20130413

[asatte Vol.6](特集:子どもと音楽) 小川ワタル「子どもたちが踊るということ」


 平成24年度より、中学校の体育の授業においてダンスが必修化された。報道ではヒップホップ・ダンスのみが必修化されたような印象を受けるかもしれないが、実際はそうではない。新学習指導要領には、“「創作ダンス」「フォークダンス」及び「現代的なリズムのダンス」の中から、選択して履修できるようにする”となっている。
つまり、ヒップホップ・ダンスは履修できるダンスの種類の一つ「現代的なリズムのダンス」に該当するに過ぎないのだ。しかし、文部科学省の調査によれば、「生徒が取り組みやすい」などといった理由で、65%以上の学校がヒップホップなどの「現代的なリズムのダンス」を選択するとのことだそうだ。
これはいささか問題ではないだろうか。ヒップホップ・ダンスが悪いと言いたいのではない。私はこの事例から想像される、生徒の身体を通じた音楽体験の偏りを危惧するのである。
 

 文部科学省は、新学習指導要領に基づく中学校向け「ダンス」リーフレットを作成・公開している。試しにフォークダンスのページを開いてみる。すると、挙げられている曲目の例だけでも、実にヴァリエーション豊かだ。例えば、日本の民謡では、阿波踊り、ソーラン節、エイサー、花笠音頭、炭坑節、よさこい節。外国のフォークダンスでは、マイム・マイム、オクラホマ・ミクサーなどが挙げられている。日本や外国の風習、歴史などの文化的背景を知るにはもってこいではないか。それなのに履修されるのはヒップホップばかりでフォークダンスが選ばれていないのは、やはりもったいないと感じる。

 たしかにヒップホップのリズムは身体に訴えかけやすいかもしれない。Jポップなどで普段耳にしているので踊りやすいというのもあるだろう。しかし、そうした脊髄反射的な反応を子ども達は能動的なものと錯覚し、踊りを強制されていることに気付かない、そういった人間を育てることにつながらないだろうか。いや、民族国家の形成と少なからず関わりを持ってきた踊りそのものが既にそういった危険性を孕んでいるのだから、ヒップホップに限らず創作ダンス、フォークダンスでも変わらないと思われるかもしれない。しかしそれでも、創作ダンスならば、自ら踊りを構成することで能動性を確保できるだろう。そしてフォークダンスでは、それまで馴染みのなかったリズムを身体で捉えようとすること、それだけで他者を理解しようと努める実践となるのではないか。

 もちろんヒップホップでも、その文化的背景を知ることは可能だろう。しかし、先述の履修選択の圧倒的な偏りからして既に、残念ながら文化を相対的に捉えようという姿勢は見られず、ダンスそのものをそのように深くは捉えていないように思われて仕方がないのである。