徹底して美しいギター・ノイズ・アルバム

"ノイズ"とは、人間が定義した規則から外れたもの。不要なもの。過剰なもの。あるいは居心地の悪いもの。そう考えると、我々の日常はノイズの中に存在しているように思える。そのノイズは果たして醜いものだろうか。「美しさ」と「醜さ」、「調和」と「不協和」がそれぞれ表裏一体だとして、必ずしも「美しさ」と「調和」が同じ対象に宿ることはなく、ノイズの中にだって美しいものは存在するに違いない。そんなことを、本作の幕開けとなるノイズ・オーケストラ「救世なき巣」を聴きながら考える。THE NOVEMBERSが前作『zeitgeist』に引き続き自主レーベル"MERZ"からリリースした『Rhapsody in beauty』は、ノイズで美しさを表現した作品だ。
作品を支配する耳をつんざくギター・ノイズ、それはさながら猛獣のようだと思う。容易に手懐けることはできない暴力的な猛獣を、完全にコントロールする戦い。思えば、ジミ・ヘンドリックスやケヴィン・シールズは卓越した猛獣使いだろう。そんな猛獣にTHE NOVEMBERSは戦いを挑んでいる。彼らが尊敬の眼差しを向けてきたBorisやdownyもそうして来たように。コントロールを誤れば、音楽はたちまちノイズに飲み込まれてしまう。しかし、本作には重厚なノイズにも埋もれない存在感を主張するメロディーがある。地を這うように疾走するロック・ソング「Blood Music.1985」や、ムーディーな「Romancé」は、ノイズを楽曲の一要素としながら、豊かな力強さを持った歌だ。この作品におけるノイズとは、ジョン・ケージの「4分33秒」で日常の雑音が音楽として扱われるように、日常そのもののモチーフなのだ。
アルバムは<どこの誰がなんと言おうと 僕らはただひとつの幸福だったんだよ>というフレーズで締めくくられる。幸福、それは例を挙げるなら、この作品のリリース前にバンドの中心人物である小林祐介が娘を授かったように、身近で手触りのあるものだろう。そんな日常の中にある美しさの表現が、ノイズとのコントラストによってより一層際立っている。この作品におけるノイズとは、不穏さや邪悪さをもたらすエフェクティヴなものとしてではなく、あくまでモチーフとしてのもの。だから、このロック・アルバムには強烈な存在感がある。2014年の音楽シーンにおいても、全く埋没する余地もないほどに。(堀中 敦志)
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本原稿は今年1月にBCCKSにてリリースしました『YEAR IN MUSIC 2014』( http://bccks.jp/bcck/130107/info )に掲載した年間ベスト・ディスク・レヴューです。『YEAR IN MUSIC 2014』では、このディスク・レヴューの他にも50本以上に及ぶディスク・レヴューの他、シャムキャッツへのインタビューや書評、再発盤レヴューも掲載されております。PCまたはスマートフォンにて閲覧可能ですのでぜひご覧ください。