

堀中:B'zっぽい=ジャパメタっぽいサウンドかなと思いますよ。日本語の問題もあると思うんですけど、メロディーから受ける印象が歌謡曲とかJ-POPを思わせる感じがあって、いわゆる洋楽っぽくない。

板垣:「いいね!」のイントロがB'zっぽいんです。Exective Producerに、Inabametalって名前があるんですよね。稲葉さんではないにしても、影響を受けてる誰かとか。

——「いいね!」は途中でゆるいラップが入っていたり、メタル度は低くくてアニソン的にも聴けますね。

堀中:J-POPのミュージシャンにメタル出身者が多かったのもあって、意識していないところでそういう要素が入り込んでいる可能性はありますよね。UNICORNTHE YELLOW MONKEYとかも、かつてメタル・バンドをやっていたメンバーがいたりしますしね。

——元々メタル的なものを刷り込まれていたんじゃないかと。

堀中:BABYMETALは、最新曲「Road of Resistance」でメンバーにメタルをやってるという自我がかなり出てきている感じがします。

——彼女達のサウンドに近いメタルのバンドっているんでしょうか。

堀中:新曲はドラゴンフォース(Dragonforce)のメンバーがギターを弾いていますが、いろんなものが混ざってるような。

板垣:一番近いなと思ったのはCrossfaithとか。

佐久間:Crossfaithはメタルともちょっと違うような。

堀中:Crossfaithはハードコアのイメージが強いですね。日本ではあまりメタルって感じじゃない。

——ハードコアとメタルの対比はこれまでの話の中でもよく出てきたポイントですね。

佐久間:日本のラウドロックシーンって特殊じゃないですか。これもそうだけど、Pay Money To My PainとかColdrainとか。このあたりはラウドロックという日本独特の括り方があって、Crossfaithもそっちに近いですね。

——なるほど。BABYMETALが広く聴かれているのは、メタルがどうこうというより、日本にはラウドロック的なバンドが結構いっぱいいて、そういったサウンドがポップスの中にもそもそもあったからなんじゃないかと。

堀中:それにも少し関連しているのですが、UK・Metal Hammer誌とUS・Revolver誌で、2014年5月に行われたBABYMETALのUK公演の後、BABYMETALに興味をもった人におすすめの日本のバンドを紹介した記事があります。

<BEYOND BABYMETAL: THE NEW WAVE OF J-METAL>
・FEAR, AND LOATHING IN LAS VEGAS
・MAN WITH A MISSION
・GALNEYRUS
・TOTALFAT
・SiM
・ONE OK ROCK
・MY FIRST STORY
・DAZZLE VISION
(参照元:Metal Hammer

<Six Totally Insane Japanese Metal Bands>
・BABYMETAL
・マキシマム・ザ・ホルモン
・MAN WITH A MISSION
・SIGH
・SAND
・SWARRRM
(参照元:Revolver Mag

——NEW WAVE OF J-METAL、と。

堀中:レコメンドされているのがONE OK ROCKとかMAN WITH A MISSIONで、日本ではロキノン系と言われているようなバンドも、UKのメディアからはメタルとして扱われていると。一方でアンダーグラウンドなものも取り上げられているんです。

佐久間:Boris、SWARRRMSIGHとかも。

堀中:紹介されてる文脈で考えると、BABYMETALのことをメタルかメタルじゃないかって気にしているのは日本だけなんじゃないのかと思いますね。今の20代くらいまではBABYMETALもONE OK ROCKも同じように聴いていて、それは海外でも変わらないんじゃないかなと。


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 1ヶ月にわたり定期連載してきましたメタル座談会は今回で終了となります。座談会を通し、元々ヘヴィ・ロックやプログレをルーツに形成されたメタルは、ハードコア的なものと交わり、理論的な面と身体的な面を両面持つことで、流動的にそれぞれのバランスを変化させながら様々なサウンドやいくつものサブ・ジャンルを生み出し続けているような印象を受けました。こうした流動性の中で、メタルはポップスからアンビエントまで、雑多なジャンルと結びついているのではないかと思います。本企画を通し何かメタルに対しての新しい視点や情報を得ることができていれば非常に嬉しく思います。最後までお読みいただきありがとうございました。